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本編
消える攻略対象者
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「退学して領地に謹慎」
貴族には良くある話なんだろうか、雅は驚きもしない。
「ええ、既に当主である父には報告し了解を得ています。私は三月までは大林姓で通し、二年生から谷崎として学園に通うと決まりました」
「大林君が谷崎公爵家の名に」
驚きすぎてオウム返しに言葉を繰り返すだけの僕は、多分かなり間抜けに見えるだろう。
でも、驚きすぎて他の反応なんて無理だった。
「あの、そんな重要な話僕が聞いていいのかな、あ。いんでしょうか」
「どうぞ今は元のままでお話しください」
この学園の暗黙の了解で、同じ爵位同士は対等の話し方で相手は君付けで呼ぶ。
爵位関係なく長男相手には基本家名で、次男以下なら家名でも名前でもお互いの了解があればどちらでも良いとされている。
だけど舞以外は僕は相手を家名で呼んでいた。
相手には千晴でいいよと大抵には言っていたけれど、名前で呼ぶ人はあまり多くなかった。
大林君は、二人だけの時は僕を名前で呼ぶけど、公には家名呼びをしていて何か拘りがあるのかと思っていたけれど、まさかこんな理由だったとは。
「髪も瞳も元に戻しますから、この姿でお会いするのもあと僅かです」
「え、色も違うの?」
もう色々と驚くしかない。
というか、こんな展開ゲームには無かった筈だ。
流石に攻略対象者が退学して消えるとか、そんなゲーム展開があったら炎上しちゃうよ。
「あれは私が兄だと最後まで気がつきませんでした。愚か者だと常々思っていましたが、あれほどとは呆れるばかりです」
「兄、あれ?年は」
確かゲームの設定では一つ上だった筈。
なんで同学年なんだろう。
「私は一年遅れているのです。あれの母親のせいで体を壊したもので」
「体が弱いんじゃ」
「対外的にはそうしていました。二年生で転入の際には療養を終えて復学となります。あれは私が次期当主に決まった為領地に戻されたと、そうなります」
母親のせいとか、怖い話が聞こえてきたのは空耳なんだろうか。
込み入った話は聞きたくないんだけど。
「そんな話、聞かされるのは迷惑なんだが」
「私も不本意な為、どうか愚痴を聞いて頂けませんか。千晴様、大林は母の実家の名なのですよ。体を壊し、このまま谷崎の家に居たら本当に儚くなってしまいかねないので母の実家に一人避難したのです。母はまだ頑張っていますが、その頑張りも漸く報われそうです」
つまり大林君と谷崎様の母親は違うのか、長男ということは大林君のお母さんの方が正妻なのかな?
えーと、設定ではどうだっけ?
『母親が正妻ではないから、俺は跡取りとして未だに父には認められていない。俺がいくら努力しても父は兄しか認めないんだ。あんな病弱で何年も外出すら出来ない兄だけが父の認めた跡取りなんだ』
そう言えば、そんな台詞があった。
確かそれを主人公が『谷崎様は十分頑張っていると思います』と慰めて、一気に仲良くなるんだ。
「大林君はどうして姿を変えて通おうと思ったんですか」
「見極めの為です。父の命令ですね。あれの母親は短慮で考えが浅く血統至上主義の為、正妻である私の母を馬鹿にして無理矢理父に嫁いで来たそうです」
「それで女性二人嫁いでいるんですね」
この世界は女性が少ないけど、第二夫人も女性というのはそれなりにはあるらしい。
まあ、同性を第二とした方が後継者問題もないし、男女の比率を考えても合理的みたいだけど。
それはBL的な設定なんだろうな。
「ええ。祖父が自分の姉の圧力に負け、父に第二夫人として姪を嫁がせたのが発端です。母は伯爵家の出ですが、父に見初められ祖父が大林家の領地との繋がりを求めた事で縁を結びましたが、あれの母親はゴリ押しです」
よっぽど嫌いなんだろう。大林君の言葉が荒れている。
「そう、なんだ」
