【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

メールの送信者は誰だ

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「ごめんね、迷惑掛けてたんだ」
「大丈夫。あのお陰で問題なく日付を前倒しできたんだから」
「つまり、小姓になったから雅の部屋に泊った」
「そういうこと」

 こんな怖いメールの話をしているのに、雅は何だかご機嫌だ。
 僕が怖くてずっと泣いていたのに、雅にとっては大したことないんだろう。

「このメールって木村君なのかな」

 雅がモブという言葉を知らないのなら、この世界の人が日常で使う言葉じゃないと言う事だ。文面から言っても、モブという言葉からもこのメールの差し出し人は木村君だと分る。
 でも、この写真は一体どうやって撮ったんだろう。

「写真を撮ったのは別な人間だろうけれど。メールはそうかもしれないな」
「写真は違う?」

 大林君達がいたから、確かに木村君が撮るのは難しかっただろう。
 だってそもそもこんな事が起きてるとは、思わなかった? いや、思っていた?

「ハルは保健室のドアを背にしていた。大林達が来た方向からこの角度は撮れない。つまり、撮ったのは保険医だろうな。あの時他に人影は無かった」
「保険医、どういうこと」
「保険医とあの男と木村の共謀ってことだろうな」

 三人の共謀。
 でもどうやって三人が知り合った? イベント、まさか主人公がイベントを無理矢理起そうと計画して二人に声を掛けた?

「木村君が二人に?」
「可能性はあるが、そもそも保健室に行かなければこの写真は撮れない。ハルが気を失ったのは谷崎に頬を打たれたショックで気を失ったからだ。そんなの計画しようにも出来ないだろう」
「そうだけど」
「ただ、機会を窺っていてたまたま保健室にハルが行ったから今日計画を行動に移したのかもしれない」

 でも、イベント。木村君はそう言ったから。
 保健室でそういうイベントがあるんだ。僕は記憶にないけど、そのイベントの為に木村君が上手く周囲を誘導していたとしたら?

「あの人、木村君は僕を保健室に連れて行こうとしてたんだ。僕が拒否してあの騒ぎが起きたけどそうじゃなく素直に木村君に保健室に連れて行って貰ったとしたら」
「俺はハルの側にはいなかった」

 想像で背筋が寒くなる。
 雅がいなくて、木村君はイベントを起そうとしていた本人で、保険医とあの人が実行犯だとしたら、僕は助けを呼べない保健室に誘いこまれそうになっていた?

「雅」

 震えながら雅にしがみつく。
 もしあの時、想像するだけでも怖くなる。
 
「大丈夫だ、落ち着け。ハルはもう俺の小姓になったんだ。俺にはハルを守る義務も権利もある」
「どんな時も?」
「ああ、側に居られない時は必ず俺の配下がハルの側に居る。だから大丈夫だ」
「ごめんね、僕弱くて」

 もっとしっかりしていたら、雅にこんな迷惑掛けずに済むのに。
 僕は弱すぎる。

「いいんだ。そういう弱いところも含めてハルなんだから」
「でも」
「頼られて喜んでるよ、俺は。佐々木には夕飯後の時間にでも話をしてくるし、ハルには明日から供を付ける。腕に覚えがあるメイドだから安心していい」

 腕に覚えがあるって、どんなメイドさんなんだろう。
 というか、男の僕のお供がメイドさんなのかと思うと余計に落ち込む。

「気持ちが落ち着いたら、向こうでお茶でもしようか」
「うん。今何時?」
「もう授業が終わった頃だ。夕食には少し早いかな」
「そんな時間なの、僕結構寝てたんだ」

 寝て、メール見て泣いてたせいか、なんだか少し頭が痛い。

「顔洗いたいかも、雅?」
「ん」
「手、離してくれないと、お茶にするんじゃないの?」

 洗面所を借りたいし、その為にはベッドから出ないと行けないんだけど、雅の両腕がそれを阻む。

「うん」
「うんって言うなら、手を」
「もう少しだけ、こうしてようか」

 こうしてようかと言いながら、雅の片手は僕の背中を撫でてもう片方は僕の頭を抱きしめている。

「今日からハル、ここで暮らすんだなって思ったら嬉しくて。離れがたい」
「暮らす? 僕ここに今日から住むの?」
「なんでそこで驚くかな。側に居たいって自分で言ってたくせに」

 体を離して、雅が笑いながら僕をからかう。

「だって」

 僕用の部屋、ベッド置いてなかったよ。
 あれ? 寝室は別なのかな。いや、そうじゃなくて、もしかして。

「僕、もしかしてこのベッドで寝るとか?」
「なんで疑問系? ここで暮らすのにどこで寝るつもりなのかな」
「え、え、え」

 あれ、小姓って。あれ、閨事って。
 どうしよう、またパニックだ。

「そういえば教えてなかったか。さっきそんな話しなかったもんな」

 どうしよう。心臓がバクバクしてる。
 一緒に寝るの? 同じベッドで、毎晩? 死んじゃうよ、心臓壊れちゃうよ。

「み、雅。僕」
「焦らなくていいよ。ハルの知識がお子様なのは理解したから、ゆっくりすると決めたから。だから安心して……」

 僕をからかう雅の笑顔は、ドアをノックする音で切り替わった。

「どうした」
「大林様がいらっしゃいましたが如何いたしますか」
「すぐに行く。ハルに着替えを」

 ドア越しに会話した後、メイドさんはドアを開き中に入ってきた。
 大林様って、大林君? 部屋に来るなんて何かあったんだろうか。
 僕の不安は、まさかな展開に繋がっていたんだ。
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