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お茶会編 Re:start
17.こんがらがって穴の中
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「は? 疑問も何も今自分で名乗ってただろ。オウルの婚約者のジゼル・アーモンドって。違うの? じゃあ、あんた誰」
「いえ、私はジゼル・アーモンドです」
「なら合ってるだろ。何を疑問に思うわけ?」
「その──ですから──」
どうしましょう。言いたいことが全く正しく伝わっておりません。なんだか今日はこんなことばかりですね。
マーカス様のご様子は、本当に私がオウル様の婚約者という立場にいることを普通に受け入れているように見えます。ならば、わざわざ貴方方のご友人に対して凄まじく失礼な形で婚約破棄した結果、新しく婚約者になった元婚約者の姉ですが、どう思いますか? なんて訊く必要はありませんでした。
墓穴を掘りました。自分から触れたくない話題への取っ掛かりを作ってしまうなんて……。
だって、本当に気にしていらっしゃらないなんて思いもしませんでしたもの……。
「俺もよくわかんないけど、ジゼル・アーモンドちゃんはジゼル・アーモンドちゃんなんでしょ? 名前が合ってるってことは婚約者っていうのが間違い? 同じ名前のジゼル・アーモンドちゃんがいるってこと? けど、今オウルと一緒にいるのはこのジゼル・アーモンドちゃんだから、オウルにはジゼル・アーモンドちゃんって名前の知り合いが二人いるってことか。すっごいややこしくて面白いな!」
「ややこしいのは貴方の言ってることよ。全く──貴方たちのそういうぐだぐだ面倒くさいところを気にしないところは好きだけど、ちょっとは相手の立場になって考えるってことを覚えたら?
ジゼルさん、まぁご覧の通りよ。この人たちって大雑把なの。あれこれ考えるだけ時間と気力の無駄だから、そういう心配はいらないわよ」
同性の視点だからでしょうか。エイミー様は私の質問の意図を汲んで下さり、そのように仰って頂けました。
具体的に言葉にすることを避けたので、私は曖昧に頷くしか出来ませんでした。
「おい、何か失礼なこと言ってないかお前」
「つまり、このジゼル・アーモンドちゃんはどこのジゼル・アーモンドちゃんなの?」
「正真正銘、僕の婚約者のジゼルだよ。気にしないとは思ってたし、ジゼルにもそう伝えてたけど、気にしなさ過ぎて逆にこんがらがるのはちょっと予想してなかったよ──ここでこんな話するつもりなかったけど、話が進まないから説明すると、ジゼルは僕たちの婚約の経緯のことで君らに悪印象を持たれてないか心配してたんだよ」
オウル様が清々しいくらいばっさりと明言されました。
一瞬、どきりとしましたが、オウル様の人柄から考えればこの方たちには言ってしまっても大丈夫だとご判断されたのでしょう。それでもやっぱり、どのような反応をされるのかは気になってしまいます。
「婚約の経緯ってあれだろ? 前の婚約者のあれがあれしてああなって──」
「何でそんな抽象的な言い方なの? 確か前の婚約者がお姉さんの婚約者と──むぐっ」
「ルドルフ黙って。ここ他所の家だし、本人の前だし、マーカスだってわざと言葉を濁してるのよ」
「あー……そゆこと……」
婚約破棄の話題が上り、自然と首が甲羅に引っ込む亀の頭のように下がります。別にこちらが不貞を働いた訳ではないのですが、婚約破棄自体が恥ずべきことというのが一般的な認識だからでしょうか。
「つっても、その件はあんたの妹と元婚約者が発端だろ? なんであんたが気にしてんの? 関係ないじゃん」
「妹のしたことですし、姉として気づいて止められなかったことの責任や同じ環境で育った以上、素行が似ているかもしれないと思われるかと邪推してしまいました」
「はぁ? ──おい、オウル。お前の前の婚約者って子供だったか? 五歳とか十歳とか」
「あのね、ひと昔前ならともかく、最近は貴族でもそんな歳の差の婚約するとこはないよ。リーファだってもう成人してるし」
「だよな。ほら、関係ないだろ。分別つく歳にもなってやらかす奴が悪い。大人なら自己責任が基本だし、親ならまだしも姉にそこまで責任ないだろ」
「そう、でしょうか……」
今でこそリーファに関する責任は放棄しましたが、他の方から言われると何だか不思議な感じです。
「そうだろ。なんでそんなに自信ないんだよ。そこは自信持っとけ」
「そのように言われたのは初めてだったもので」
「母上がね……」
「──ああ」
付け足されたオウル様の言葉に、マーカス様が納得されたような声を出されました。そう言えば、幼なじみだと仰ってましたね。恐らく、ラピスフィール夫人のお人柄をよく知ってらっしゃるのでしょう。
「お前の母さんならそうだろうな。そこら辺は家族と友達の違いだな。婚約者っつーなら、家に関することだし。──なぁ、ジゼル」
「はい」
