時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは

文字の大きさ
127 / 137

127.サイン

しおりを挟む
今回のワルダン商会の訪問は勿論契約する為だ。現領主のイーダン子爵は来週には屋敷を引き払って王都に向かい、陛下に爵位を返上しその足でシュナイダー領の港から甥がいるシャルマン公国へ移住される。子爵が領主で無くなるにあたり、新たな領主と契約を結び直さなければならない。
レイシャルでは領地で発生する契約は全て領主のサインが必要で、その契約書で発生する利益の何割かを税として領主におさめる様になっている。
だから契約のサインはとても重要なのだ。
ヘルマンさんが調べたところワルダン商会がイーダン領に会社を構え契約するようになってから、領主である子爵様への納税が極端に減っている。

恐らく商会はこちらが契約を渋らない様に納税率を上げ契約書を作成してくるだろう。そしてサインをさせ例の偽造を図り、偽造した低い税率を主張してくるはずだ。

「本当に灰汁どいよね!」
「そろそろ天罰を下そう」

そう言い悪い顔をして笑うアレックスとヘルマンさん。記憶が危うい子爵様を騙し詐取して来たのだから、そろそろおロープちょうだいしてもらおう。
そしてアレックスは勇退されるイーダン子爵の為に、この屋敷と領地内の別宅を相場より高く買い取ったそうだ。アレックス曰くこの位ではワルダンに詐取されていた額には届かないが、老後を豊かに過ごせるだけ額はあると言う。

「きちんとワルダンから巻き上げるから心配するな」

アレックスはそう言い楽しそうに笑った。
  
“コンコン”

「ワルダン商会の会頭がお見えになりました。お通ししてよろしいでしょうか」

悪人登場だ。アレックスとヘルマンさんと顔を見合わせ頷く。程なくして会頭が現れた。
会頭は今日も朝からぎらついた顔をして登場し、一応早朝に訪問した事を謝った。

「朝早くに訪問し申し訳ございません。ですが伯爵様と奥様の滞在が短いとお聞きいたしました。それ故に急ぐ心中をお察しいただきたく…」

そう言い頭を下げた。アレックスは表情を変えることなく会頭の話に耳を傾けると、会頭は鞄から書類を取り出しアレックスの前に置いた。説明を受けなくても分かる契約書だ。

「ここでは全ての生産者の公平を期すために実の栽培から販売まで我が商会が仲介し、公平に取引を行い領民全てが豊かになる様に我が商会が尽力しております。領主様がお代わりになられても、今まで通りの条件でご契約を頂きます様、お願い申し上げます」

一見会頭の言葉は領民想いのいい人に聞こえるが、利益の分配は圧倒的に商会が多く、とてもじゃないけど領民の事を思っているなんて思えない。
喉まで出ている文句をお茶で飲み込み、分からないふりをして契約書に目を通す。

「何故こんなに沢山あるのですか?」

知らないふりをして会頭に質問すると、少し顔を上げ見下した様な態度で

「この領地で私共が仲介する者達全ての契約書をお持ちしました。契約内容は生産者と合意済みで、後は領主様のサインで成立いたします。サイン後は私が商会に契約書を持ち帰り、契約内容と納税に関する資料を作り、控と共に後日お持ち致します。イーダン子爵家様とも同様にさせていただいておりました」

持ち帰って偽造するのよね。良心的に見せかけてやりたい放題じゃん!

