ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

12、星の綺麗な夜は

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「よし、次は派手に温泉を作ろう」

 悠人がそう言って【施設】の項目に指を滑らせると、ミアは落ち着いた顔で頷いた。驚くでもなく、当たり前のように話を受け取る。

 「お風呂なら、室内がいいね。最初はそれが安心だね」
 
 「うん。疲れてる人もいるから、熱すぎない方がいいな」

 悠人は、どんな作りにするかを考えながら、表示された仕様を一つずつ見直した。

 「長く入れることを優先しよう。安全のためにも滑りにくい床も欲しいな」

 「うん。私は、ゆっくり入れる方が好き」

 ミアは嬉しさや楽しみの顔を作りながら言うが、表情は真面目だ。さっきまで「風呂が欲しい」と言っていたのは客の方だが、ミアもその必要性をちゃんと分かっている。

 悠人は温度と深さを調整し、浴場の大きさを決める。次に、仕切りと更衣のためのスペース、水場を追加した。派手な飾りより、まず使いやすさが最優先。そして最後に確定を押す。

 ダンジョンの奥の岩肌が、静かに組み替わった。石造りの壁が立ち、広い入口ができる。中に入ると、床は滑りにくい素材で、足裏に引っかかりがある。

「うん、これなら安心だな」

 天井は高く、息苦しさはない。湯気がふわりと漂い、湯が流れる音が心地よく響いた。浴場の中央には大きな湯船だ。縁は丸く、もたれても痛くない形で作り上げた。細かいところまで調整するのが、信頼関係でも重要だ。

 ミアが靴を脱いで一歩入る。

 「……ちゃんと良い温泉だね」

 「そうだろ。気を遣わず、リラックスできる最高の場所にしたい」

 悠人はそう言って、仕切りを確認した。男女で分けられるように入口が二つあり、間に共用の通路。更衣の棚も最低限揃っている。

 「これなら、誰でも使えるね」

 ミアが言うと、悠人は頷いた。

 「ルールも簡単でいい。順番を守り、騒ぎすぎない、それくらいで。あまり堅苦しいものはかえって疲労がたまるだけだ」

 準備が整うと、宿泊者たちに声をかけた。昨日から泊まっている旅人たちは、最初は半信半疑だったが、湯気の匂いが漂ってくると顔つきが変わった。

 「まさか、本当に風呂があるとは」
 「助かるよ……旅で一番欲しいやつだ」

 若い冒険者も、手伝いの合間に目を輝かせた。

 「旅でこれが一番助かります。泥も汗も落ちますから」

 「順番に入って。慌てなくていいよ」

 悠人は穏やかに言い、客が気まずくならないように間を作る。ここで、気まずくなるのはさすがにきつい。わかるだろ?

 入浴を終えた人たちは、揃って顔が緩んでいた。髪が少し湿り、頬が赤い。

 「生き返ったー」
 「足の疲れがすっかり抜けた。これ、最高 だろ」
 「明日もここに寄りたい」

 ミアは少し離れた場所でその様子を見ていた。ミアとしても、みんなが楽しくゆったりできる空間として認識されているのが、嬉しいのだろう。

 「みんな、ちゃんと休めてるね」

 ミアがぽつりと言う。
 悠人は頷き、冒険者たちを見ながら返した。

 「頑張って来た人たちだからさ。ここでは、無理せずゆっくり休んでほしいんだ」

 ミアは小さく笑った。

 「そうだね。そういう場所だもんね、ここは」

 その日、カフェの方も忙しかった。ジュースの匂いは人を呼び、宿泊棟もすぐ埋まる。けれど、温泉ができたことで空気が変わった。休める場所になった、という実感が客にも伝わっている。

 夜になり、入浴の波が落ち着くと、宿泊者の何人かが外へ出てきた。ダンジョンの入口付近は開けていて、空がよく見える。湯上がりの体に夜風が当たり、誰かが大きく息を吐いた。

 「はぁ~、今日は、星が綺麗だな」

 言ったのは、一人の冒険者だった。さっきまで湯に浸かっていたのだろう、肩の力が抜けている。彼は空を見上げたまま、少し笑って続けた。

 「外で入れる風呂があったら、もっと最高だろうな」

 悠人はすぐに返事はできなかったが、空を見上げた。確かに、澄んでいて気持ちが良い空だ。雲が少なく、星の光が多い。静かで、遠くの王都の灯りも小さく見える。ここがダンジョンの入口だということが、かえって現実味を薄くしていた。そんな良い景色だ。

 「……確かに、今日はいい夜だ」

 悠人は短く、穏やかに答えた。
 ミアは隣に立ち、同じ空を見上げる。尻尾が小さく揺れている。驚いたり、慌てたりはしない。ただ、当たり前のように言った。

 「外のお風呂、気持ちいいかもね。この景色も見ながらとか」

 悠人はうなずき、黙って【施設】の項目を開き、表示を流した。そこには、まだ触れていない選択肢が並んでいる。露天、岩風呂、景観、温度帯。作れば、確実に人は増える。それに、今夜の空を見ていると、それは悪いことには思えなかった。

 「……まずは、今日の片付けを終わらせよう」

 悠人が言うと、ミアは素直に頷いた。

 「うん。でも、外の温泉の場所も考えておこうね」

 冒険者たちは名残惜しそうに空を見続け、やがて一人ずつ宿へ戻っていった。温泉の入口からは、まだ湯の音が小さく聞こえる。

定住者:2人
観光客:増加中(宿泊者・日帰り客)
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