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16. 甘い午後と、こぼれた本音
宰相家の馬車が門前に止まったのを見たとき、胸が少し高鳴った。
(落ち着いて、エリシア)
応接間に入ると、レオンハルト様が立ち上がる。
今日も非の打ち所がない装い。
完璧な姿勢。冷静な表情。
けれど視線が合った瞬間、ほんの一拍だけ間があった。
「お迎えありがとうございます」
「いえ。約束ですから」
簡潔で整ったお返事。
でも手を差し出す指先が、わずかに力んでいる。
(緊張なさっている……?)
その事実が、少しだけ嬉しい。
⸻
馬車の中
向かい合って座ると、微妙な距離に少しだけ意識が向く。
「本日は評判の菓子店へご案内いたします」
「楽しみにしておりました」
そう申し上げると、彼は少しだけ視線を伏せた。
「……過度な期待はなさらないでください」
「なぜですか?」
「私は女性の好みに精通しているわけではありません」
どこか硬い声音。
「レオンハルト様がお選びになったのでしょう?」
「ええ」
「では、それだけで十分です」
ぴたり、と沈黙が落ちる。
そして彼は、ほんの少しだけ息を吐いた。
「……そういう言い方は、あまり好ましくありません」
「なぜでしょう?」
「……期待を抱かせます」
思わず瞬きをする。
「私が、ですか?」
「ええ」
視線が合う。
真っ直ぐで、逃げ場がない。
「あなたは、無自覚にそのようなことを仰る」
わずかに低い声。
でも怒っているわけではない。
むしろ――困っている。
(どうして困るのでしょう)
「では、申しません」
言うと、彼はすぐに否定した。
「いえ、やめる必要はありません」
一瞬の間。
そして、静かに。
「……嫌ではありませんから」
その言葉は、とても小さかった。
⸻
王都高級菓子店
三段のティースタンドが運ばれてくる。
「わあ……」
思わず声がこぼれる。
その瞬間。
レオンハルト様の表情が、ふっと緩んだ。
はっきりと。
今までで一番わかりやすく。
「お気に召しましたか」
声も、少しだけ柔らかい。
「はい、とても」
そう答えると、彼は本当に安心したように目を細めた。
「それは何よりです」
「……あなたが嬉しそうにしていると、こちらも落ち着きます」
一瞬、時が止まる。
(今、なんと)
彼も気づいたのだろう。
はっとしたように視線を逸らす。
「理屈の話です。場の空気が和らぐという意味で」
付け足すのが少し早い。
少し顔も赤い。
「嬉しいです」
素直にそう告げると、彼は困ったように眉を寄せる。
「あなたは……」
「はい?」
「……本当に真っ直ぐでいらっしゃる」
少しだけ諦めたような声音。
それから。
静かに、けれどはっきりと。
「本日は、来て良かったと思っております」
社交辞令ではない。
計算でもない。
今のはきっと、本音。
「私もです」
そう返すと、彼はわずかに目を細めた。
完璧な微笑ではない。
少しだけ照れを含んだ、柔らかな表情。
甘い香りの中で思う。
この方は、
簡単には甘くならない。
けれど。
ほんの少しこぼれる本音は、
どんな菓子よりも甘い。
そしてその甘さを、
私はもう、知ってしまったのだ。
(落ち着いて、エリシア)
応接間に入ると、レオンハルト様が立ち上がる。
今日も非の打ち所がない装い。
完璧な姿勢。冷静な表情。
けれど視線が合った瞬間、ほんの一拍だけ間があった。
「お迎えありがとうございます」
「いえ。約束ですから」
簡潔で整ったお返事。
でも手を差し出す指先が、わずかに力んでいる。
(緊張なさっている……?)
その事実が、少しだけ嬉しい。
⸻
馬車の中
向かい合って座ると、微妙な距離に少しだけ意識が向く。
「本日は評判の菓子店へご案内いたします」
「楽しみにしておりました」
そう申し上げると、彼は少しだけ視線を伏せた。
「……過度な期待はなさらないでください」
「なぜですか?」
「私は女性の好みに精通しているわけではありません」
どこか硬い声音。
「レオンハルト様がお選びになったのでしょう?」
「ええ」
「では、それだけで十分です」
ぴたり、と沈黙が落ちる。
そして彼は、ほんの少しだけ息を吐いた。
「……そういう言い方は、あまり好ましくありません」
「なぜでしょう?」
「……期待を抱かせます」
思わず瞬きをする。
「私が、ですか?」
「ええ」
視線が合う。
真っ直ぐで、逃げ場がない。
「あなたは、無自覚にそのようなことを仰る」
わずかに低い声。
でも怒っているわけではない。
むしろ――困っている。
(どうして困るのでしょう)
「では、申しません」
言うと、彼はすぐに否定した。
「いえ、やめる必要はありません」
一瞬の間。
そして、静かに。
「……嫌ではありませんから」
その言葉は、とても小さかった。
⸻
王都高級菓子店
三段のティースタンドが運ばれてくる。
「わあ……」
思わず声がこぼれる。
その瞬間。
レオンハルト様の表情が、ふっと緩んだ。
はっきりと。
今までで一番わかりやすく。
「お気に召しましたか」
声も、少しだけ柔らかい。
「はい、とても」
そう答えると、彼は本当に安心したように目を細めた。
「それは何よりです」
「……あなたが嬉しそうにしていると、こちらも落ち着きます」
一瞬、時が止まる。
(今、なんと)
彼も気づいたのだろう。
はっとしたように視線を逸らす。
「理屈の話です。場の空気が和らぐという意味で」
付け足すのが少し早い。
少し顔も赤い。
「嬉しいです」
素直にそう告げると、彼は困ったように眉を寄せる。
「あなたは……」
「はい?」
「……本当に真っ直ぐでいらっしゃる」
少しだけ諦めたような声音。
それから。
静かに、けれどはっきりと。
「本日は、来て良かったと思っております」
社交辞令ではない。
計算でもない。
今のはきっと、本音。
「私もです」
そう返すと、彼はわずかに目を細めた。
完璧な微笑ではない。
少しだけ照れを含んだ、柔らかな表情。
甘い香りの中で思う。
この方は、
簡単には甘くならない。
けれど。
ほんの少しこぼれる本音は、
どんな菓子よりも甘い。
そしてその甘さを、
私はもう、知ってしまったのだ。
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