極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音

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第12話 効率の暗部、あるいは静かなる追跡

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 ギルドを出たトワたちの背後に、夕闇が静かに忍び寄っていた。
 街灯の魔石が淡い光を放ち始めるが、路地裏の影を消し去るには程遠い。
 トワは、わざと人通りの少ない裏通りを選んで歩いていた。
 三歩後ろを行くシフォンが、不安げに周囲を伺う。
「……トワさん。本当に良かったんですか? あのまま敵に回したら、ギルドでの立場が……」
「立場など、ただの殻だ。中身のない殻を維持するために、自分の歩みを止める必要はない」
 トワは足を止めない。
 だが、彼の意識は、周囲三百六十度の「空間密度」を極限まで解析していた。
 空気の揺らぎ。
 建物の屋上から降る、わずかな風の遮断。
 
 ――来たか。
「シフォン、右へ三歩。そのまま動くな」
 トワの短い指示と同時に、頭上から漆黒の影が舞い降りた。
 音もなく放たれたのは、三本の投擲短剣(スローイング・ナイフ)。
 その軌道は、シフォンの心臓を正確に狙っていた。
 キィン、と。
 金属音が一つに重なる。
 トワの抜き打ちが、三本のナイフを空中で弾き飛ばした。
 火花が散る。その一瞬の光の中に、壁に張り付く「掃除屋(クリーナー)の暗部」の姿が浮かび上がった。
「……ほう。レベル15の反応速度ではないな。噂の『効率』というやつか?」
 影から現れたのは、全身を遮光布で覆った痩身の男だ。
 ヴィクトールが飼っている、裏の始末屋。
 彼らは「数値」を信じない。ただ、確実に「命を刈り取る結果」だけを信奉する。
「シフォン。見届けていろ」
 トワは剣を構え直さない。
 脱力した腕をだらりと下げ、敵との距離(間合い)を無機質に測定する。
「お前たちが得意とする『暗殺の技術』。それもまた、突き詰めればただの計算式だ」
「理屈は死んでから言え!」
 始末屋が爆発的な踏み込みを見せた。
 目にも止まらぬ連続突き。
 だが、トワは一歩も引かなかった。
 彼は知っている。
 人間が関節を動かす際に生じる、わずかな「予備動作」を。
 筋肉が収縮する前に放たれる、神経の電気信号のような「殺気の初速」を。
 トワの身体が、氷の上を滑るように動いた。
「……最小(ミニマム)」
 敵の剣尖が、トワの喉元をコンマ数ミリで空切る。
 トワはその極限の隙間に、自分の身体を「置いた」。
 ――パキィッ。
 乾いた音が響く。
 トワの拳が、敵の肘関節を「物理的に最も脆い角度」から叩いた。
「ぐ、あああああッ!?」
 最強の始末屋が、たった一度の「接触」で地面に転がる。
 トワは追撃せず、ただ冷たく見下ろした。
「一万回殺された経験があれば、お前の次の突きがどこへ来るか、三秒前に答えが出ている。……レベルを上げろ。お前の『技術』は、まだノイズが多すぎる」
 トワは再び、何事もなかったかのように歩き出した。
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