15 / 43
お茶会編 Re:start
15.気を取り直して、ここから
しおりを挟む
「すまなかった、ジゼル。まさかお前の妹が来るとは私も想定外だった。新たな門出のささやかな祝いにと思ったが……とんだお茶会になってしまったな」
フリージア夫人が疲れたお顔で眉間を揉んでらっしゃいます。素の口調が出てしまっている辺り、余程ご心労をかけてしまったようです。
「いえ。流石に招待状の売買が行われるなんて想像出来ませんよ。それもよりにもよってリーファに売るなんて……」
当時、リーファがあれこれ吹聴して回ったおかげで出禁の件は広く知られております。フリージア夫人に招待を受ける方がそのことを知らないとは思えないので、その方は知っていて招待状を売ったのでしょう。
何処のどなたか存じませんが、やってくれましたね……。
巡り巡って甚大な被害を受けたので、顔も知らない方にそんなことを思ってしまいました。
「招待状を売った者は招待客で参加してない者を洗い出せば突き止められるだろう。付き合い方を考え直さなくてはな、全く」
書類の山を片付けたと思ったら、その矢先に新しい書類の山を積み上げられたような顔でフリージア夫人は腕を組んだまま肩を落とされました。お茶会の接待も立派な夫人のお仕事ですけれど、フリージア夫人は息抜きになると仰っていたので、言わば余暇中に仕事を持ち込まれるようなものでしょうか。
私も何度か経験がありますけれど、仕事中に厄介な案件を持ち込まれることよりも疲労感を感じるんですよね、あれ。
招待状を売った不埒者の処断はフリージア夫人にお願いするとして──問題はここからです。
当初の予定ではフリージア夫人へのご挨拶を済ませたら、オウル様のご友人から順々に挨拶回りをするはずでしたのに、完全に出鼻を挫かれました。
先程のリーファとロウ様との会話をこの場にいる多くの方々に目撃されてしまいました。
消えかかった火が再び燃え上がるように、消費期限が切れかかっていた噂が息を吹き返してしまったと思うのは気のせいではないでしょう。
少なくとも、私たちの会話が聞こえる範囲にいた方々は見事に視線を二分させています。
私たちに探るような好奇の目を向けてくる方々と、先程のことなんてなかったかのように楽しげに飲み物を選んでいるリーファとロウ様を信じられないものを見る目で見ている方々。
──後者の方々のお顔は覚えておきましょう。気が合いそうです。
「せっかくオウル様のお時間を頂いたのに、こんなことになってしまうなんて──」
「落胆することないよ、ジゼル。予定は少し狂っちゃったけど、今から僕の友人たちに挨拶に行こう。大丈夫、皆、ああいうのは気にしない人たちだから」
「オウル様の仰る通りだ。落ち込んで立ち止まるよりも、そこから巻き返すことへ取り組めば今よりはいい方向へ向かう。友人方への挨拶が済んだら、一度私の元に戻って来なさい。お詫びにその後の挨拶回りに付き合おう」
「そんな──フリージア夫人にお詫びして頂くことなんてありません。私のためを思ってご招待下さったのでしょう?」
「その通りだが、故意ではなくても開けたケーキの箱の中身が潰れていたら代わりを用意するだろう? 生憎、ケーキみたいに買い直してどうこうなる問題ではないから別のことで補填させて貰うしかないが」
「ですが──」
利用出来るものは利用すべきだと言う合理的な私がいますが、フリージア夫人はずっとお世話になってきた恩師です。これからいっそう自立しなくてはならない時にそこまで甘えてしまっていいのかと良心が躊躇わせます。
「使えるものは使えと教えただろう。お前は本当に人に頼るのが下手だね。大抵のことは自力で何とか出来てしまってきたせいだろうが──それでも気が引けるのなら、言い方を変えよう。私の好意を無下にするな」
「……では、お言葉に甘えさせて頂きます」
返って気を使わせてしまっては元も子もないので、ご提案を受け入れることにしました。実際、フリージア夫人からご助力頂けるのは虎に翼で嬉しいことです。
「お心遣い感謝します。では、友人の紹介を終えたらお声掛けさせて頂きますね」
オウル様と二人で感謝の会釈をすると、フリージア夫人は満足げに頷かれました。
「ところで、フリージア夫人は勇ましい喋り方をされるんですね。格好良いです」
「────あ」
「ふふっ」
オウル様の何気ない言葉に、珍しい表情をされたフリージア夫人が見られて私はつい小さく笑ってしまいました。
フリージア夫人が疲れたお顔で眉間を揉んでらっしゃいます。素の口調が出てしまっている辺り、余程ご心労をかけてしまったようです。
「いえ。流石に招待状の売買が行われるなんて想像出来ませんよ。それもよりにもよってリーファに売るなんて……」
当時、リーファがあれこれ吹聴して回ったおかげで出禁の件は広く知られております。フリージア夫人に招待を受ける方がそのことを知らないとは思えないので、その方は知っていて招待状を売ったのでしょう。
何処のどなたか存じませんが、やってくれましたね……。
巡り巡って甚大な被害を受けたので、顔も知らない方にそんなことを思ってしまいました。
「招待状を売った者は招待客で参加してない者を洗い出せば突き止められるだろう。付き合い方を考え直さなくてはな、全く」
書類の山を片付けたと思ったら、その矢先に新しい書類の山を積み上げられたような顔でフリージア夫人は腕を組んだまま肩を落とされました。お茶会の接待も立派な夫人のお仕事ですけれど、フリージア夫人は息抜きになると仰っていたので、言わば余暇中に仕事を持ち込まれるようなものでしょうか。
