【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

139.建国最初の大浴場(1)

内開うちびらきに改造した北側城壁の城門が、静かに開いていく。

城壁の上には長弓ながゆみ兵と短弓たんきゅう兵が並んで、じっとその時を待って夕陽に染まる。

望楼ぼうろうの手すりを握る手が、じんわりと汗ばむ。

盾たてを構かまえたクゥアイたち槍兵が、城門からゆっくりと外に進み始める。

――出た。

隊列たいれつを崩くずさず槍兵が進み、密度みつどの上がった人獣じんじゅうたちと接触せっしょくした。

たちまち戦闘が起きる。が、即座そくざに城壁上の矢が仕留しとめる。

討うち取った人獣じんじゅうの死体に、ほかの人獣じんじゅうが凶暴化きょうぼうかして群むらがる。

――始まった。

少し前から、人獣じんじゅうの昼間の生態せいたいについて、槍兵と弓兵にテストを重ねてもらっていた。

日没より少し早く弓で攻撃してみた結果、一発で仕留められなかったら、当然、凶暴化する。暴あばれて周囲の人獣じんじゅうに当たれば、その人獣じんじゅうも凶暴化する。

そのほかに、人獣じんじゅうの死体に反応して周囲の人獣じんじゅうが凶暴化し、共喰ともぐいを起こすことも分かった。

一度凶暴化した人獣じんじゅうは、昼間でも容易よういには沈静化ちんせいかしない。

そして、クゥアイに依頼いらいし、槍兵が隊列を組み人獣じんじゅうを近付けない陣形じんけいを研究してもらった。

イメージしたのは、古代スパルタのファランクスだ。槍兵の密集陣形みっしゅうじんけい。

必要となる盾はシーシに作ってもらい、クゥアイの助言で改良を重ねている。

工房で２人しておヘソ丸出しで迎えられたのには、ドキッとしてしまったけど、盾の出来は素晴らしい。槍と合わせて人獣じんじゅうの攻撃を完全に防ふせいでいる。

城壁内も相当そうとうな緊張感に包つつまれている。

槍兵が前進し陣形が全て城門を出るまでの間、城門は開あけっ放ぱなしになる。万が一に備そなえて、剣士が城門の前に待機たいきしている。

門を開けるだけで扉とびらが人獣じんじゅうに当たって凶暴化させては、外に出ることもままならないので、内開きに改造してもらった。ただし、万一まんいちがあれば、閉めにくいし、外から押されれば弱い。

ミンリンさんの設計とシーシの技術は信頼してるけど、若干のリスクは取らざるを得ない。

槍兵はこれもミンリンさんとシーシに改造してもらった荷車にぐるまを囲かこんでいる。

城門を出てすぐに、足下あしもとに落ちている矢を拾ひろい集め始めている。折おれててもお構かまいなしに全回収ぜんかいしゅうだ。

矢として再利用出来ないものは、薪まきにする。篝火かがりびには使えなくても、炊たき出だしには使える。

――城門が、閉しまった。

城壁の外では戦闘が続いている。今のところ、攻撃を加えているのは、接触せざるを得えない場所に立つ人獣じんじゅうだけだ。

城壁の上では、兵士長へいしちょうとして初陣ういじんになるヤーモンが指揮しきを執とっている。

俺が召喚されて以来、初めて城門の外に人間が立った。

長い槍で阻はばんでいるとはいえ、多くの人獣じんじゅうに囲まれている。

日没までの僅わずかな時間を、初の実戦に選んだ。どうせ日が沈めば凶暴化する。万一、凶暴化の伝播でんぱが収拾しゅうしゅうつかなくなっても、今までどおり夜の戦闘に繋つなげられる。

茜色あかねいろの空は濃紺のうこんの夜空に混まじり始めている。

とにかく、無事に帰って来てほしい。失敗しても次に改善かいぜんすればいい。今日は行って帰ってこれるだけでも、すごい成果せいかだと思っている。

「戻もどれー！」

という、よく通るクゥアイの声が望楼ぼうろうにまで響ひびいてきた。

それだけ城内が静かだということだ。皆みんな、昼間に満みちた歓声かんせいから一転いってん、固唾かたずを飲んで見守っている。

「開門かいもんーっ！」

再びクゥアイの声が響き、城門が開けられた。周囲の剣士たちに緊張が走る。

あとは逃げ込むだけなので、槍兵と荷車は一目散いちもくさんに駆かけ込み、城門は閉じられた。

槍兵はその場にへたり込み、荷車は司空府しくうふに運ばれていった。回収した矢を直ただちに選別せんべつしてもらう。

城門の外に出た槍兵たちは、そのまま初めてのオフを取ってもらう。

無事に帰ってきたことに気が付いた住民たちから、大きな歓声が上がった。

クゥアイが望楼ぼうろうの俺に向けて、両手で大きな丸をつくって見せた。満面の笑えみだ。

俺も大きな丸をつくって返した。

ジーウォ公国こうこくの建国けんこく初日。兵士団は大きな戦果せんかを上げた――。