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138.革<あらた>まる日(2)
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フェイロンさんの発議で、重臣10名から推戴を受け、俺はジーウォ公の地位に就いた。
正確に表現するなら、ダーシャン王国の内国として、ジーウォ公国が建国されたことになる。
つまり、俺は君主になった。
「人々の気持ちを一新し、団結させるには、自分たちの国を持たせるのがよろしかと」
と、フェイロンさんが言ったとき、すぐに賛意を示したのはシアユンさんだった。
「マレビト様が公の位にお就きになることで、皆の心が革まりましょう」
と、静かに賛成してくれた。
「ダーシャンの臣民から、ジーウォの臣民になる訳か。悪くねぇな」
と、フーチャオさんも賛同してくれ、大筋は決まった。
その後、俺のことを「マレビト様」と呼ぶのか「我が君」と呼ぶのかという議論があった。
シュエンが自信満々に言った『マレビトの君』というのは、源氏物語みたいでなんかイヤだったので、それとなくスルーし、引き続き「マレビト様」と呼ぶことに決まった。
【重臣会同】に列席している皆さんが、少し高揚していることも伝わってくる。
俺はというと、正直、よく分からない。
ジーウォ城主代理からジーウォ公になるっていうのは、たぶん偉くなったんだろうということは分かる。
ただ、どのくらい偉いとか、住民がどのように受け止めるかなど、皆目分からない。
自分が選んだ重臣10名が、最良の選択と勧めてくれた以上、それに従うだけだ。
――公国?
まあ、響きがカッコ良いですよね? ってくらいの中二病的感覚で、ぷすっと鼻の穴は広がったけど、そのくらいは大目に見てほしい。
そして、そのことを布告した俺の前で、住民の皆さんが涙を流して喜んでいる。
――俺たちはジーウォの臣民だぁ!
と、気勢を上げている人もいる。
見るとクゥアイのお祖母さんや、ミオンさんも目に涙を浮かべている。
自分の国を持つという感覚は、俺にはよく分からない。
ただ、重い意味を持つことは、なんとなくの知識として持っている。
目の前で泣いて喜ぶ人たちと、その感動を分かち合うことは出来なかったけど、せめて、良い君主と呼ばれるようには頑張りたい。
今のところ最終城壁に囲まれた範囲だけの、小さな小さな国だ。ずっと存亡の危機だ。
それでも、その中で孤塁を守り続ける人々の心の支えになれるなら、どうってことのない話だ。
◇
ダーシャン暦682年9月6日。
かくして俺は、ジーウォ公に即位した。
召喚されてから、まだ23日しか経過していない。
ただ、一分一秒、常に人獣の脅威に晒され、常に存亡の危機にあるこの城の時間の流れは濃密だ。
分からないことは分からないままに、出来ることは素早く手を着ける。それだけの日々は、あっという間であったし、とても長かった。
俺の後ろに並んで立つ重臣10人と共に、俺の国民たちの歓声に、手を振って応えた。
もちろん、これがゴールな訳ないし、感慨に浸ってもいない。
早速、取り掛かりたいことも控えている。
日が傾き、空が茜色に染まる頃、クゥアイ率いる槍兵の選抜メンバーがウォーミングアップを始めていた――。
正確に表現するなら、ダーシャン王国の内国として、ジーウォ公国が建国されたことになる。
つまり、俺は君主になった。
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と、フェイロンさんが言ったとき、すぐに賛意を示したのはシアユンさんだった。
「マレビト様が公の位にお就きになることで、皆の心が革まりましょう」
と、静かに賛成してくれた。
「ダーシャンの臣民から、ジーウォの臣民になる訳か。悪くねぇな」
と、フーチャオさんも賛同してくれ、大筋は決まった。
その後、俺のことを「マレビト様」と呼ぶのか「我が君」と呼ぶのかという議論があった。
シュエンが自信満々に言った『マレビトの君』というのは、源氏物語みたいでなんかイヤだったので、それとなくスルーし、引き続き「マレビト様」と呼ぶことに決まった。
【重臣会同】に列席している皆さんが、少し高揚していることも伝わってくる。
俺はというと、正直、よく分からない。
ジーウォ城主代理からジーウォ公になるっていうのは、たぶん偉くなったんだろうということは分かる。
ただ、どのくらい偉いとか、住民がどのように受け止めるかなど、皆目分からない。
自分が選んだ重臣10名が、最良の選択と勧めてくれた以上、それに従うだけだ。
――公国?
まあ、響きがカッコ良いですよね? ってくらいの中二病的感覚で、ぷすっと鼻の穴は広がったけど、そのくらいは大目に見てほしい。
そして、そのことを布告した俺の前で、住民の皆さんが涙を流して喜んでいる。
――俺たちはジーウォの臣民だぁ!
と、気勢を上げている人もいる。
見るとクゥアイのお祖母さんや、ミオンさんも目に涙を浮かべている。
自分の国を持つという感覚は、俺にはよく分からない。
ただ、重い意味を持つことは、なんとなくの知識として持っている。
目の前で泣いて喜ぶ人たちと、その感動を分かち合うことは出来なかったけど、せめて、良い君主と呼ばれるようには頑張りたい。
今のところ最終城壁に囲まれた範囲だけの、小さな小さな国だ。ずっと存亡の危機だ。
それでも、その中で孤塁を守り続ける人々の心の支えになれるなら、どうってことのない話だ。
◇
ダーシャン暦682年9月6日。
かくして俺は、ジーウォ公に即位した。
召喚されてから、まだ23日しか経過していない。
ただ、一分一秒、常に人獣の脅威に晒され、常に存亡の危機にあるこの城の時間の流れは濃密だ。
分からないことは分からないままに、出来ることは素早く手を着ける。それだけの日々は、あっという間であったし、とても長かった。
俺の後ろに並んで立つ重臣10人と共に、俺の国民たちの歓声に、手を振って応えた。
もちろん、これがゴールな訳ないし、感慨に浸ってもいない。
早速、取り掛かりたいことも控えている。
日が傾き、空が茜色に染まる頃、クゥアイ率いる槍兵の選抜メンバーがウォーミングアップを始めていた――。
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