「父はあれの母親を好いてはいませんでしたが、残念ながら男子が生まれてしまったことで欲を出され、母も私も命を狙われました。母は私を大林家に逃がし一端当主候補から外す条件として、私が髪と目の色を変え入学し同じクラスで過ごす。そしてあれが学園に在学中に私が兄だと気がつき、且つ何も問題を起こさず優秀な成績で卒業出来れば、あれの勝ち。もし一度でも問題を起こしたら領地に母親共々永久に謹慎させるとしたのです」
大林君のお母さんの実家の名をそのまま使って、髪と目の色を変えただけなら気がつきそうなものなのに。
おまけに問題を起こさないなんて、凄く緩い条件じゃないのかな。
「あれは勉強は出来ますが、性格は母親と同じく短慮で血統至上主義です。それを父は心配して、私に見極めと行動の報告を命令しました。木村春が転校してくるまで、些細な問題はあれど父に報告する程ではなく、このままなら跡継ぎとしてもいいのかもしれないと考えていた矢先に、彼が転校してきました」
「木村君と一緒にいるようになって、ちょっと変わった感じしたけど、僕の気のせい?」
主人公の転校が悪い方に導いちゃったのかな?
でも、それって誰が悪いんだろ。
僕だけでなく、木村君も転生者だとしたら、それが原因なんだろうか。
「いいえ、木村春と一緒に行動する様になり益々短慮になり、浅はかな行動を取るようになりました。でもそれは川島様や森村様も同じ様です」
「え」
「三人がそれぞれ、木村春を小姓にしようと動いていますが、学園からも家からも許可が降りていません。それは木村春が平民の孤児だから問題なのではなく、彼らの方に問題がある為許可が出ないのです」
大林君の説明に僕は驚いて雅の方を見た。
小姓の手続きって簡単そうに雅は言ってたけれど、実は無茶苦茶大変だったんじゃないのかな?
雅、大丈夫だったの?
貴族には良くある話なんだろうか、雅は驚きもしない。
「ええ、既に当主である父には報告し了解を得ています。私は三月までは大林姓で通し、二年生から谷崎として学園に通うと決まりました」
「大林君が谷崎公爵家の名に」
驚きすぎてオウム返しに言葉を繰り返すだけの僕は、多分かなり間抜けに見えるだろう。
でも、驚きすぎて他の反応なんて無理だった。
「あの、そんな重要な話僕が聞いていいのかな、あ。いんでしょうか」
「どうぞ今は元のままでお話しください」
この学園の暗黙の了解で、同じ爵位同士は対等の話し方で相手は君付けで呼ぶ。
爵位関係なく長男相手には基本家名で、次男以下なら家名でも名前でもお互いの了解があればどちらでも良いとされている。
だけど舞以外は僕は相手を家名で呼んでいた。
相手には千晴でいいよと大抵には言っていたけれど、名前で呼ぶ人はあまり多くなかった。
大林君は、二人だけの時は僕を名前で呼ぶけど、公には家名呼びをしていて何か拘りがあるのかと思っていたけれど、まさかこんな理由だったとは。
「髪も瞳も元に戻しますから、この姿でお会いするのもあと僅かです」
「え、色も違うの?」
もう色々と驚くしかない。
というか、こんな展開ゲームには無かった筈だ。
流石に攻略対象者が退学して消えるとか、そんなゲーム展開があったら炎上しちゃうよ。
「あれは私が兄だと最後まで気がつきませんでした。愚か者だと常々思っていましたが、あれほどとは呆れるばかりです」
「兄、あれ?年は」
確かゲームの設定では一つ上だった筈。
なんで同学年なんだろう。
「私は一年遅れているのです。あれの母親のせいで体を壊したもので」
「体が弱いんじゃ」
「対外的にはそうしていました。二年生で転入の際には療養を終えて復学となります。あれは私が次期当主に決まった為領地に戻されたと、そうなります」
母親のせいとか、怖い話が聞こえてきたのは空耳なんだろうか。
込み入った話は聞きたくないんだけど。
「そんな話、聞かされるのは迷惑なんだが」
「私も不本意な為、どうか愚痴を聞いて頂けませんか。千晴様、大林は母の実家の名なのですよ。体を壊し、このまま谷崎の家に居たら本当に儚くなってしまいかねないので母の実家に一人避難したのです。母はまだ頑張っていますが、その頑張りも漸く報われそうです」
つまり大林君と谷崎様の母親は違うのか、長男ということは大林君のお母さんの方が正妻なのかな?
