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最終章 第一話 最後の祭りが始まる、それは恋の終わりの始まり
最後の祭りの前に、君に告げる“宣戦布告”
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企画会議という名の、甘く熾烈な戦争が終わり、文化祭前夜。
事務所のイベントスペースは、祭りの前の独特な静けさと、心地よい達成感に満ちていた。
壁には各チームが作り上げた装飾が施され、床にはペンキの匂いや木材の香りがかすかに残っている。
数時間前までの喧騒が嘘のように、今はただ、スポットライトだけがステージの中央をぼんやりと照らしていた。
「――お疲れ様でしたー!」「また明日ねー!」
メンバーたちが、一人、また一人と帰路についていく。
誰もが疲労と、明日への期待が入り混じった、最高の笑顔を浮かべていた。
その背中を見送りながら、俺、天城コウは、ステージの袖で最後の備品チェックリストにペンを走らせていた。
長かったようで、あっという間の二週間だった。
ひよりの喫茶店のメニューに頭を悩ませ、夜々先輩の演劇の無茶振りに応え、みなとさんのお化け屋敷のギミックに感心する。
目まぐるしくて、胃が痛くて、でも、どうしようもなく楽しかった日々。
リストの最後の項目にチェックを入れ、ふぅ、と息をつく。
静まり返った事務所は、少しだけ寂しい。俺もそろそろ帰るか、と腰を上げた、その時だった。
「コウくん!」
事務所の出口、非常灯のぼんやりとした光の中に、人影が立っていた。
振り返ると、そこには葛城メグが、どこか緊張した面持ちで俺を待っていた。
「メグ?どうしたんだ、まだ残ってたのか」
「……うん。ちょっと、言っとかなきゃいけないこと、あるなって思って」
彼女は、ぎゅっと拳を握りしめている。いつもは太陽みたいに明るい彼女が、今はまるで、告白前の少女のように、必死な顔をしていた。
(ここから、メグ視点)
言うんだ、私!推しに想いを伝えるのは、オタクの基本中の基本!これは告白じゃない、最高のステージを約束する、プロデューサーとしての所信表明なんだから!……でも、やっぱ心臓バクバクする!だって、コウくんの顔、近……。
今日のコウくん、いつもよりなんか……かっこいいし……。
ううん、違う!気合いいれろ、私!
「コウくん!明日のステージ、絶対見に来てくださいね!」
彼女は、一世一代の覚悟を決めたかのように、叫んだ。
「アタシが、アンタを一番輝かせてみせるッス!アタシの演出で、アタシの企画で、アンタを世界一のスターにする!だから……!」
その瞳に、燃えるような情熱の炎が宿る。
「アンタの隣は、アタシが予約済みってことで、そこんとこよろしく!」
それは、もうマネージャー見習いの言葉ではなかった。
一人のクリエイターが、その才能の全てを賭けて、スターに捧げる誓いの言葉。
そして、一人の女の子が、好きな男の子に向ける、不器用で、最高に真っ直ぐな宣戦布告だった。
その熱量に気圧され、俺はただ「……ああ」と頷くことしかできなかった。
◇
メグの熱い言葉を胸に、夜道を歩く。
秋の夜風が、火照った頬に心地よかった。
『メゾン・サンライト』のエントランスの灯りが見えてきた頃、俺は自分のアパートが、もはやただの家ではないことを改めて実感していた。
そこは、甘い戦場だ。
案の定、エントランスの入り口、常夜灯の光が作る影の中に、すっと佇む人影があった。見間違えるはずもない。
優雅な立ち姿、月光を反射する美しい銀髪。
「……おかえりなさい、天城くん。ずいぶん遅かったじゃない」
夜々先輩だった。彼女は、まるで俺が帰ってくるのをずっと待っていたかのように、完璧なタイミングでそこにいた。
(ここから、夜々視点)
本当は、怖い。
もし、あの子を選んだら…私は、どうすればいい?…いいえ、弱気になってはダメ。私は女王。欲しいものは、自分の手で奪い取る。
ひよりちゃんの涙も、メグの情熱も、認めましょう。
でも、最後に彼の隣に立つのは、この私。
