妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶

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お茶会編 Re:start

15.気を取り直して、ここから

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「すまなかった、ジゼル。まさかお前の妹が来るとは私も想定外だった。新たな門出のささやかな祝いにと思ったが……とんだお茶会になってしまったな」

 フリージア夫人が疲れたお顔で眉間を揉んでらっしゃいます。素の口調が出てしまっている辺り、余程ご心労をかけてしまったようです。

「いえ。流石に招待状の売買が行われるなんて想像出来ませんよ。それもよりにもよってリーファに売るなんて……」

 当時、リーファがあれこれ吹聴して回ったおかげで出禁の件は広く知られております。フリージア夫人に招待を受ける方がそのことを知らないとは思えないので、その方は知っていて招待状を売ったのでしょう。
 何処のどなたか存じませんが、やってくれましたね……。
 巡り巡って甚大な被害を受けたので、顔も知らない方にそんなことを思ってしまいました。

「招待状を売った者は招待客で参加してない者を洗い出せば突き止められるだろう。付き合い方を考え直さなくてはな、全く」

 書類の山を片付けたと思ったら、その矢先に新しい書類の山を積み上げられたような顔でフリージア夫人は腕を組んだまま肩を落とされました。お茶会の接待も立派な夫人のお仕事ですけれど、フリージア夫人は息抜きになると仰っていたので、言わば余暇中に仕事を持ち込まれるようなものでしょうか。
 私も何度か経験がありますけれど、仕事中に厄介な案件を持ち込まれることよりも疲労感を感じるんですよね、あれ。
 招待状を売った不埒者の処断はフリージア夫人にお願いするとして──問題はここからです。
 当初の予定ではフリージア夫人へのご挨拶を済ませたら、オウル様のご友人から順々に挨拶回りをするはずでしたのに、完全に出鼻を挫かれました。
 先程のリーファとロウ様との会話をこの場にいる多くの方々に目撃されてしまいました。
 消えかかった火が再び燃え上がるように、消費期限が切れかかっていた噂が息を吹き返してしまったと思うのは気のせいではないでしょう。
 少なくとも、私たちの会話が聞こえる範囲にいた方々は見事に視線を二分させています。
 私たちに探るような好奇の目を向けてくる方々と、先程のことなんてなかったかのように楽しげに飲み物を選んでいるリーファとロウ様を信じられないものを見る目で見ている方々。
 ──後者の方々のお顔は覚えておきましょう。気が合いそうです。

「せっかくオウル様のお時間を頂いたのに、こんなことになってしまうなんて──」

「落胆することないよ、ジゼル。予定は少し狂っちゃったけど、今から僕の友人たちに挨拶に行こう。大丈夫、皆、ああいうのは気にしない人たちだから」

「オウル様の仰る通りだ。落ち込んで立ち止まるよりも、そこから巻き返すことへ取り組めば今よりはいい方向へ向かう。友人方への挨拶が済んだら、一度私の元に戻って来なさい。お詫びにその後の挨拶回りに付き合おう」

「そんな──フリージア夫人にお詫びして頂くことなんてありません。私のためを思ってご招待下さったのでしょう?」

「その通りだが、故意ではなくても開けたケーキの箱の中身が潰れていたら代わりを用意するだろう? 生憎、ケーキみたいに買い直してどうこうなる問題ではないから別のことで補填させて貰うしかないが」

「ですが──」

 利用出来るものは利用すべきだと言う合理的な私がいますが、フリージア夫人はずっとお世話になってきた恩師です。これからいっそう自立しなくてはならない時にそこまで甘えてしまっていいのかと良心が躊躇わせます。

「使えるものは使えと教えただろう。お前は本当に人に頼るのが下手だね。大抵のことは自力で何とか出来てしまってきたせいだろうが──それでも気が引けるのなら、言い方を変えよう。私の好意を無下にするな」

「……では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 返って気を使わせてしまっては元も子もないので、ご提案を受け入れることにしました。実際、フリージア夫人からご助力頂けるのは虎に翼で嬉しいことです。

「お心遣い感謝します。では、友人の紹介を終えたらお声掛けさせて頂きますね」

 オウル様と二人で感謝の会釈をすると、フリージア夫人は満足げに頷かれました。

「ところで、フリージア夫人は勇ましい喋り方をされるんですね。格好良いです」

「────あ」

「ふふっ」

 オウル様の何気ない言葉に、珍しい表情をされたフリージア夫人が見られて私はつい小さく笑ってしまいました。
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