29 / 43
デート編
29.アスタリスクの選択
しおりを挟む
「えっと、アスタリスクとは何でしょう?」
聞き慣れない言葉にどう答えたらいいのか分からず、私はオウル様に訊き返してしまいました。
「そっか。ごめんね、分からないよね。アスタリスクはメルソルバの市場のこと。アルフェン領ではアスタリスクって呼んでるんだ」
「ああ、六本道だからですか?」
「その通りだよ」
アスタリスクは三本の線を線の先が等間隔になるように重ねた星のような形のことです。広場から伸びる六本の道と掛けてアスタリスクという呼び名がついたのですね。
「道によって違うと仰いましたけど、どう違うのでしょうか?」
「アスタリスクは同じ道に同じ系統の店が密集してるんだ。例えば、僕たちが来た道には宿屋が多かっただろう?」
「そういえばそうですね」
メルソルバの塀門を潜って市場に来るまでに多くの宿屋が軒を連ねてました。アルフェン領は観光客も多いですし、荷物の預りの看板を立てている宿も多くありました。街に着いてすぐに荷物を置いて身軽に観光出来るので、合理的な配置だと思いました。
「その道が客亭通り、見ての通り宿の集まった通りだよ」
「なるほど。他の五本道もそれぞれの専門店が並んでいるということですね」
「うん。客亭通りから時計回りに説明するね。隣が料理店や食品を扱う店が並ぶ美食通り、婦人服の店や手芸店とか女性向けの店は淑女通り、その隣が男性向けの紳士通りで狩りのための猟銃を扱う店とかもあるね、それからこの道は古書通りって言って昔はその名の通り古書店だらけだったんだけど、今は新書店もあるし、画材や美術品とかの芸術的な品物や分類しづらい物を扱う店もあるよ。最後は医院や薬局や生薬とか健康にいいお茶とかを扱う店のある閑古通り。名前の由来は──まぁ、医者が暇なのはいいことだからね。いっぺんに話しちゃったけど大丈夫だった?」
「はい。それぞれの通りの概要は把握しました」
オウル様が一本一本通りを指してゆっくりとした話し方でご説明して下さったので、ざっくばらんではありますが六本道──アスタリスクの配置図を頭に描くことが出来ました。
「よかった。じゃあ、改めて。ジゼルはどこの通りに行きたい?」
「そうですね。先に用事を片付けてしまいたいので、プレゼント作戦の品を探したいのですけど、使用人たちに贈るならそれなりの数になってしまいますよね……」
そう言ったものの、買ってメルソルバの外に止めた馬車に積んで戻って来るのも効率が悪いですし、帰りの方がいいでしょうか……けれど、帰り際だと品数が足りなくなっている可能性もありますし……。
「それなら買ったらどこかの宿屋に預けたらいいと思うよ。帰りに客亭通りを通るから忘れることもないだろうし。一応、品物を贈れる馬車もあるけど、それだと屋敷届くまで数週間かかるから──お土産ってことにするなら当日渡した方がいいよね」
オウル様に言われてはっとしました。
そうです。ついさっき荷物預りの看板のことを思い出したのに、そこに思考が結びつきませんでした。
「その手がありましたね。確かに出来れば今日渡したいです。では、オウル様のご提案通りにします。教えて下さり、ありがとうございました」
「お役に立てて何よりだよ。それで、どこに行く? 贈り物はもう決めたのかな? 通りの店なら大体頭に入ってるから、いくつか紹介出来ると思うよ」
「はい」
そういえば、まだ贈り物の内容を伝えておりませんでした。
目当ての品について伝えると、オウル様は親指で顎の先を数度擦って考え込む仕草をされました。
「──うん、それなら淑女通りと閑古通りで取り扱ってる店があるよ」
「閑古通り──ああ、言われてみればそうですね」
オウル様の説明を受けて、向かうべきは淑女通りかと思っていましたが、確かに閑古通りでも売っていて不思議ではない物です。
「そうそう腐るものでもないし、閑古通りの店は万が一に備えて在庫を多めに仕入れる傾向があるから、淑女通りから見ていこうか」
「そうですね。多分、私が以前メルソルバに来た時に訪れたのは淑女通りなのでお店のこともなんとなく分かりますし、回りやすいと思います」
進むべき道を決め、私とオウル様は頷き合って淑女通りの入り口へ向かいました。
