女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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17. 灯の下の嫉妬と、守ってくれる人

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春の社交会。

音楽と笑い声が広間に満ちる。

一妻多夫のこの国では、
女性は選ぶ側。

それでも。

選ばれる価値が高い女性は、
同時に――妬まれる。


「エリシア様」

甘く、絡みつくような声。

振り向くと、男爵令嬢が微笑んでいた。

艶やかな赤のドレス。
自信に満ちた瞳。

「ごきげんよう」

「最近、随分と注目を集めていらっしゃいますわね?」

扇子越しの視線が鋭い。


「騎士団長家のご子息に、宰相家のご子息。……それに」

少し声を落とす。

「セドリック様まで」

周囲の令嬢が、さりげなく耳を澄ませる。

「やはり“魔力”が高いと違いますわね?」

にこり、と笑う。

「殿方は、結局そこをお求めになるのでしょう?」

(……なるほど)

直接的な悪意ではない。

けれど、十分に刺さる。

「私どものような家格では、魔力量など努力ではどうにもなりませんもの」

哀しむような声。大袈裟な身振り。

「生まれつき選ばれるなんて、羨ましい限りですわ」

“あなた自身ではなく、魔力が理由”

そう言いたいのだ。

胸が、少しだけ痛む。

確かに私は魔力が高い。

それは事実。

けれど――



「それは、少々誤解があるようですね」

低く、落ち着いた声。

振り向く。

セドリック様が立っていた。

夜色の礼装に身を包み、余裕の微笑を浮かべている。

だが、その目は静かに鋭い。

「魔力が理由、ですか」

男爵令嬢が一瞬たじろぐ。

「い、いえ、そのような――」

「否定なさらなくて結構」

柔らかいが、逃げ場を与えない声。

彼は自然な動きで、私の隣に立つ。

距離が、近い。

守る位置。


「確かに魔力は重要です」

穏やかに認める。

「しかし」

ほんの一拍。

視線が、私に向く。

「私が惹かれた理由は、それではありません」

甘く優しい瞳で私を見つめてくるセドリック様。

男爵令嬢が目を見開く。


「エリシア嬢は、誰に対しても誠実だ」

静かな声。

「先程のあなたのように、不用意に他者を貶めることはしない」

痛烈な遠回し。

「それでいて、自分の価値を誇示もしない」

一歩、近づく。

「その在り方こそが、希少なのです」

私は息を呑む。

こんなふうに、真正面から肯定されたことはない。


セドリック様は微笑む。


そして、はっきりと。

「彼女の魅力は、彼女自身にあります」

男爵令嬢を真正面から見据えてはっきりと宣言した。


沈黙。

音楽だけが流れている。

男爵令嬢は言葉を失い、私をきっと睨んだ後セドリック様を避けるようにして

「失礼いたしますわ」

そう言って足早に去っていく。

静けさが戻る。


私はまだ、胸が熱い。

「……あの」

声が少し震える。

「そこまで仰っていただかなくても」


セドリック様は、わずかに目を細める。

「控えめなのも、あなたの美点だ」

穏やかな声。

「だけど」

少しだけ低くなる。

「エリシア嬢が軽んじられるのは、黙って見ていられないよ」

その言葉は、強い。

大人の余裕の奥に、確かな意思。

「魔力だけなどと言われて、黙っていられるほど私は寛容ではないよ」

微笑んでいるのに、迫力がある。


「……ありがとうございます」

小さく礼を言うと、彼はほんの少しだけ視線を和らげた。

「当然です」

一歩だけ距離が縮まる。

「あなたが選ぶ立場にあるのなら」

低く、静かに。

「私は、あなたに選ばれる理由を持ちたい」

胸が強く打つ。

それは誇示ではない。

焦りでもない。

自信と覚悟。

社交会の灯りの下。

私は初めて知る。

大人の男性の肯定は、

甘やかしではなく、

“価値を宣言すること”なのだと。
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