彼の才能を、彼の声を、本当の意味で理解し、高みへと導けるのは、この私だけなのだから。
「天城くん。明日は、せいぜい楽しませてもらうわ」
彼女は、ゆっくりと俺に近づき、俺の瞳を、射抜くように見つめた。
「そして、あなたに相応しいのが、あの未熟な妹なのか、それともこのわたくしなのか……その目で、見極めなさい。答えを、楽しみにしているわ」
その不敵な笑みは、絶対的な女王の自信に満ち溢れていた。それは、有無を言わせぬ、愛の最後通牒。俺は、その圧倒的なまでの“圧”に、ただ息を呑む。
◇
二人の宣戦布告を受け、心身ともに疲弊した俺が、ようやく自室のドアに手をかけた時。ガチャリ、と鍵を開けた瞬間、部屋の中から、ふわりと、どうしようもなく甘くて、温かい匂いがした。
「……おかえり、お兄ちゃん」
ドアを開けると、そこにはエプロン姿のひよりがいた。
そして、ローテーブルの上には、俺の好物だけが完璧に並べられた、温かい夕食が用意されていた。
彼女は、何も言わずに、ただ、にこりと微笑んだ。
その笑顔は、もう“妹”の顔ではなかった。
好きな人の帰りを待ち、その疲れを癒そうとする、一人の女の子が、恋する相手に向ける、真剣で、愛おしさに満ちた表情だった。
「お兄ちゃん、見てて。ひよりが、最高のステージを作るから」
彼女は、俺の隣にそっと寄り添い、小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「そしたら……私の気持ち、ちゃんと、受け取ってね」
それぞれの決意が、祭りの前の静かな熱となって、俺の心を締め付ける。
メグの情熱も、夜々先輩のプライドも、そして、ひよりのこのどうしようもないくらいの、真っ直ぐな愛情も。そのすべてを、俺は受け止めなければならない。
俺は、どのチームにも誠実に向き合うと誓った。
だが、その先に待つ“選択”の重さに、まだ気づかないふりをしていた。
この甘い戦争の果てに、俺はどんな答えを出すのだろう。
その答えが、誰かを傷つけることになるかもしれないという恐怖から、まだ、目を逸らしていた。
事務所のイベントスペースは、祭りの前の独特な静けさと、心地よい達成感に満ちていた。
壁には各チームが作り上げた装飾が施され、床にはペンキの匂いや木材の香りがかすかに残っている。
数時間前までの喧騒が嘘のように、今はただ、スポットライトだけがステージの中央をぼんやりと照らしていた。
「――お疲れ様でしたー!」「また明日ねー!」
メンバーたちが、一人、また一人と帰路についていく。
誰もが疲労と、明日への期待が入り混じった、最高の笑顔を浮かべていた。
その背中を見送りながら、俺、天城コウは、ステージの袖で最後の備品チェックリストにペンを走らせていた。
長かったようで、あっという間の二週間だった。
ひよりの喫茶店のメニューに頭を悩ませ、夜々先輩の演劇の無茶振りに応え、みなとさんのお化け屋敷のギミックに感心する。
目まぐるしくて、胃が痛くて、でも、どうしようもなく楽しかった日々。
リストの最後の項目にチェックを入れ、ふぅ、と息をつく。
静まり返った事務所は、少しだけ寂しい。俺もそろそろ帰るか、と腰を上げた、その時だった。
「コウくん!」
事務所の出口、非常灯のぼんやりとした光の中に、人影が立っていた。
振り返ると、そこには葛城メグが、どこか緊張した面持ちで俺を待っていた。
「メグ?どうしたんだ、まだ残ってたのか」
「……うん。ちょっと、言っとかなきゃいけないこと、あるなって思って」
彼女は、ぎゅっと拳を握りしめている。いつもは太陽みたいに明るい彼女が、今はまるで、告白前の少女のように、必死な顔をしていた。
(ここから、メグ視点)
言うんだ、私!推しに想いを伝えるのは、オタクの基本中の基本!これは告白じゃない、最高のステージを約束する、プロデューサーとしての所信表明なんだから!……でも、やっぱ心臓バクバクする!だって、コウくんの顔、近……。
今日のコウくん、いつもよりなんか……かっこいいし……。
ううん、違う!気合いいれろ、私!
