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第5章『イケボの向こうに、本当の“僕”がいる』
「デビュー戦、迷えるプロデューサーたち」
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「レイ=アマギの単独チャンネル、開設おめでとーっ!」
LinkLiveの会議室に響くメグの元気な声。その後ろでひよりがちょこんと控えめに手を挙げて笑っていた。
「……ほんとに始まっちゃうんだね。レイくんのソロ」
テーブルを囲んだメンバーは、ひより、夜々、みなと、メグ。そして当の本人、天城コウ。
この春から正式に《レイ=アマギ》としての配信活動をスタートさせることが決まり、チャンネル準備と初配信の企画会議が開かれていた。
「まずはデビュー配信の構成だけど……自己紹介→雑談→質疑応答って感じかな?」
そう言って、夜々がタブレットを開く。すでにいくつかの案が書かれていて、その仕事ぶりは相変わらずきっちりしていた。
「その流れだと、印象が弱い。インパクト重視で行くべきじゃない? 冒頭から“イケボ朗読劇”とか。視聴者の記憶に残る方が強いって」
メグが勢いよく口を挟むと、みなとが少し眉をひそめた。
「それって“声だけ”の魅力に偏りすぎじゃない? 表情や演出とのバランスも考えた方がいい」
「へえ、じゃあみなとはどうしたいの?」
「たとえば……“誰かの心を救った瞬間”をテーマにしたエピソードトーク。声が持つ“温かさ”を大事にする方向でいくとか」
「……う~ん、重くない? 初回からそれはハードル高そう~」
メグが顔をしかめ、みなとは視線をそらす。
ややこしいことになりそうだな……と、コウは内心で汗をかいた。
ひよりは二人のやりとりを黙って見つめていたが、やがて、おずおずと口を開く。
「……あの、もしよかったら、私がナレーション原稿を書こうか? レイくんのキャラに合うように……って……」
「ひより、それって“妹目線”のナレーションになるんじゃない?」
夜々が優しく微笑みながらも、やんわりと牽制する。
「ううっ……そうかも……」
しゅんと肩を落とすひより。
「じゃあさ、ひよりは衣装まわりどう? あのクール系レイくんにぴったりのアウターとか……!」
「……っ、うん! やってみる!」
メグのフォローにひよりが笑顔を返すと、場の空気が少しだけ和んだ。
けれども、議論はすぐに再び迷走を始める。
「イラストのイメージカラー、ナイトブルーに近い感じが良いと思う」
「いや、今トレンドはグラデーション系。配信映えするし」
「BGMのテンポ、少しスローにして落ち着いた雰囲気にしたい」
「それは逆に寝落ちされるってば!」
……全員、本気なのだ。
誰よりも“レイ=アマギ”の成功を願ってくれている。
それはコウもよくわかっていた――が。
(どうして、こんなにも……うまくいかないんだろう)
頭の中が混線していく。
どの意見も的確に聞こえて、どれを選んでも誰かをがっかりさせてしまいそうだった。
「……ごめん、ちょっと水取ってくる」
椅子を立ったコウに、誰も止める言葉をかけられなかった。
* * *
会議室の外、給湯スペース。紙コップに水を注ぎながら、コウは鏡に映る自分を見た。
(僕は、なんで……こんなに不安なんだろう)
演じることには慣れているつもりだった。
ひよりの代役として“ひよこまる♪”を続けていた日々、バレないように、嫌われないように、完璧な“妹”を演じていた。
けれど今度は、自分の名前で――“レイ=アマギ”として、素顔をさらして話す必要がある。
(……僕に、それができるのか?)