えーと、設定ではどうだっけ?
『母親が正妻ではないから、俺は跡取りとして未だに父には認められていない。俺がいくら努力しても父は兄しか認めないんだ。あんな病弱で何年も外出すら出来ない兄だけが父の認めた跡取りなんだ』
そう言えば、そんな台詞があった。
確かそれを主人公が『谷崎様は十分頑張っていると思います』と慰めて、一気に仲良くなるんだ。
「大林君はどうして姿を変えて通おうと思ったんですか」
「見極めの為です。父の命令ですね。あれの母親は短慮で考えが浅く血統至上主義の為、正妻である私の母を馬鹿にして無理矢理父に嫁いで来たそうです」
「それで女性二人嫁いでいるんですね」
この世界は女性が少ないけど、第二夫人も女性というのはそれなりにはあるらしい。
まあ、同性を第二とした方が後継者問題もないし、男女の比率を考えても合理的みたいだけど。
それはBL的な設定なんだろうな。
「ええ。祖父が自分の姉の圧力に負け、父に第二夫人として姪を嫁がせたのが発端です。母は伯爵家の出ですが、父に見初められ祖父が大林家の領地との繋がりを求めた事で縁を結びましたが、あれの母親はゴリ押しです」
よっぽど嫌いなんだろう。大林君の言葉が荒れている。
「そう、なんだ」
「父はあれの母親を好いてはいませんでしたが、残念ながら男子が生まれてしまったことで欲を出され、母も私も命を狙われました。母は私を大林家に逃がし一端当主候補から外す条件として、私が髪と目の色を変え入学し同じクラスで過ごす。そしてあれが学園に在学中に私が兄だと気がつき、且つ何も問題を起こさず優秀な成績で卒業出来れば、あれの勝ち。もし一度でも問題を起こしたら領地に母親共々永久に謹慎させるとしたのです」
大林君のお母さんの実家の名をそのまま使って、髪と目の色を変えただけなら気がつきそうなものなのに。
おまけに問題を起こさないなんて、凄く緩い条件じゃないのかな。
「あれは勉強は出来ますが、性格は母親と同じく短慮で血統至上主義です。それを父は心配して、私に見極めと行動の報告を命令しました。木村春が転校してくるまで、些細な問題はあれど父に報告する程ではなく、このままなら跡継ぎとしてもいいのかもしれないと考えていた矢先に、彼が転校してきました」
「木村君と一緒にいるようになって、ちょっと変わった感じしたけど、僕の気のせい?」
主人公の転校が悪い方に導いちゃったのかな?
でも、それって誰が悪いんだろ。
僕だけでなく、木村君も転生者だとしたら、それが原因なんだろうか。
「いいえ、木村春と一緒に行動する様になり益々短慮になり、浅はかな行動を取るようになりました。でもそれは川島様や森村様も同じ様です」
「え」
「三人がそれぞれ、木村春を小姓にしようと動いていますが、学園からも家からも許可が降りていません。それは木村春が平民の孤児だから問題なのではなく、彼らの方に問題がある為許可が出ないのです」
大林君の説明に僕は驚いて雅の方を見た。
小姓の手続きって簡単そうに雅は言ってたけれど、実は無茶苦茶大変だったんじゃないのかな?
雅、大丈夫だったの?
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