「コウくん!明日のステージ、絶対見に来てくださいね!」
彼女は、一世一代の覚悟を決めたかのように、叫んだ。
「アタシが、アンタを一番輝かせてみせるッス!アタシの演出で、アタシの企画で、アンタを世界一のスターにする!だから……!」
その瞳に、燃えるような情熱の炎が宿る。
「アンタの隣は、アタシが予約済みってことで、そこんとこよろしく!」
それは、もうマネージャー見習いの言葉ではなかった。
一人のクリエイターが、その才能の全てを賭けて、スターに捧げる誓いの言葉。
そして、一人の女の子が、好きな男の子に向ける、不器用で、最高に真っ直ぐな宣戦布告だった。
その熱量に気圧され、俺はただ「……ああ」と頷くことしかできなかった。
◇
メグの熱い言葉を胸に、夜道を歩く。
秋の夜風が、火照った頬に心地よかった。
『メゾン・サンライト』のエントランスの灯りが見えてきた頃、俺は自分のアパートが、もはやただの家ではないことを改めて実感していた。
そこは、甘い戦場だ。
案の定、エントランスの入り口、常夜灯の光が作る影の中に、すっと佇む人影があった。見間違えるはずもない。
優雅な立ち姿、月光を反射する美しい銀髪。
「……おかえりなさい、天城くん。ずいぶん遅かったじゃない」
夜々先輩だった。彼女は、まるで俺が帰ってくるのをずっと待っていたかのように、完璧なタイミングでそこにいた。
(ここから、夜々視点)
本当は、怖い。
もし、あの子を選んだら…私は、どうすればいい?…いいえ、弱気になってはダメ。私は女王。欲しいものは、自分の手で奪い取る。
ひよりちゃんの涙も、メグの情熱も、認めましょう。
でも、最後に彼の隣に立つのは、この私。
彼の才能を、彼の声を、本当の意味で理解し、高みへと導けるのは、この私だけなのだから。
「天城くん。明日は、せいぜい楽しませてもらうわ」
彼女は、ゆっくりと俺に近づき、俺の瞳を、射抜くように見つめた。
「そして、あなたに相応しいのが、あの未熟な妹なのか、それともこのわたくしなのか……その目で、見極めなさい。答えを、楽しみにしているわ」
その不敵な笑みは、絶対的な女王の自信に満ち溢れていた。それは、有無を言わせぬ、愛の最後通牒。俺は、その圧倒的なまでの“圧”に、ただ息を呑む。
◇
二人の宣戦布告を受け、心身ともに疲弊した俺が、ようやく自室のドアに手をかけた時。ガチャリ、と鍵を開けた瞬間、部屋の中から、ふわりと、どうしようもなく甘くて、温かい匂いがした。
「……おかえり、お兄ちゃん」
ドアを開けると、そこにはエプロン姿のひよりがいた。
そして、ローテーブルの上には、俺の好物だけが完璧に並べられた、温かい夕食が用意されていた。
彼女は、何も言わずに、ただ、にこりと微笑んだ。
その笑顔は、もう“妹”の顔ではなかった。
好きな人の帰りを待ち、その疲れを癒そうとする、一人の女の子が、恋する相手に向ける、真剣で、愛おしさに満ちた表情だった。
「お兄ちゃん、見てて。ひよりが、最高のステージを作るから」
彼女は、俺の隣にそっと寄り添い、小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「そしたら……私の気持ち、ちゃんと、受け取ってね」
それぞれの決意が、祭りの前の静かな熱となって、俺の心を締め付ける。
メグの情熱も、夜々先輩のプライドも、そして、ひよりのこのどうしようもないくらいの、真っ直ぐな愛情も。そのすべてを、俺は受け止めなければならない。
俺は、どのチームにも誠実に向き合うと誓った。
だが、その先に待つ“選択”の重さに、まだ気づかないふりをしていた。
この甘い戦争の果てに、俺はどんな答えを出すのだろう。
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