【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

186.かもしれない秩序(2)

「剣士団、兵士団、宮城きゅうじょう衛士団えいしだんのいわゆる軍権ぐんけんが、一手いってに俺の元にあることを、皆様みなさま方がたはお忘れのようだ」

俺が冷たく言い放はなつと、大夫たいふたちの顔色が変わった。

今朝、風呂上がりに相談したシアユンさん、ツイファさん、ユーフォンさんに特訓とっくんされたドスの効いた口調の効果が現れてる。なかなかスパルタに鍛きたえられた。

「権威けんいを振ふりかざす者たちは、結局、権力けんりょくで押さえ付けられないと分からないのでございます」

と、シアユンさんはいつもの氷の微笑びしょうで言った。

エジャとヤーモンの結婚式では、勝手に一番いい席に陣取じんどって、踏ふん反ぞり返かえってた連中だ。シアユンさんの言うことも分かる。

ただ、シャオリンの顔色まで青くさせたのは、申し訳なかった。後で謝っておこう。

代表エビス顔がおが声を震ふるわせて言う。

「マ、マレビト様は我らを脅おどされるのか？」

「本当のことを言っただけですよ。ただそれも、俺が兵士団からの支持を失えば引きずり降おろされます。俺自体は何の力もない、ただの若僧わかぞうですから」

「そのような謙遜けんそん……」

「本当のことです」と、俺は身を乗のり出だした。

「今のこの城で、身分みぶんや役職やくしょくなんて幻まぼろしに過ぎないと思いませんか？ 俺は民衆みんしゅうに武器を与えた。彼らが一致いっち結束けっそくして歯向はむかえば、ひとたまりもない」

「そのようなこと、出来ようはずが……」

「そうですか？ 本当にそう思いますか？ 出来ないのではなく、彼らが彼らの意思いしでやってないだけではないですか？」

大夫たいふたちの表情からはエビス顔がおも消え、眉間みけんに皺しわを寄よせて考え込んでいる。

「民たみを見てください。民たみの声を聞いてください。そうすればズハンさんの病やまいも治るかもしれません」

匂におわせる。その程度が丁度ちょうどいいのですと言ったのはツイファさんだ。確かに勝手に勘繰かんぐる表情をし始めた。厄介やっかいごとがあるなら巻まき込こまれたくないという顔だ。

代表していた大夫たいふだけが顔を上げた。

「マレビト様のお考えはよく分かり申もうした。娘むすめの申す通りのお方かたでありました。我らも民たみのために尽つくしましょう」

後ろでディエが嬉しそうに安堵あんどの表情を見せた。

「しかし、マレビト様。我らも怖いのです。今までの秩序ちつじょが壊こわれていくことが怖いのです。どうか、そのことだけは分かってくだされ」

「よく言ってくださいました。その気持ちもよく分かります。ただ、すべては人獣じんじゅうを退しりぞけることが第一だいいち。そうでないと秩序もシキタリも全てが消えて無くなります。でも、退けた後には必ず旧来きゅうらいの秩序が役に立つ場面が訪れます」

本音ほんねだった。今はいわば非常ひじょう事態じたい宣言せんげん下か。平常へいじょう運転に戻もどるときには、元あった秩序やルールを回復させないと混乱の元になる。

例えば今は皆みんなでやってる炊たき出だしは各家庭に戻るし、兵士も農民や商人に戻る。そうなれば、今の体制は要いらなくなるし元のルールも必要になる。

大夫たいふたちに温度差はあるようだったけど、とりあえず納得はしてくれたようだった。

「後は私が」と言ってくれたシャオリンに任せて、部屋を出た。

オッサンの相手は疲れる。だけど、たぶん初めて一人でこういう場を収おさめた。少しは俺も成長してるんだろうか。

ディエが追いかけて来てくれて、深く頭を下げてくれた。

皆みんなで心をひとつに、っていうのは難しい。本当に難しい。けど、少しずつでもやらないといけないことだ――。

笑顔で仕事に戻るディエの振り返りざま、チラッと視線を下げてしまった。ちょっと凹んだ。