【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
65 / 119
本編

急激展開

しおりを挟む
「山城様、この度は小姓様に怪我を負わせ又ご迷惑をお掛けし大変申し訳ございませんでした」

 メイドさんに洗面所まで案内して貰った僕は、顔を洗って頬に湿布を貼って貰うと、用意された服に着替え髪を整えてからリビングに戻った。
 ふわもこの服はルームウェアだから、客を迎えるのには向かない。
 今着ているのは、柔らかな素材のシャツの上にざっくりと編まれたクリーム色のセーターに焦げ茶色のスキニーパンツだ。ストレッチが効いているからか凄く動きやすい。
 どれもこれも、素材がいいのが分かる。
 僕だって裕福な伯爵家に生まれてそれなりの服を用意されていたというのに、今まで着ていた物と比べ物にならないと分かるって凄い。
 そんな高級な服がウォークインクローゼットに沢山用意されている。
 さっきは素直に喜んじゃったけれど、雅がどれだけ僕の為にお金を使ったのか、想像できないのが怖い。

「千晴様中へどうぞ」
「うん」

 ドアを薄く開いて聞こえてきた声に入るのを躊躇していたら、メイドさんに中へ入るよう促され恐る恐る中へ進む。
 そして、ちょっと逃げ出したくなった。
 なんなの、この光景。
 ソファーに足を組んで座る雅と、雅が座るソファーの反対側のソファーの脇の床で土下座している大林君の姿。
 壁際にはメイドさんが三人控えている。

「雅」
「ハル、おいで」

 額を床に付けたままの大林君を無視したまま、雅は僕を手招きする。

「大林君、頭を上げて」

 小姓としてよくない行動なのかもしれないけれど、クラスの人の中では比較的仲良しの大林君を謝らせたままなのは気が引けて、ついつい側に寄ってしまった。

「ハル」
「雅、お願い」
「全く。いいよ大林、謝罪を受ける。話しにくいから座ってくれ」

 大袈裟なため息をついた後、雅は大林君に声を掛けてから立ち上がって僕の手を引きソファーへと戻った。
 ぴったりと体を寄せて座る必要はどこにあるんだろう、疑問を感じ、ついでに腰に回された雅の腕をどうしようと戸惑ってしまう。
 いくら小姓の手続きが終わったとはいえ、これって大胆すぎないかな。

「千晴様、お顔のお怪我は如何でしょうか」
「少し腫れているけれど、痛みはそんなにないんだ。心配掛けてごめんね」
「いいえ、本来私が受ける筈でしたのに本当に申し訳ございません」

 言われて、そう言えば僕は大林君を庇って打たれたんだったと思い出した。
 谷崎様に打たれたショックや、その後の諸々の印象が強くて忘れていたな。

「僕が勝手に前に出ちゃったんだし、そもそも大林君は僕が木村君に絡まれていたのを庇ってくれたから谷崎様が怒り始めたわけだし、原因は僕だよ」

 打たれた理由を思い出して、僕はしょんぼりと落ち込んでしまう。
 雅が守ってくれるのは分かってるけれど、ただでさえ仲良くない雅と谷崎様が僕のせいで更に険悪になるのかと思うと落ち込むしかない。
 小姓って旦那様の癒しにならないといけないのに、問題起こしてちゃ駄目だよね。

「いいえ、あの様に理性を無くし手を上げるなどあってはなりません。彼は次期当主には相応しくない」
「え、そうかもしれないけどそんなの僕達がどうこう出来る話じゃないし」
「それがそうでもないんだ」
「どういうこと?」

 谷崎様は公爵家、雅は侯爵家、僕と大林君は伯爵家、打たれたとはいえ不敬が理由だと言われたら抗議だって出来ない筈だ。
 あの人の保証人になっている川島伯爵家に抗議したのと訳が違うんじゃないのかな?

「彼は当主には向かないでしょう、あの性格では彼が当主になった途端家が傾きかねません」

 どうして大林君がこんなにキッパリと判断出来るんだろう、それに雅も否定しない。
 状況が分からずに首を捻っていたら、大林君が理由を教えてくれた。

「私は谷崎公爵家の長男として、あれを退学させます。それが今回のケジメです。退学させた後は領地で謹慎させ二度と外には出しません。勿論あれの母親もその責により一緒に謹慎させます」

 谷崎公爵家の長男? 大林君が? え、じゃあなんで。
 戸惑う僕に大林君はただ微笑むだけだったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

処理中です...