「俺らはホントに気にしちゃないぞ。それが解せないってんなら補足してやるが、理由なんて単純なもんだ。オウルがあんたを紹介したからだよ」
「いえ、私はジゼル・アーモンドです」
「なら合ってるだろ。何を疑問に思うわけ?」
「その──ですから──」
どうしましょう。言いたいことが全く正しく伝わっておりません。なんだか今日はこんなことばかりですね。
マーカス様のご様子は、本当に私がオウル様の婚約者という立場にいることを普通に受け入れているように見えます。ならば、わざわざ貴方方のご友人に対して凄まじく失礼な形で婚約破棄した結果、新しく婚約者になった元婚約者の姉ですが、どう思いますか? なんて訊く必要はありませんでした。
墓穴を掘りました。自分から触れたくない話題への取っ掛かりを作ってしまうなんて……。
だって、本当に気にしていらっしゃらないなんて思いもしませんでしたもの……。
「俺もよくわかんないけど、ジゼル・アーモンドちゃんはジゼル・アーモンドちゃんなんでしょ? 名前が合ってるってことは婚約者っていうのが間違い? 同じ名前のジゼル・アーモンドちゃんがいるってこと? けど、今オウルと一緒にいるのはこのジゼル・アーモンドちゃんだから、オウルにはジゼル・アーモンドちゃんって名前の知り合いが二人いるってことか。すっごいややこしくて面白いな!」
「ややこしいのは貴方の言ってることよ。全く──貴方たちのそういうぐだぐだ面倒くさいところを気にしないところは好きだけど、ちょっとは相手の立場になって考えるってことを覚えたら?
ジゼルさん、まぁご覧の通りよ。この人たちって大雑把なの。あれこれ考えるだけ時間と気力の無駄だから、そういう心配はいらないわよ」
同性の視点だからでしょうか。エイミー様は私の質問の意図を汲んで下さり、そのように仰って頂けました。
具体的に言葉にすることを避けたので、私は曖昧に頷くしか出来ませんでした。
「おい、何か失礼なこと言ってないかお前」
「つまり、このジゼル・アーモンドちゃんはどこのジゼル・アーモンドちゃんなの?」
「正真正銘、僕の婚約者のジゼルだよ。気にしないとは思ってたし、ジゼルにもそう伝えてたけど、気にしなさ過ぎて逆にこんがらがるのはちょっと予想してなかったよ──ここでこんな話するつもりなかったけど、話が進まないから説明すると、ジゼルは僕たちの婚約の経緯のことで君らに悪印象を持たれてないか心配してたんだよ」
オウル様が清々しいくらいばっさりと明言されました。
一瞬、どきりとしましたが、オウル様の人柄から考えればこの方たちには言ってしまっても大丈夫だとご判断されたのでしょう。それでもやっぱり、どのような反応をされるのかは気になってしまいます。
「婚約の経緯ってあれだろ? 前の婚約者のあれがあれしてああなって──」
「何でそんな抽象的な言い方なの? 確か前の婚約者がお姉さんの婚約者と──むぐっ」
「ルドルフ黙って。ここ他所の家だし、本人の前だし、マーカスだってわざと言葉を濁してるのよ」
「あー……そゆこと……」
婚約破棄の話題が上り、自然と首が甲羅に引っ込む亀の頭のように下がります。別にこちらが不貞を働いた訳ではないのですが、婚約破棄自体が恥ずべきことというのが一般的な認識だからでしょうか。
「つっても、その件はあんたの妹と元婚約者が発端だろ? なんであんたが気にしてんの? 関係ないじゃん」
「妹のしたことですし、姉として気づいて止められなかったことの責任や同じ環境で育った以上、素行が似ているかもしれないと思われるかと邪推してしまいました」
「はぁ? ──おい、オウル。お前の前の婚約者って子供だったか? 五歳とか十歳とか」
「あのね、ひと昔前ならともかく、最近は貴族でもそんな歳の差の婚約するとこはないよ。リーファだってもう成人してるし」
「だよな。ほら、関係ないだろ。分別つく歳にもなってやらかす奴が悪い。大人なら自己責任が基本だし、親ならまだしも姉にそこまで責任ないだろ」
「そう、でしょうか……」
今でこそリーファに関する責任は放棄しましたが、他の方から言われると何だか不思議な感じです。
「そうだろ。なんでそんなに自信ないんだよ。そこは自信持っとけ」
「そのように言われたのは初めてだったもので」
「母上がね……」
「──ああ」
付け足されたオウル様の言葉に、マーカス様が納得されたような声を出されました。そう言えば、幼なじみだと仰ってましたね。恐らく、ラピスフィール夫人のお人柄をよく知ってらっしゃるのでしょう。
「お前の母さんならそうだろうな。そこら辺は家族と友達の違いだな。婚約者っつーなら、家に関することだし。──なぁ、ジゼル」
「はい」
「俺らはホントに気にしちゃないぞ。それが解せないってんなら補足してやるが、理由なんて単純なもんだ。オウルがあんたを紹介したからだよ」
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