聞き慣れない言葉にどう答えたらいいのか分からず、私はオウル様に訊き返してしまいました。
「そっか。ごめんね、分からないよね。アスタリスクはメルソルバの市場のこと。アルフェン領ではアスタリスクって呼んでるんだ」
「ああ、六本道だからですか?」
「その通りだよ」
アスタリスクは三本の線を線の先が等間隔になるように重ねた星のような形のことです。広場から伸びる六本の道と掛けてアスタリスクという呼び名がついたのですね。
「道によって違うと仰いましたけど、どう違うのでしょうか?」
「アスタリスクは同じ道に同じ系統の店が密集してるんだ。例えば、僕たちが来た道には宿屋が多かっただろう?」
「そういえばそうですね」
メルソルバの塀門を潜って市場に来るまでに多くの宿屋が軒を連ねてました。アルフェン領は観光客も多いですし、荷物の預りの看板を立てている宿も多くありました。街に着いてすぐに荷物を置いて身軽に観光出来るので、合理的な配置だと思いました。
「その道が客亭通り、見ての通り宿の集まった通りだよ」
「なるほど。他の五本道もそれぞれの専門店が並んでいるということですね」
「うん。客亭通りから時計回りに説明するね。隣が料理店や食品を扱う店が並ぶ美食通り、婦人服の店や手芸店とか女性向けの店は淑女通り、その隣が男性向けの紳士通りで狩りのための猟銃を扱う店とかもあるね、それからこの道は古書通りって言って昔はその名の通り古書店だらけだったんだけど、今は新書店もあるし、画材や美術品とかの芸術的な品物や分類しづらい物を扱う店もあるよ。最後は医院や薬局や生薬とか健康にいいお茶とかを扱う店のある閑古通り。名前の由来は──まぁ、医者が暇なのはいいことだからね。いっぺんに話しちゃったけど大丈夫だった?」
「はい。それぞれの通りの概要は把握しました」
オウル様が一本一本通りを指してゆっくりとした話し方でご説明して下さったので、ざっくばらんではありますが六本道──アスタリスクの配置図を頭に描くことが出来ました。
「よかった。じゃあ、改めて。ジゼルはどこの通りに行きたい?」
「そうですね。先に用事を片付けてしまいたいので、プレゼント作戦の品を探したいのですけど、使用人たちに贈るならそれなりの数になってしまいますよね……」
そう言ったものの、買ってメルソルバの外に止めた馬車に積んで戻って来るのも効率が悪いですし、帰りの方がいいでしょうか……けれど、帰り際だと品数が足りなくなっている可能性もありますし……。
「それなら買ったらどこかの宿屋に預けたらいいと思うよ。帰りに客亭通りを通るから忘れることもないだろうし。一応、品物を贈れる馬車もあるけど、それだと屋敷届くまで数週間かかるから──お土産ってことにするなら当日渡した方がいいよね」
オウル様に言われてはっとしました。
そうです。ついさっき荷物預りの看板のことを思い出したのに、そこに思考が結びつきませんでした。
「その手がありましたね。確かに出来れば今日渡したいです。では、オウル様のご提案通りにします。教えて下さり、ありがとうございました」
「お役に立てて何よりだよ。それで、どこに行く? 贈り物はもう決めたのかな? 通りの店なら大体頭に入ってるから、いくつか紹介出来ると思うよ」
「はい」
そういえば、まだ贈り物の内容を伝えておりませんでした。
目当ての品について伝えると、オウル様は親指で顎の先を数度擦って考え込む仕草をされました。
「──うん、それなら淑女通りと閑古通りで取り扱ってる店があるよ」
「閑古通り──ああ、言われてみればそうですね」
オウル様の説明を受けて、向かうべきは淑女通りかと思っていましたが、確かに閑古通りでも売っていて不思議ではない物です。
「そうそう腐るものでもないし、閑古通りの店は万が一に備えて在庫を多めに仕入れる傾向があるから、淑女通りから見ていこうか」
「そうですね。多分、私が以前メルソルバに来た時に訪れたのは淑女通りなのでお店のこともなんとなく分かりますし、回りやすいと思います」
進むべき道を決め、私とオウル様は頷き合って淑女通りの入り口へ向かいました。
254
あなたにおすすめの小説
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる