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第5章『イケボの向こうに、本当の“僕”がいる』
「リンクできない気持ち」
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――お兄ちゃん、悩んでる顔してた。
わたしはそれを、誰よりも先に気づいていた。
レイ=アマギの単独配信チャンネル開設。
ずっと夢だったはずのことなのに、会議の途中からお兄ちゃんの笑顔は少しずつ引きつって、最後には、逃げるみたいに部屋を出ていった。
どうしてだろう。
わたしも、夜々さんも、みなとさんも、メグさんも……みんな、ちゃんとお兄ちゃんを応援してるのに。
それなのに――全然、気持ちがひとつにならない。
「ひより、これさ、どう思う?」
メグさんがPC画面をこちらに向ける。
そこには、レイ=アマギのオープニングムービー案が並んでいた。……って、全部本人がバク転しながら登場してるんだけど!?
「え、えっと……すごく、元気が出る感じは、するよね……?」
「でしょー!? ここ、イケボで『ようこそ、夜の世界へ!』って叫ぶの!」
「ちょっとメグ、それはやりすぎよ。本人のキャラ、そこまでテンション高くないから」
「えー? でもさ、初配信はインパクトが命でしょ? 夜々こそ、固すぎるって」
二人のやりとりを聞きながら、わたしはまた口をつぐんでしまった。
だって、どっちの意見も、すごくまっすぐで。
お兄ちゃんのことを考えてくれてるのがわかるから――否定なんて、できない。
だけど……わたしも、本当は言いたいことがある。
(お兄ちゃんの“声”って、もっと静かで、優しくて……)
鼓膜の奥に残っている、あの冬の日の配信。
体調を崩したわたしの代わりに、お兄ちゃんがこっそり演じてくれた“ひよこまる♪”のあの声。
それはたしかに、演技だった。でも、それ以上に、想いが乗っていた。
(あれが、わたしにとっての……一番の“レイ”なんだよ)
でも、それを口にする勇気はなかった。
妹であるわたしが言えば、私情だと思われてしまうかもしれない。
なにより――わたしは、もう“お兄ちゃんの中の人”じゃない。
今はもう、彼は《レイ=アマギ》。
わたしじゃない、誰かのために、その声を届けようとしている。
「……はぁ」
ため息をついてしまって、すぐにごまかすようにメモ帳にペンを走らせた。
ふと、みなとさんの声が聞こえた。
「……だから、嘘の声じゃダメなんだって。聞いてる人にはすぐに伝わっちゃうから」
「ん? 今、なんて言ったの?」
夜々さんが静かに聞き返す。
みなとさんは背もたれに寄りかかり、目を伏せたまま言葉を続けた。
「Vは、声だけで世界を作る職業。そこに嘘が混ざると、世界が崩れるの」
「……つまり、私たちのアドバイスが“嘘”だって言いたいの?」
「そうじゃない。でも……どれだけ装っても、本人が納得してない声は、届かない」
夜々さんの目が鋭くなった。
その表情に、わたしは少しだけ息をのむ。
夜々さんって、こんなふうに感情を表に出す人じゃなかったはずなのに。
「それなら、最初から全部本人に任せればいいってこと?」
「違う。ただ、私たちの“理想のレイ”を押しつけても、彼の声にはならないってこと」
「…………」
一瞬、空気が凍る。
だけど、みなとさんの言葉は、たしかに正しかった。
(お兄ちゃんの声は、お兄ちゃんのものだもん)
* * *
そのころ、別室でひとり座っていたコウは、タブレットのメモをぼんやりと見つめていた。
メグの勢いある構成案。
夜々の整った配信スクリプト。
みなとの演出指示書と、ひよりの衣装イラスト。
どれもすごくレベルが高くて――だけど、全部バラバラだ。
「……俺って、誰の“中の人”でもない……はずなんだけどな」
ぽつりとこぼれたその言葉が、部屋の静寂に吸い込まれていった。
“ひよこまる♪”の中の人として、いくつもの感情を演じた。
けれど今は、自分自身の名前で立たなくちゃいけない。
誰の肩にも隠れられない、“レイ=アマギ”として――。
その背中に、まだ答えはなかった。
ただ、すべての声がリンクできないまま、時間だけが過ぎていった。
わたしはそれを、誰よりも先に気づいていた。
レイ=アマギの単独配信チャンネル開設。
ずっと夢だったはずのことなのに、会議の途中からお兄ちゃんの笑顔は少しずつ引きつって、最後には、逃げるみたいに部屋を出ていった。
どうしてだろう。
わたしも、夜々さんも、みなとさんも、メグさんも……みんな、ちゃんとお兄ちゃんを応援してるのに。
それなのに――全然、気持ちがひとつにならない。
「ひより、これさ、どう思う?」
メグさんがPC画面をこちらに向ける。
そこには、レイ=アマギのオープニングムービー案が並んでいた。……って、全部本人がバク転しながら登場してるんだけど!?
「え、えっと……すごく、元気が出る感じは、するよね……?」
「でしょー!? ここ、イケボで『ようこそ、夜の世界へ!』って叫ぶの!」
「ちょっとメグ、それはやりすぎよ。本人のキャラ、そこまでテンション高くないから」
「えー? でもさ、初配信はインパクトが命でしょ? 夜々こそ、固すぎるって」
二人のやりとりを聞きながら、わたしはまた口をつぐんでしまった。
だって、どっちの意見も、すごくまっすぐで。
お兄ちゃんのことを考えてくれてるのがわかるから――否定なんて、できない。
だけど……わたしも、本当は言いたいことがある。
(お兄ちゃんの“声”って、もっと静かで、優しくて……)
鼓膜の奥に残っている、あの冬の日の配信。
体調を崩したわたしの代わりに、お兄ちゃんがこっそり演じてくれた“ひよこまる♪”のあの声。
それはたしかに、演技だった。でも、それ以上に、想いが乗っていた。
(あれが、わたしにとっての……一番の“レイ”なんだよ)
でも、それを口にする勇気はなかった。
妹であるわたしが言えば、私情だと思われてしまうかもしれない。
なにより――わたしは、もう“お兄ちゃんの中の人”じゃない。
今はもう、彼は《レイ=アマギ》。
わたしじゃない、誰かのために、その声を届けようとしている。
「……はぁ」
ため息をついてしまって、すぐにごまかすようにメモ帳にペンを走らせた。
ふと、みなとさんの声が聞こえた。
「……だから、嘘の声じゃダメなんだって。聞いてる人にはすぐに伝わっちゃうから」
「ん? 今、なんて言ったの?」
夜々さんが静かに聞き返す。
みなとさんは背もたれに寄りかかり、目を伏せたまま言葉を続けた。
「Vは、声だけで世界を作る職業。そこに嘘が混ざると、世界が崩れるの」
「……つまり、私たちのアドバイスが“嘘”だって言いたいの?」
「そうじゃない。でも……どれだけ装っても、本人が納得してない声は、届かない」
夜々さんの目が鋭くなった。
その表情に、わたしは少しだけ息をのむ。
夜々さんって、こんなふうに感情を表に出す人じゃなかったはずなのに。
「それなら、最初から全部本人に任せればいいってこと?」
「違う。ただ、私たちの“理想のレイ”を押しつけても、彼の声にはならないってこと」
「…………」
一瞬、空気が凍る。
だけど、みなとさんの言葉は、たしかに正しかった。
(お兄ちゃんの声は、お兄ちゃんのものだもん)
* * *
そのころ、別室でひとり座っていたコウは、タブレットのメモをぼんやりと見つめていた。
メグの勢いある構成案。
夜々の整った配信スクリプト。
みなとの演出指示書と、ひよりの衣装イラスト。
どれもすごくレベルが高くて――だけど、全部バラバラだ。
「……俺って、誰の“中の人”でもない……はずなんだけどな」
ぽつりとこぼれたその言葉が、部屋の静寂に吸い込まれていった。
“ひよこまる♪”の中の人として、いくつもの感情を演じた。
けれど今は、自分自身の名前で立たなくちゃいけない。
誰の肩にも隠れられない、“レイ=アマギ”として――。
その背中に、まだ答えはなかった。
ただ、すべての声がリンクできないまま、時間だけが過ぎていった。
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