「こんな短時間でよく揃えましたね。こんな大切な契約はもっと時間をかけるものだと思っていましたわ」

嫌な言い方をすると会頭はあからさまに私を睨んだ。それにアレックスが反応したが、アレックスの手を取り微笑んだ。あくまでも何も知らない無知な妻の悪意のない質問なのだ。アレックスが反応してはいけない。
そして早く契約を取り付けたい会頭は私を無視して契約書の束をアレックスの前に置いた。ここから大芝居が始まる。アレックスは珍しく微笑み会頭を見て

「今回の契約のサインは妻にしてもらうつもりだ。妻は私の半身で妻のする事は全て私がしたと思ってくれていい」

そう言いアレックスは大袈裟に私を抱き寄せ至るところに口付けを落とす。すると会頭はニヤついて私の前に契約書を置き直してサインを求めた。
私は契約書の束を持ち立上り扉に向かった。すると慌てた会頭が

「奥様!契約書をどこへもっていくのですか!」

そう言い駆け寄ってくる。私は笑顔で

「私異世界人でしょう⁈字に自信が無いので、人前で書きたくないのです。隣の部屋で書いてきますから、少し待って下さい」
「ですが!」
「こんなちゃんとした書類を改ざん何てしませんから安心して下さい。って言うか何か書いているかよく分からないしね」

そう言い笑うとまたニヤつく会頭。きっと心の中で

『王太子妃と言ってもただの無知な女だ』

とか思っているのだろう。こうしてヘルマンさんに付き添ってもらい、隣の部屋でサインをしていく。読めば読むほどブラックな契約に笑いしか出ない。

「春香様は役者になれますね」
「無知な女になりきれてますか?」
「はい。お見事です」

こうして沢山ある契約書にサインをしていく。書き終わるまで1時間ほどかかり、契約書の束を持ち応接室に戻って来た。部屋に入るとウンザリした顔のアレックスと、興奮し饒舌な会頭がいる。
私に気付くと会頭は駆け寄り、奪う勢いで私から契約書の束を取り革の書類に入れ直ぐに鞄にしまった。

「それでは私は契約書の条件をまとめ、伯爵様にお渡しする書類を作成し、明後日またお伺い致します」
「そんなに早く出来るのですか?契約書は50件以上あるのに」

そう言うも怪訝な顔をした会頭が

「我が商会はこの領地を纏めてきた唯一の商会ですぞ。従業員も優秀な者ばかりでございます。ご心配には及びません」

そう言い冷やかな視線を向ける。すると背後から冷気が漂い焦る。演技とは言え私が見下されるい事にアレックスが怒っているのだ。このままだとバレてしまう。早く会頭に帰ってもらう為に、ヘルマンさんに視線を向けると、ヘルマンさんは察し会頭に話しかけ玄関まで送って行った。

会頭が帰ると私を抱きかかえ部屋に急ぐアレックス。夫の怒り治める為に際どいスキンシップを受け
ヘロヘロになり、そのまま寝室で少し休む事になった。
アレックスは満足し執務室に戻りヘルマンさんと、明後日来る会頭を断罪する為に打ち合わせを始めた。私はベッドで微睡みながら

『明日は確か領地を視察し、明後日はワルダン商会を断罪するのよね…あれ?今回は 新婚旅行ハネムーンじゃなかったけ?』

全く旅行要素の無い事に苦笑いし、唯一旅行らしい明日の領地視察を楽しみに眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

恋愛
「神に祈るだけで曖昧にしか治らない。そんなものは治療とは言わない」  男尊女卑が強い国で、女であることを隠し、独自の魔法を使いトップクラスの治療師となり治療をしていたクリス。  ある日、新人のルドがやってきて教育係を押し付けられる。ルドは魔法騎士団のエースだが治療魔法が一切使えない。しかも、女性恐怖症。  それでも治療魔法が使えるようになりたいと懇願するルドに根負けしたクリスは特別な治療魔法を教える。  クリスを男だと思い込み、純粋に師匠として慕ってくるルド。  そんなルドに振り回されるクリス。  こんな二人が無自覚両片思いになり、両思いになるまでの話。 ※最初の頃はガチ医療系、徐々に恋愛成分多めになっていきます ※主人公は現代に近い医学知識を使いますが、転生者ではありません ※一部変更&数話追加してます(11/24現在) ※※小説家になろうで完結まで掲載 改稿して投稿していきます

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人
恋愛
 私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!  素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。  しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!  ……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?  私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!! ※【エブリスタ】でも公開しています。  【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...