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「アシュリー。最後に、一度だけ」
抱きしめさせてと、殿下が言い終わるその前に、腕の中に私から飛び込んだ。
「ルシオ様」
私の大好きな香りが鼻をくすぐって、くすぐられた鼻がツンとした痛みを呼んでくる。
まだ、駄目。
「お互いの名前を呼べるのも。これが最後だね」
これからは、王と臣下となってしまう私達に、それぞれ別の配偶者を据えなくてはならない私達に、お互いの名前を呼ぶことは許されない。
「ルシオ様」
震えそうになる声で、ただ愛しい人の名前を呼ぶことしかできない。
「アシュリー。すまない…」
この国を頼む。と、穏やかな声で告げるルシオ様の腕は、私が最も安心できるこの場所は、もう私の居場所にはならない。
この私の大好きな腕と、香りに包まれるのは、私ではなく妹なのだ。
どうあっても、この国の行く末を考えたときには。この方と妹の間にも、子供が望まれるだろう。
それこそ。今回のような事態が起きた場合には、スペアとしての家系が必要なのだ。
私達は王族である。それは。こういうことだ。
それでも。
「ルシオ様。一つだけ、お願いがございます」
「アシュリーの願いならば、いくつでも。どんなことでも」
私を抱きしめる腕に微かに力がこもる。
「香りを、変えてくださいますか?」
これは、これだけは、私達だけの思い出の残り香。
「ああ、そうしよう…」
「ありがとうございます」
ぎゅうっと、最後に力を込めて愛しい人を抱きしめる。
私達は、これでおしまい。
それでも、せめて、この香りに包まれるのは、私だけ―――。
きっと、いつか。遠い未来に。永遠にきてほしくはないその日に。
私は、思い出に縋って、一度だけ。
あのお茶を口にするだろう。
抱きしめさせてと、殿下が言い終わるその前に、腕の中に私から飛び込んだ。
「ルシオ様」
私の大好きな香りが鼻をくすぐって、くすぐられた鼻がツンとした痛みを呼んでくる。
まだ、駄目。
「お互いの名前を呼べるのも。これが最後だね」
これからは、王と臣下となってしまう私達に、それぞれ別の配偶者を据えなくてはならない私達に、お互いの名前を呼ぶことは許されない。
「ルシオ様」
震えそうになる声で、ただ愛しい人の名前を呼ぶことしかできない。
「アシュリー。すまない…」
この国を頼む。と、穏やかな声で告げるルシオ様の腕は、私が最も安心できるこの場所は、もう私の居場所にはならない。
この私の大好きな腕と、香りに包まれるのは、私ではなく妹なのだ。
どうあっても、この国の行く末を考えたときには。この方と妹の間にも、子供が望まれるだろう。
それこそ。今回のような事態が起きた場合には、スペアとしての家系が必要なのだ。
私達は王族である。それは。こういうことだ。
それでも。
「ルシオ様。一つだけ、お願いがございます」
「アシュリーの願いならば、いくつでも。どんなことでも」
私を抱きしめる腕に微かに力がこもる。
「香りを、変えてくださいますか?」
これは、これだけは、私達だけの思い出の残り香。
「ああ、そうしよう…」
「ありがとうございます」
ぎゅうっと、最後に力を込めて愛しい人を抱きしめる。
私達は、これでおしまい。
それでも、せめて、この香りに包まれるのは、私だけ―――。
きっと、いつか。遠い未来に。永遠にきてほしくはないその日に。
私は、思い出に縋って、一度だけ。
あのお茶を口にするだろう。
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