224 / 297
221.聖堂の騎士
しおりを挟む
ジーウォの冬は寒かった。
北の辺境を守る城なだけはある。シーシが融雪装置を作ってくれて、城内に積もる雪は少なかったけど、第3城壁から見晴らす景色は一面の銀世界だ。
融雪装置とクゥアイたち農民の皆さんの奮闘で、余裕はないけど食糧の心配はなくなった。
「う、うーむ……。待った」
「待ったは使い切ってますよ?」
「そ、そうでしたか……。うーむ」
フェイロンさんに将棋を教えたら、どハマりした。人獣たちとの闘いを経て、戦略や戦術の存在に気が付いた心にブッ刺さったみたいだ。
雪に閉ざされた城内で出来ることは少ない。剣士団でも静かなブームになっている。
兵士団は「屯田兵」に移行した。定期的に訓練だけは続けているけど、基本的には元の生活に戻りつつある。
「やはり、実際にお目覚めになるまでは伏せておくべきでしょう」
と、シアユンさんたち侍女3人の助言で、里佳との交信や、リーファ姫を目覚めさせるための動きは伏せている。
「私もですが、やはり根底には身分意識があります。その頂点に位置されるリーファ姫にまつわる事は、余計な刺激となってしまうやもしれません」
「城が一丸となってる今の雰囲気が壊れてしまうかも? ってことですか?」
「そうです。大夫や宮城勤めの役人たち。そういった者が、たとえば『復権の好機』などと考えるやもしれません」
「それは困りますね」
「実際にお目覚めになれば、リーファ姫ご自身のお言葉で鎮めることも出来ましょう。それまでは……」
という訳で、大浴場イベントも続いている。やむを得ないことだ。
老師は元いた山奥に帰ってしまった。
冬だし、せめて春までの逗留を強く勧めたんだけど「宮仕えは疲れました」と言い、『探知の呪符』を2枚残してくれた。
3代マレビトの所在を示す1枚と、もう1枚は老師自身の所在を示す。
「老い先短い身ですが、困りごとがありましたら、いつでも訪ねて来てくだされ」
と、笑われては、それ以上に引き止めることは出来なかった。
そして、地球の暦なら2月頃にあたる冬本番に、6回目の交信を迎えた。
「スゴい! 推戴されたんだ!」
遅ればせながらジーウォ公に即位したことを伝えると、里佳は手放しに喜んでくれた。
3代マレビト探しは春待ちだし、ようやく喫緊の課題のない状態で里佳と『積もる話』が出来てる。
といっても限られた僅かな時間のことだ。大浴場の話をしている時間なんかない。やむを得ないことだ。
付き合いたてのイチャイチャ会話を楽しんで、6回目の交信を終えた。
それからしばらくして、元リヴァント聖堂王国の皆さんから招待を受けた。
「アスマ、ナフィーサ、それに皆さん。お招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ、重臣一同の皆様にお運びいだだき感謝する」
第2城壁の北側に、小さいけどアスマたちの神様の聖堂を作った。信仰を取り上げるつもりはないという約束を果たせて良かった。
さすがに祖霊廟もある最終城壁内という訳にはいかなかったけど、故地リヴァントの方角に建ててもらった。
その落成の祝いに重臣10名と一緒にお邪魔したのだ。
「ニシシ。いい出来でしょ?」
と、『褒めて顔』をしてくるシーシの力作だ。
「いやあ、まったく考え方や美学の違う建物を作るのは楽しかったのだ」
「さすがはシーシ殿であった。まさか、ここまでリヴァント様式を再現してくださるとは……。いや、心から感服した」
と、アスマも感激している。
俺にそっと近寄って来たラハマは、目を潤ませていた。
「我が主よ。我は聖堂の騎士と名乗っても良いのだろうか……?」
「もちろん! あの闘いの最中、ラハマとアスマは躊躇せず人獣の群れの中に飛び込んで、ジンリーを救けてくれた」
「うむ。そんなこともあったな」
「自分の命を顧みずジンリーを救った高潔な『聖堂騎士』の行いは、皆んなの心を打った」
「そうか……」
「聖堂騎士はジーウォでは尊敬の対象だよ。胸を張って名乗るといいよ」
「……その名に恥じぬよう、精進しよう。感謝する」
フェイロンさんたちも、涙ぐむラハマを温かい視線で見守っていた。
そして、マリームの「聖職者は懲り懲りでございます!」の一言で、住民みんなで管理することも決まった。ちなみにマリームの言葉に元リヴァントの生き残り全員が爆笑してたので、よっぽどだったんだろう。
危機を乗り越え、平穏を取り戻していく中で、これからも皆んなが仲良くやっていけそうな光景に、ホッとしていた。
そして、やや寒さが緩んで来た頃、剣士団に戻っていたイーリンさんを呼び出した。
いよいよ3代マレビト探索の準備に着手した――。