ひよりじゃない。誰の代わりでもない。
演技でも、代役でもない――“僕自身”の声で、誰かの心に届く言葉を話すことなんて。
そこへ、そっと後ろから声が届いた。
「――悩んでるみたいだね、天城くん」
低く、響く声だった。どこか包み込むようでいて、芯がある。
振り返ると、そこに立っていたのは、LinkLiveの先輩男性V、月詠ルイ。
月明かりを思わせる落ち着いた雰囲気と、優雅な笑顔。
黒と銀を基調にした衣装に、軽く乱れた前髪が絶妙な色気を醸し出している。
「月詠……ルイさん?」
「ああ。噂で聞いたよ。君が、“ひよこまる”の中の人だったってことも、レイとしてデビューするってことも」
「っ……!」
コウが言葉を失うと、ルイは少し肩をすくめて言った。
「安心して。誰にも言わないよ。俺も昔、似たような秘密、抱えてたから」
その一言に、コウの胸がほんの少しだけ、ふっと軽くなった。
(この人……ただの先輩ってだけじゃない。きっと、同じものを乗り越えてきたんだ)
「よかったら、君の話……聞かせてくれない?」
静かに、そう促すルイの声に、コウは小さく頷いた。
LinkLiveの会議室に響くメグの元気な声。その後ろでひよりがちょこんと控えめに手を挙げて笑っていた。
「……ほんとに始まっちゃうんだね。レイくんのソロ」
テーブルを囲んだメンバーは、ひより、夜々、みなと、メグ。そして当の本人、天城コウ。
この春から正式に《レイ=アマギ》としての配信活動をスタートさせることが決まり、チャンネル準備と初配信の企画会議が開かれていた。
「まずはデビュー配信の構成だけど……自己紹介→雑談→質疑応答って感じかな?」
そう言って、夜々がタブレットを開く。すでにいくつかの案が書かれていて、その仕事ぶりは相変わらずきっちりしていた。
「その流れだと、印象が弱い。インパクト重視で行くべきじゃない? 冒頭から“イケボ朗読劇”とか。視聴者の記憶に残る方が強いって」
メグが勢いよく口を挟むと、みなとが少し眉をひそめた。
「それって“声だけ”の魅力に偏りすぎじゃない? 表情や演出とのバランスも考えた方がいい」
「へえ、じゃあみなとはどうしたいの?」
「たとえば……“誰かの心を救った瞬間”をテーマにしたエピソードトーク。声が持つ“温かさ”を大事にする方向でいくとか」
「……う~ん、重くない? 初回からそれはハードル高そう~」
メグが顔をしかめ、みなとは視線をそらす。
ややこしいことになりそうだな……と、コウは内心で汗をかいた。
ひよりは二人のやりとりを黙って見つめていたが、やがて、おずおずと口を開く。
「……あの、もしよかったら、私がナレーション原稿を書こうか? レイくんのキャラに合うように……って……」
「ひより、それって“妹目線”のナレーションになるんじゃない?」
夜々が優しく微笑みながらも、やんわりと牽制する。
「ううっ……そうかも……」
しゅんと肩を落とすひより。
「じゃあさ、ひよりは衣装まわりどう? あのクール系レイくんにぴったりのアウターとか……!」
「……っ、うん! やってみる!」
メグのフォローにひよりが笑顔を返すと、場の空気が少しだけ和んだ。
けれども、議論はすぐに再び迷走を始める。
「イラストのイメージカラー、ナイトブルーに近い感じが良いと思う」
「いや、今トレンドはグラデーション系。配信映えするし」
「BGMのテンポ、少しスローにして落ち着いた雰囲気にしたい」
「それは逆に寝落ちされるってば!」
……全員、本気なのだ。
誰よりも“レイ=アマギ”の成功を願ってくれている。
それはコウもよくわかっていた――が。
(どうして、こんなにも……うまくいかないんだろう)
頭の中が混線していく。
どの意見も的確に聞こえて、どれを選んでも誰かをがっかりさせてしまいそうだった。
「……ごめん、ちょっと水取ってくる」
椅子を立ったコウに、誰も止める言葉をかけられなかった。
* * *
会議室の外、給湯スペース。紙コップに水を注ぎながら、コウは鏡に映る自分を見た。
(僕は、なんで……こんなに不安なんだろう)
演じることには慣れているつもりだった。
ひよりの代役として“ひよこまる♪”を続けていた日々、バレないように、嫌われないように、完璧な“妹”を演じていた。
けれど今度は、自分の名前で――“レイ=アマギ”として、素顔をさらして話す必要がある。
(……僕に、それができるのか?)
ひよりじゃない。誰の代わりでもない。
演技でも、代役でもない――“僕自身”の声で、誰かの心に届く言葉を話すことなんて。
そこへ、そっと後ろから声が届いた。
「――悩んでるみたいだね、天城くん」
低く、響く声だった。どこか包み込むようでいて、芯がある。
振り返ると、そこに立っていたのは、LinkLiveの先輩男性V、月詠ルイ。
月明かりを思わせる落ち着いた雰囲気と、優雅な笑顔。
黒と銀を基調にした衣装に、軽く乱れた前髪が絶妙な色気を醸し出している。
「月詠……ルイさん?」
「ああ。噂で聞いたよ。君が、“ひよこまる”の中の人だったってことも、レイとしてデビューするってことも」
「っ……!」
コウが言葉を失うと、ルイは少し肩をすくめて言った。
「安心して。誰にも言わないよ。俺も昔、似たような秘密、抱えてたから」
その一言に、コウの胸がほんの少しだけ、ふっと軽くなった。
(この人……ただの先輩ってだけじゃない。きっと、同じものを乗り越えてきたんだ)
「よかったら、君の話……聞かせてくれない?」
静かに、そう促すルイの声に、コウは小さく頷いた。
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