イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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最終章 第一話 最後の祭りが始まる、それは恋の終わりの始まり

火花散る企画会議と、奪い合いの“相談役”

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文化祭までの二週間。
それは、 LinkLive事務所がかつてないほどの熱狂と、甘い硝煙の匂いに包まれた、特別な時間だった。

俺、天城コウは“特別相談役”という名の、都合のいい便利屋として、各チームの準備に駆り出されることになった。
そして、その日々は、甘く、そして熾烈な“俺の争奪戦”と化したのである。



「――というわけで、本日の『兄妹イチャコラ♡思い出喫茶』メニュー試作配信、始めていきまーす!」

最初に俺が投入された戦場は、チームひよりが陣取る、事務所のテストキッチンだった。
簡易的ながらも本格的な調理器具と、複数のカメラが設置されたその場所で、俺はひよりに半ば強制的に、執事服風のエプロンを着せられていた。

「まずは、私とお兄ちゃんの思い出の味!『初めてお兄ちゃんが作ってくれた、ちょっぴりビターな大人の味♡焦げ焦げパンケーキ』から再現していくよー!」

「そのネーミング、悪意しか感じないんだが!?」

ひよりは、なぜか俺にボウルと泡だて器を渡してきた。
「“思い出の再現”なんだから、お兄ちゃんが作らないと意味ないでしょ!」と、満面の笑みで言い放つ。

コメント欄は、すでに《再現度高めてけ》《GMレイの料理スキルやいかに》と、最高の盛り上がりを見せている。……やめてくれ、俺の料理スキルは、中の下だ。

数分後。
鉄板の上には、見事に黒く炭化した円盤状の物体が、香ばしい……とは言い難い、文明の終わりを告げるかのような煙を上げていた。

「うんうん!この香り!懐かしいなぁ!」

ひよりは目をキラキラさせているが、俺の心は懐かしさよりも罪悪感でいっぱいだ。

「じゃあ、お兄ちゃん!最後の仕上げだよ!」

ひよりはそう言うと、完成した“炭”にメープルシロップを惜しげもなくかけ、フォークで一口サイズに切り分けた。
そして、そのフォークを、俺の口元に、すっと差し出してきたのだ。

「はい、あーん♡」

――時が、止まった。スタジオの喧騒も、流れ続けるコメントも、すべてがスローモーションになる。
目の前には、上目遣いでフォークを差し出す、義妹の姿。
頬はほんのり上気し、その瞳は期待に潤んでいる。

(ここから、ひより視点)

やった……!言えた!昨日の夜、ベッドの中で百回練習したセリフ。
これはただのファンサービスじゃない。

これは、“配信”という大義名分を使った、私からお兄ちゃんへの、全力のアプローチなんだから!見てなさい、夜々先輩。お兄ちゃんの“初めて”は、ぜんぶ私のものなんだから!お兄ちゃんの顔、真っ赤。

ふふ、可愛い。困ってる顔、もっと見たいな。
さあ、どうする?お兄ちゃん。これは“仕事”だよ?断れないよね?

俺は、数秒間完全にフリーズした後、全力で後ずさった。

「いやいやいやいや!待て待て待て!なんで俺が食う流れになってるんだ!?ていうか、“あーん”はダメだろ、配信中だぞ!」

「えー、なんで?“兄妹イチャコラ喫茶”なんだから、これくらい普通だよ?ほら、早くしないと、シロップ垂れちゃうよ?」

「ぐっ……!」

俺たちの攻防に、コメント欄は爆発的な盛り上がりを見せる。
《てぇてぇえええええええええ》《食え!コウ!それがお前の運命だ!》《ひよりちゃんの圧が強いwww》《これはもう、ただの夫婦》

結局、俺は観念して、恐る恐るその“炭”を口にした。……苦かった。
そして、なぜか少しだけ、甘かった。



ひよりの猛攻から命からがら逃げ出した俺が次に向かったのは、チーム夜々が稽古場として使用している、第一スタジオだった。
そこは、ひよりのキッチンとは対照的に、静かで張り詰めた空気に満ちていた。

「――メグ!違う!そこはもっと、絶望と悦楽の狭間で揺れる表情を見せなさい!」

ステージの中央で、女王のドレスを纏った夜々先輩が、男装の麗人となったメグに厳しい檄を飛ばしている。

「む、無理ッスよ夜々様!そんな顔したら、マジで全世界の女子が夜々様に惚れちゃうじゃないですか!」

「望むところよ!」

どうやら、稽古は完全に停滞しているようだった。
夜々先輩が書いた台本は、彼女自身の願望がこれでもかと詰め込まれた、超高糖度の恋愛劇。
そのあまりの熱量に、メグの理性が完全に負けていたのだ。