北の辺境を守る城なだけはある。シーシが融雪装置を作ってくれて、城内に積もる雪は少なかったけど、第3城壁から見晴らす景色は一面の銀世界だ。
融雪装置とクゥアイたち農民の皆さんの奮闘で、余裕はないけど食糧の心配はなくなった。
「う、うーむ……。待った」
「待ったは使い切ってますよ?」
「そ、そうでしたか……。うーむ」
フェイロンさんに将棋を教えたら、どハマりした。人獣たちとの闘いを経て、戦略や戦術の存在に気が付いた心にブッ刺さったみたいだ。
雪に閉ざされた城内で出来ることは少ない。剣士団でも静かなブームになっている。
兵士団は「屯田兵」に移行した。定期的に訓練だけは続けているけど、基本的には元の生活に戻りつつある。
「やはり、実際にお目覚めになるまでは伏せておくべきでしょう」
と、シアユンさんたち侍女3人の助言で、里佳との交信や、リーファ姫を目覚めさせるための動きは伏せている。
「私もですが、やはり根底には身分意識があります。その頂点に位置されるリーファ姫にまつわる事は、余計な刺激となってしまうやもしれません」
「城が一丸となってる今の雰囲気が壊れてしまうかも? ってことですか?」
「そうです。大夫や宮城勤めの役人たち。そういった者が、たとえば『復権の好機』などと考えるやもしれません」
「それは困りますね」
「実際にお目覚めになれば、リーファ姫ご自身のお言葉で鎮めることも出来ましょう。それまでは……」
という訳で、大浴場イベントも続いている。やむを得ないことだ。
老師は元いた山奥に帰ってしまった。
冬だし、せめて春までの逗留を強く勧めたんだけど「宮仕えは疲れました」と言い、『探知の呪符』を2枚残してくれた。
3代マレビトの所在を示す1枚と、もう1枚は老師自身の所在を示す。
「老い先短い身ですが、困りごとがありましたら、いつでも訪ねて来てくだされ」
と、笑われては、それ以上に引き止めることは出来なかった。
そして、地球の暦なら2月頃にあたる冬本番に、6回目の交信を迎えた。
「スゴい! 推戴されたんだ!」
遅ればせながらジーウォ公に即位したことを伝えると、里佳は手放しに喜んでくれた。
3代マレビト探しは春待ちだし、ようやく喫緊の課題のない状態で里佳と『積もる話』が出来てる。
といっても限られた僅かな時間のことだ。大浴場の話をしている時間なんかない。やむを得ないことだ。
付き合いたてのイチャイチャ会話を楽しんで、6回目の交信を終えた。
それからしばらくして、元リヴァント聖堂王国の皆さんから招待を受けた。
「アスマ、ナフィーサ、それに皆さん。お招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ、重臣一同の皆様にお運びいだだき感謝する」
第2城壁の北側に、小さいけどアスマたちの神様の聖堂を作った。信仰を取り上げるつもりはないという約束を果たせて良かった。
さすがに祖霊廟もある最終城壁内という訳にはいかなかったけど、故地リヴァントの方角に建ててもらった。
その落成の祝いに重臣10名と一緒にお邪魔したのだ。
「ニシシ。いい出来でしょ?」
と、『褒めて顔』をしてくるシーシの力作だ。
「いやあ、まったく考え方や美学の違う建物を作るのは楽しかったのだ」
「さすがはシーシ殿であった。まさか、ここまでリヴァント様式を再現してくださるとは……。いや、心から感服した」
と、アスマも感激している。
俺にそっと近寄って来たラハマは、目を潤ませていた。
「我が主よ。我は聖堂の騎士と名乗っても良いのだろうか……?」
「もちろん! あの闘いの最中、ラハマとアスマは躊躇せず人獣の群れの中に飛び込んで、ジンリーを救けてくれた」
「うむ。そんなこともあったな」
「自分の命を顧みずジンリーを救った高潔な『聖堂騎士』の行いは、皆んなの心を打った」
「そうか……」
「聖堂騎士はジーウォでは尊敬の対象だよ。胸を張って名乗るといいよ」
「……その名に恥じぬよう、精進しよう。感謝する」
フェイロンさんたちも、涙ぐむラハマを温かい視線で見守っていた。
そして、マリームの「聖職者は懲り懲りでございます!」の一言で、住民みんなで管理することも決まった。ちなみにマリームの言葉に元リヴァントの生き残り全員が爆笑してたので、よっぽどだったんだろう。
危機を乗り越え、平穏を取り戻していく中で、これからも皆んなが仲良くやっていけそうな光景に、ホッとしていた。
そして、やや寒さが緩んで来た頃、剣士団に戻っていたイーリンさんを呼び出した。
いよいよ3代マレビト探索の準備に着手した――。
70
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる