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デート編
30.淑女通りで右往左往
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淑女通り。
名前を知って改めて見るとなるほど、右を見ても左を見ても女性向けのお店がずらりと並んでいます。これだけの数のお店があるのに、どこも女性客の姿があり繁盛している様子です。
「ずっとお店が続いていますね。先が見えません」
「アスタリスクはメルソルバの街の大部分を占めているから、流石に奥まで行って往復したら戻ってくる頃には太陽が西の空にいるね。とりあえず、ほどほどの距離にある中から案内するよ」
「よろしくお願いします」
オウル様と石畳の道を進んで行き、紹介されたお店の商品を確認していきます。
「これは香り付きですね。いい匂い──ですが、男性は使わないでしょうね」
プレゼント作戦の対象はラピスフィール公爵家の使用人。勿論、男性も対象です。
「淑女通りだから、商品も女性向けなんだよね。あっちの店はどうだろう」
「これはよく効く気がします。成分表はありますか?」
「こちらに」
「あー……これは……」
「何かダメだった?」
「はい。成分表に合う人と合わない人が極端に分かれる植物が使われていて」
贈り物をしてもそれが無用の長物になってしまっては意味がありません。
「そっかぁ……それじゃあ、次に行こうか」
「香りは控えめ、使われている原料もこれなら大丈夫ですね。あの、こちら在庫はどれくらいでしょうか?」
「そちらの商品の在庫は十個になります。品薄状態が続いておりまして、再入荷の目処は立っておりません」
ラピスフィール公爵家の使用人の人数は百人余り──全然数が足りません。
それからも私とオウル様は淑女通りを進みながら、右のお店へ左のお店へ。
百余人全員に配れる品はなかなか見つかりません。それぞれに合った品を見繕う余裕はありませんし、そもそもそれが出来るほど私はラピスフィール公爵家の使用人たちと打ち解けられていませんし。
良い、と思える品にも度々巡り会えるのですが、それも在庫数などの問題で候補から外れてしまいました。
「──大分歩いたね。ジゼル、疲れてない?」
「まだ大丈夫です──と言いたいところですが、正直少し疲れました」
普段、移動は大体馬車で目的地の前まで送って頂いてるので、こんなに歩いたのは久しぶりでした。
踵の低い靴を履いてきてよかったです。ヒールだったら足を痛めていたかもしれません。
とはいえ、疲労感はあります。
質問に頷くと、オウル様は淑女通りの奥を見てから、入口の方へ視線を移されました。お店からお店へ蛇行するように移動して来たので直線距離はそれほどありません。
「そうだよね。一度広場に戻って、美食通りのどこかの店に入って休もうか。今までの感じだと淑女通りで目当ての物を見つけるのは難しそうだし、その後は閑古通りの方へ向かった方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「お店を巡ってわかりましたが、淑女通りのお店は種類は豊富ですが、在庫は多くて五十前後みたいですからね……そうしましょう」
踵を返して淑女通りを引き返します。途中、目当ての品を扱うお店以外のお店が目につきました。
お店の前に並べられた硝子や安価な宝石で作られた装飾品、レース編みのコースターやドイリー、商品棚の硝子越しに通りを眺めている人形、流行の型のドレスを纏ったトルソー。本当に色んなお店があります。
つい歩きながらきょろきょろとしてしまいますが、ふと、それを目にした瞬間に足がその場に縫いつけられたようにぴたりと止まりました。
「ジゼル?」
数歩進んだ先でオウル様が私を呼んでいます。
「……あ、いえ、何でもありません!」
オウル様の顔を見て、すぐに数歩進んでオウル様の隣へ行きました。
しかし、その間にも私の視線はとあるお店の店頭に飾られたそれに吸い寄せらせていきます。
あからさまによそ見をしていたので、オウル様が私の視線を追ってそのお店の方を向かれました。
「紫の薔薇? ジゼル、あれを見ていたの?」