私も何度か経験がありますけれど、仕事中に厄介な案件を持ち込まれることよりも疲労感を感じるんですよね、あれ。
招待状を売った不埒者の処断はフリージア夫人にお願いするとして──問題はここからです。
当初の予定ではフリージア夫人へのご挨拶を済ませたら、オウル様のご友人から順々に挨拶回りをするはずでしたのに、完全に出鼻を挫かれました。
先程のリーファとロウ様との会話をこの場にいる多くの方々に目撃されてしまいました。
消えかかった火が再び燃え上がるように、消費期限が切れかかっていた噂が息を吹き返してしまったと思うのは気のせいではないでしょう。
少なくとも、私たちの会話が聞こえる範囲にいた方々は見事に視線を二分させています。
私たちに探るような好奇の目を向けてくる方々と、先程のことなんてなかったかのように楽しげに飲み物を選んでいるリーファとロウ様を信じられないものを見る目で見ている方々。
──後者の方々のお顔は覚えておきましょう。気が合いそうです。
「せっかくオウル様のお時間を頂いたのに、こんなことになってしまうなんて──」
「落胆することないよ、ジゼル。予定は少し狂っちゃったけど、今から僕の友人たちに挨拶に行こう。大丈夫、皆、ああいうのは気にしない人たちだから」
「オウル様の仰る通りだ。落ち込んで立ち止まるよりも、そこから巻き返すことへ取り組めば今よりはいい方向へ向かう。友人方への挨拶が済んだら、一度私の元に戻って来なさい。お詫びにその後の挨拶回りに付き合おう」
「そんな──フリージア夫人にお詫びして頂くことなんてありません。私のためを思ってご招待下さったのでしょう?」
「その通りだが、故意ではなくても開けたケーキの箱の中身が潰れていたら代わりを用意するだろう? 生憎、ケーキみたいに買い直してどうこうなる問題ではないから別のことで補填させて貰うしかないが」
「ですが──」
利用出来るものは利用すべきだと言う合理的な私がいますが、フリージア夫人はずっとお世話になってきた恩師です。これからいっそう自立しなくてはならない時にそこまで甘えてしまっていいのかと良心が躊躇わせます。
「使えるものは使えと教えただろう。お前は本当に人に頼るのが下手だね。大抵のことは自力で何とか出来てしまってきたせいだろうが──それでも気が引けるのなら、言い方を変えよう。私の好意を無下にするな」
「……では、お言葉に甘えさせて頂きます」
返って気を使わせてしまっては元も子もないので、ご提案を受け入れることにしました。実際、フリージア夫人からご助力頂けるのは虎に翼で嬉しいことです。
「お心遣い感謝します。では、友人の紹介を終えたらお声掛けさせて頂きますね」
オウル様と二人で感謝の会釈をすると、フリージア夫人は満足げに頷かれました。
「ところで、フリージア夫人は勇ましい喋り方をされるんですね。格好良いです」
「────あ」
「ふふっ」
オウル様の何気ない言葉に、珍しい表情をされたフリージア夫人が見られて私はつい小さく笑ってしまいました。
501
あなたにおすすめの小説
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」
幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。
クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。
そんなある日クラスに転校生が入って来た。
幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新不定期です。
よろしくお願いします。
性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました
クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。
十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。
我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。
誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。
9年ぶりに再会した幼馴染に「幸せに暮らしています」と伝えたら、突然怒り出しました
柚木ゆず
恋愛
「あら!? もしかして貴方、アリアン!?」
かつてわたしは孤児院で暮らしていて、姉妹のように育ったソリーヌという大切な人がいました。そんなソリーヌは突然孤児院を去ってしまい行方が分からなくなっていたのですが、街に買い物に出かけた際に9年ぶりの再会を果たしたのでした。
もう会えないと思っていた人に出会えて、わたしは本当に嬉しかったのですが――。現状を聞かれたため「とても幸せに暮らしています」と伝えると、ソリーヌは激しく怒りだしてしまったのでした。
どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね
柚木ゆず
恋愛
※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。
あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。
けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。
そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる