ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

13、星見の露天風呂

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「今日は、星が綺麗だな」

 湯上がりの冒険者が空を見上げて言った言葉が、妙に頭に残った。室内の温泉は評判がいい。疲れた顔で入っていった人が、少し軽くなった顔で出てくる。冷えた身体や疲れきった身体を回復させる人気スポットだ。

 それだけでも作った甲斐はあった。けれど、外の空気と星がそろう夜なら、もう一段“特別”になる。

 片付けが一段落したころ、悠人はミアと並んでダンジョンの入口付近に立った。外気は冷たく、温泉の湯気が薄く漂う。ミアは空を見上げた。

 「星を見ながらの外のお風呂、最高に気持ちいいかもね」

 ミアが落ち着いた声で言う。
 悠人は同意するように頷いた。

 「間違いないな。作るなら、ちゃんと落ち着けて、安らぐ形にしよう」

 悠人は【施設】を開き、露天風呂の項目を選ぶ。派手に広げる必要はない。まずは小さく、静かに。長く浸かれる温度で、騒ぐ場所にしない。視線も気にならないよう、囲いを作る。

 「たしか、岩が多い場所があったよね」

 ミアが指をさす。

 「そうだな。あそこなら囲いもしやすい。湯気も溜まりすぎないしな」

 悠人は柔らかく答え、配置を決めた。

 確定を押すと、ダンジョンの奥の岩肌が静かに組み替わった。石を積んだ縁、滑りにくい床、湯が溜まる浅めの湯船。背の高い柵と、木の目隠しが周囲を囲み、外からの視線を遮る。上を見上げれば空が切り取られていて、そこだけは開いている。配慮、安全性共に問題はないはずだ。

 湯が流れる音が小さく響き、湯気が外気に溶けていった。
ミアは入口で一度立ち止まり、湯の音を聞いてから言った。
 
「いいね。ここは静かだね」
 
「夜に入るとっておきの場所だな」

 悠人は頷き、簡単な案内を付けた。今日は宿泊者限定とし、人数も絞る。特別な場所を落ち着いて使ってもらうためだ。

 しばらくして、宿泊者たちが露天の存在に気づき始める。最初は半信半疑で覗き込み、次に顔が緩む。

 「外にもあるのか!?」
 「風が気持ちよさそうだな」

 若い冒険者――数日手伝うと言っていた彼も、作業の手を止めて目を丸くした。

 「……露天まで作ったんですね。悠人さんはすごいですね」

 悠人は笑って返す。
 
 「落ち着ける場所があると、旅は楽になるだろ」

 「はい。正直、最高です……」

 夜になり、最初の宿泊者が露天に入った。湯気が上がり、誰かが息を吐く音が聞こえる。風が肩を撫で、湯の温度が身体を包む。視線は自然と空へ向かう。

 「……こりゃ、帰りたくなくなるな」

 誰かが小さく呟くと、湯の中で笑いが起きた。派手じゃない。静かな、納得の笑いだ。
ミアは露天の外、入口付近で様子を見守っていた。

 尻尾がゆっくり揺れ、満足した顔で立っている。悠人も少し離れた位置で、客の声と湯の音を聞いた。騒がしくはなく、求めていた理想の雰囲気だった。

 露天の利用が落ち着いたころ、毎日来ていた旅人の一人が悠人に声をかけた。

 「なあ……明日も来ていいか?」

 悠人は頷き、優しく返した。

 「もちろん。無理のない範囲でな」

 「無理したって、この温泉で回復だぜ」

 旅人は照れたように笑い、宿へ戻っていった。
 
 翌日も人がたくさん来た。フルーツジュースの匂いに引かれて、宿泊棟の扉が埋まっていく。露天の噂も広がり、入っていない人が「今夜は入れるか」と尋ねる。

 悠人は順番を整え、ミアは案内をする。自然と“ここを拠点にする”空気が生まれ始めた。

 数日手伝うと言っていた若い冒険者が、カウンターの裏で器を拭きながら言った。

 「俺、もう少しいてもいいですか。ここ、動きやすいんで」

 悠人は手を止め、相手を見る。

 「旅の予定は大丈夫か」

 「ずらせます。数日って言ったの、ちょっと短すぎました。正直まだまだいたいです」

 悠人は軽く笑った。

 「分かった。無理に決めなくていい。手伝えるときに手伝ってくれ」

 若者はほっとした顔で頷いた。
 別の屈強な旅人も言う。

 「部屋、空いてるか? 毎日通うより、ここに居た方が楽だ」

 ミアが先に答えた。

 「あるよ。住みたいなら、空いてるところ使っていい」

 その旅人は戸惑いながらも、嬉しそうに笑った。
 こうして、定住者が増え始めた。悠人とミアだけだった場所に、手伝いがいて、泊まり続ける人がいる。賑やかになったというより、生活が厚くなった感じがする。

 カフェの方も変化していた。ジュースは相変わらず人気だが、客の口から別の要望が出始めた。

 「これにミルクがあったら、もっと嬉しいな」

 「果物にチーズとか合わせたら絶対うまい」

 悠人はその言葉を聞いて、作業の手を止めた。フルーツは自給できる。水もある。けれど乳製品は外から買うしかない。毎回仕入れるのは現実的じゃない。観光客が増えるほど、必要量は増える。

 「これは毎回買うのは、無理だな」

 悠人が小さく言うと、ミアは当然のように返した。

 「だったら、育てたらいいんじゃない?」

 「……つまり牧場、か。いつもとは違う方向性だな」

 悠人は頷き、ダンジョンの空き区画を思い浮かべる。水と草地と動物を置ける余地はある。
 悠人は【施設】の項目を開き、そこに並ぶ文字を見た。

 【牧場】

 指先が止まる。
 ミアが横から覗き込んだ。

 「小さくでいいよ。まずは試してみよう」
 
 悠人は柔らかく笑って答えた。

 「いつもと違うし、最初は小規模でいこう。カフェの仕入れが安定したら、もっと楽になる」

 遠くで、宿泊者の笑い声が聞こえる。露天に入りたいと順番を待つ声もある。もう「通り道」じゃない。ここは、滞在する場所になっていた。

定住者:4人
観光客:18人


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