そこには赤でもない、青でもない、私が最も好きな紫色の薔薇が飾られていました。
名前を知って改めて見るとなるほど、右を見ても左を見ても女性向けのお店がずらりと並んでいます。これだけの数のお店があるのに、どこも女性客の姿があり繁盛している様子です。
「ずっとお店が続いていますね。先が見えません」
「アスタリスクはメルソルバの街の大部分を占めているから、流石に奥まで行って往復したら戻ってくる頃には太陽が西の空にいるね。とりあえず、ほどほどの距離にある中から案内するよ」
「よろしくお願いします」
オウル様と石畳の道を進んで行き、紹介されたお店の商品を確認していきます。
「これは香り付きですね。いい匂い──ですが、男性は使わないでしょうね」
プレゼント作戦の対象はラピスフィール公爵家の使用人。勿論、男性も対象です。
「淑女通りだから、商品も女性向けなんだよね。あっちの店はどうだろう」
「これはよく効く気がします。成分表はありますか?」
「こちらに」
「あー……これは……」
「何かダメだった?」
「はい。成分表に合う人と合わない人が極端に分かれる植物が使われていて」
贈り物をしてもそれが無用の長物になってしまっては意味がありません。
「そっかぁ……それじゃあ、次に行こうか」
「香りは控えめ、使われている原料もこれなら大丈夫ですね。あの、こちら在庫はどれくらいでしょうか?」
「そちらの商品の在庫は十個になります。品薄状態が続いておりまして、再入荷の目処は立っておりません」
ラピスフィール公爵家の使用人の人数は百人余り──全然数が足りません。
それからも私とオウル様は淑女通りを進みながら、右のお店へ左のお店へ。
百余人全員に配れる品はなかなか見つかりません。それぞれに合った品を見繕う余裕はありませんし、そもそもそれが出来るほど私はラピスフィール公爵家の使用人たちと打ち解けられていませんし。
良い、と思える品にも度々巡り会えるのですが、それも在庫数などの問題で候補から外れてしまいました。
「──大分歩いたね。ジゼル、疲れてない?」
「まだ大丈夫です──と言いたいところですが、正直少し疲れました」
普段、移動は大体馬車で目的地の前まで送って頂いてるので、こんなに歩いたのは久しぶりでした。
踵の低い靴を履いてきてよかったです。ヒールだったら足を痛めていたかもしれません。
とはいえ、疲労感はあります。
質問に頷くと、オウル様は淑女通りの奥を見てから、入口の方へ視線を移されました。お店からお店へ蛇行するように移動して来たので直線距離はそれほどありません。
「そうだよね。一度広場に戻って、美食通りのどこかの店に入って休もうか。今までの感じだと淑女通りで目当ての物を見つけるのは難しそうだし、その後は閑古通りの方へ向かった方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「お店を巡ってわかりましたが、淑女通りのお店は種類は豊富ですが、在庫は多くて五十前後みたいですからね……そうしましょう」
踵を返して淑女通りを引き返します。途中、目当ての品を扱うお店以外のお店が目につきました。
お店の前に並べられた硝子や安価な宝石で作られた装飾品、レース編みのコースターやドイリー、商品棚の硝子越しに通りを眺めている人形、流行の型のドレスを纏ったトルソー。本当に色んなお店があります。
つい歩きながらきょろきょろとしてしまいますが、ふと、それを目にした瞬間に足がその場に縫いつけられたようにぴたりと止まりました。
「ジゼル?」
数歩進んだ先でオウル様が私を呼んでいます。
「……あ、いえ、何でもありません!」
オウル様の顔を見て、すぐに数歩進んでオウル様の隣へ行きました。
しかし、その間にも私の視線はとあるお店の店頭に飾られたそれに吸い寄せらせていきます。
あからさまによそ見をしていたので、オウル様が私の視線を追ってそのお店の方を向かれました。
「紫の薔薇? ジゼル、あれを見ていたの?」
そこには赤でもない、青でもない、私が最も好きな紫色の薔薇が飾られていました。
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