「はぁ……これじゃラチが明かないわね」
夜々はため息をつくと、スタジオの隅で見学していた俺に、くいと指先を向けた。

「天城くん。あなた、ちょっとこっちに来なさい」

「え、俺、ですか?」

「ええ。メグに“手本”を見せてあげるわ。あなた、王子役をやりなさい」

あまりにも無茶振りな展開。
だが、女王様の命令は絶対だ。

俺が観念してステージの中央に立つと、彼女は一瞬でその場の空気を変えた。
さっきまでの指導者としての厳しい顔じゃない。恋に落ち、愛に揺れる“女王”の顔だ。

「……来てくれたのね。待っていたわ、私の王子様」

その囁くような声に、俺の背筋がぞくりと震える。これは、演技だ。分かってる。でも……!

「ええ。あなたが、呼んでくれた気がしたので」

俺がアドリブで返すと、夜々先輩の瞳が、ほんのわずかに揺れた。
彼女は満足そうに、ふっと妖艶に微笑むと、ゆっくりと俺に近づいてきた。
そして、俺の胸に、そっと手を置いた。

「……あなたの瞳に映るのは、私だけでいい」

(ここから、夜々視点)

これは指導よ。
あの子に見せつけるための、ただのお手本。

……でも、天城くん。あなたなら、私の本気、受け止められるかしら?その瞳、揺れてるわね。可愛い。

もっと、揺さぶってあげましょうか。
恋に落ちる、その瞬間の“空気”というものを、あなたの全身に、刻み込んであげる。

顔が、近い。
シャンプーとは違う、少しだけ大人びた香水の匂いが、俺の理性を麻痺させる。

切れ長の瞳が、潤んで俺を見上げている。
唇が、触れるか触れないかの、ほんの数センチの距離で、ぴたりと止まった。

「……いいこと、天城くん?恋に落ちるというのは、こういう“空気”のことよ」

そのセリフを言う彼女の目は、完全に“本気”だった。
そのあまりにもリアルな熱量に、俺は息を呑むことしかできなかった。

「……私たち、今……何を見せつけられてるんだろう……」

稽古場の隅で、その光景を見ていたメグの呟きが、静かなスタジオに虚しく響いた。



夜々先輩の艶技(えんぎ)によって魂を抜かれた俺が、最後に向かったのは、チームみなとがお化け屋敷を設営している、事務所の倉庫だった。

中は薄暗く、機材や小道具が雑然と置かれている。
その奥で、みなとさんが一人、ノートPCの光に照らされながら、黙々とプログラミング作業をしていた。

「みなとさん、手伝えることは?」

「……あ、レイくん。ちょうどよかった。この人感センサーの感度調整、少し手伝ってもらえますか?」

俺は彼女の隣に屈み込み、PCの画面を覗き込んだ。
専門的なコードが並んでいる。

俺が「ここ、もう少し閾値を下げてみたら?」と助言すると、彼女は「なるほど……」と頷き、キーボードを叩き始めた。

静かな空間。聞こえるのは、キーボードのタイプ音と、俺たちの微かな呼吸音だけ。ふとした瞬間に、肩が触れる。PCの画面を覗き込むときに、彼女の髪が俺の頬をくすぐる。そのたびに、心臓が小さく跳ねた。

「……レイくんがいると、捗るな」

ぽつりと、みなとさんが呟いた。
その横顔は、PCの光に照らされて、どこか儚げで、美しかった。

(ここから、みなと視点)

……心拍数の上昇を検知。原因:被験者レイとの物理的距離の短縮。
……違う。これは、ただのデータじゃない。彼の匂いがする。
彼の体温を感じる。……嬉しい、と、思っている。
この静かな時間、誰にも邪魔されない、二人だけの空間。
……悪くない。ううん、すごく、いい。

その時、俺たちが二人で手を伸ばしたマウスの上で、指先が、そっと触れ合った。「あっ」「……ごめん」二人同時に謝って、視線を逸らす。
その気まずくて、でも甘い空気に、俺は自分の鼓動がどんどん速くなるのを感じていた。

ひよりのキッチン、夜々のステージ、そして、みなとの倉庫。
俺の時間は、文字通り秒単位で奪い合われた。

「コウくん、このプログラムのバグ、見てほしいッス!」

「天城くん、このセリフ、あなたならどう言うか聞かせて頂戴」

「お兄ちゃん、このエプロンの紐、結んで?」

俺は、嬉しい悲鳴を上げながら、彼女たちの“最後のステージ”を創り上げるために、全力で駆け回った。
この文化祭は、もはやただのイベントじゃない。
俺の心を巡る、甘くて危険な、恋の戦場そのものだった。
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