ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

14、牧場を作ったら、忙しくなった

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翌日、カフェの前がいつもより早く騒がしかった。ジュースの香りに引かれて来る人は相変わらずいるが、今日は「朝に飲みたい」「軽く何か食べたい」という空気が混ざっている。

 宿泊棟ができ、温泉ができ、露天風呂までできたせいで、この場所は“寄る場所”から“過ごす場所”になっていた。

 悠人はカウンターの裏で、保存容器の残りを確認した。

 「朝は、軽く食べられるものが欲しいな」

 口に出すと、ミアが横から頷く。尻尾は落ち着いたゆったりした揺れ方だ。

 「ジュースだけだと、お腹が空くもんね」

 「しかも、毎回仕入れに頼ると回らないのが助かる」

 悠人はそう言って、ウィンドウを開いた。前夜に見た【牧場】の文字が、まだそこにある。

 ミアは驚かない。もう流れを理解している顔で言った。

 「乳が取れる動物がいれば、毎日が安定するね」

 「そうそう。とりあえず小さく、世話が行き届く範囲で良いな」

 悠人は【施設】から【牧場】を選び、規模を最小に寄せた。草地、柵、小屋。そして、動物は少数。ミルク用と卵用が中心だ。派手に増やすと世話が追いつかない。今の目的は“カフェの仕入れ”を安定させることだ。

 確定を押すと、ダンジョンの一角が静かに変わった。土が柔らかな草地に置き換わり、木の柵が組まれ、小さな小屋ができる。動物の鳴き声が控えめに響き、空気の匂いが少し変わった。畑の緑とは別の、温かい匂いだ。

 ミアは柵の外で立ち止まり、距離を取ったまま観察する。

 「あれ?思ったより静かだね」

 「意外だな。まぁでも怖がらせない方がいい。慣れるまで少しずつだな」

 悠人は柔らかい声で返した。
そのとき、若い冒険者――数日前に迷子で来て、今は手伝いをしている若者が、自然な動きで牧場へ近づいた。柵の前にしゃがみ、動物の様子を見て、落ち着いた手つきで餌の位置を直す。動物が嫌がらない距離感で、動作が無駄なく滑らかだった。

 ミアが気づいて声をかける。

 「慣れてる?」

 若者は振り向き、少し照れたように笑った。

 「実家、牧場だったんです。旅に出る前、毎日世話してました」

 「なるほど……」

 悠人は頷き、少しだけ安心した。動物の世話は慣れが要る。頼れる手があるのは大きい。

 若者は立ち上がり、改めて頭を下げた。

 「今さらですが、まだちゃんと名乗ってませんでしたよね。俺、レオって言います」

 ミアがぱっと笑って言う。

 「そうだったね。レオだね。よろしく」
 
悠人も頷く。

 「よろしく、レオ。無理しない範囲で頼む」

 「はい。むしろ、こういうのは落ち着きます。よろしくお願いします!」

 牧場ができたことで、カフェの動きも変わり始めた。すぐに大量の乳製品が出るわけではない。けれど、少量でも“使い道”がある。悠人は圧搾器の横に簡易キッチンを整え、ミアとレオに手伝ってもらいながら試作を始めた。

 「新メニューを作りたい!」

 ミアがはっきり言う。

 「よし、まずは簡単なのからだな」

 悠人が返すと、レオが興味深そうに身を乗り出した。

 「何を作るんです?」

 「フルーツミルクがいいかな。甘い果物を少し潰して、ミルクで割る。朝にちょうどいい」

 「絶対うまいやつですね」

 ミアは果実を小さく切り、軽く潰す。悠人が冷やしたミルクを注ぎ、混ぜる。濃い色が淡くなっていき、香りが柔らかく丸くなる。試しにミアが一口飲んだ。尻尾がぴんと立つ。

 「うわ!これ好きなタイプだ!いつものジュースより優しい味だよ!」

 悠人も頷いた。

 「これは朝向きだな」

 レオが恐る恐る飲み、目を見開いた。

 「……これ、売れますよ。いや、もう売れてます」

 「まだ出してないよ」

 悠人が笑うと、ミアがカウンターの外に顔を出して声をかけた。

 「新しいのできたよ。みんな飲んでみるー?」

 客がすぐ集まった。昨夜泊まった旅人、露天風呂を目当てに来た人、偶然匂いに引かれた通りすがり。フルーツミルクの器が並ぶと、皆が一口飲んで表情を緩めた。

 「これ、朝にちょうどいいな」
 「甘いのに重くない」
 「もう一杯、もう一杯ください!」

 悠人は裏で補充しながら、改めて思った。牧場を作った意味が出た。フルーツだけのカフェから、少しずつ“朝の店”に変わる。滞在する人が増えるほど、こういうものが効く。

 忙しさが落ち着いたころ、レオが器を拭きながら言った。

 「わがままですが、俺、毎日来るの、正直大変になってきました」

 「そうだな。動物の世話もあるしな」

 悠人が返すと、ミアが自然に言う。

 「だったら、住んだ方が楽じゃない?」

 レオは一瞬、言葉を飲み込んだ。冗談でも押しつけでもない、軽い提案。けれど、軽いからこそ刺さったらしい。

 「……確かに」

 レオは少し笑って言った。

 「毎朝ここに来るなら、移動する方が無駄ですね。数日って言ってたけど、もう少しいてもいいですか」

 悠人は頷く。

 「もちろん。無理に決めなくていいけど、落ち着けるならその方がいい」

 「じゃあ、今日から、そうします!」

 それを聞いていた別の旅人が、カウンター越しに言った。

 「俺も……拠点にしていいか? 露天と温泉がある場所なんて、そうそうない」

 ミアが即答する。

 「いいよいいよ!部屋、空いてるところあるし!」

 旅人はほっとした顔で笑い、荷物を抱え直した。

 こうして、定住者がまた増えた。部屋に出入りする足音が増え、朝の時間がさらに早く動き始める。悠人は牧場、畑、カフェ、宿泊棟を順に見回し、動線が詰まり始めているのを感じた。

 ミアが率直に言う。

 「でも部屋、足りなくなってきたね」

 悠人は頷き、優しい声で答えた。

 「困ったなあ。無理に詰めるのは、よくないな。何があっても落ち着けるのが一番大事だ」

 悠人はウィンドウを開き、【住居】の項目へ指を移した。個室を増やすだけじゃ足りない。人が増えるなら、最初から“区画”として整えた方がいい。道、共用スペース、暮らしの距離感。

 ミアが横に立ち、尻尾をゆっくり揺らす。
 
 「ちゃんと住む場所、家を作ろう」

 悠人は頷いた。

 「そうだな。次は住む人のために、住居区画で家を作るぞ!」

定住者:6人
観光客:23人

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