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本編
頼りになる旦那様
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「ハル、調子は……ハルッ!」
雅が部屋に入ってきて、僕の体に触れるまでどれ位の時間が経っていたんだろう。
気がつくと僕は雅に抱きしめられてていた。
「み、雅」
「どうした、何故泣いてる」
「雅、雅」
雅に抱きしめられてその温かさに、暖房が効いている部屋なのに体が冷えていると気がついた。
雅の温度、雅の付けている香水の匂い、雅の息づかいを感じて僕はじわりとまた涙が浮かぶ。
離したくない、この手を離したくない。
でも、僕が雅の小姓になったことで舞に何かあったら。
それに、あの写真を貼り出されたら僕は雅の側にいられなくなる?
「雅、小姓の手続きは」
「終わった。安心していい、もう受理されたから誰にも取り消しも撤回も出来ない」
小姓の手続きを取り消せるのは手続きした本人、つまり僕達の場合は雅だけ。
受理されてしまえば誰が何を言っても取り消せないんだ。
だから僕が黙っていれば、あのメールを雅が知らなければ誰にも邪魔は出来ない。
悪い心が僕を誘惑する。
でも、本当に舞に何かあったら、そしたらそれは僕が黙っていたせいだ。
そんなの、駄目だ。
「雅、ごめんなさい。駄目なんだ」
「なにが駄目なんだ?」
「小姓、駄目なんだ。僕、どうしよう。雅」
説明しなきゃと焦るのに、どう説明したらいいのか考えられない。
どうしよう、どうしようと繰り返すばかりの僕を辛抱強く雅は待ってくれているのに、上手い言葉が浮かばない。
「メールが」
「メール? ハルのスマホに何かメールが来たのか?」
僕を抱きしめながら、雅はサイドテーブルに視線を動かしそして床下に落ちたスマホに気がつき立ち上がった。
「見るぞ」
「う、うん」
電源を入れると、画面に出したままの画像が見えた。
「これは、さっきの?」
「メールについて。メール、誰からか分らないけど、メールが」
要領を得ない僕の説明に、雅はスマホを操作し始める。
「モブとは」
「僕のことかな、どういう意味で言ってるのか分らないけど」
この世界にこんな言葉使われてるかどうか分らないけど、メールの文章から読み取ればそれは僕について言っているのだと分るだろう。
「ハルが俺の小姓になったら、佐々木の小姓に何かが起きると。で、ふざけたこの写真」
「どうしよう、こんな写真が貼り出されたら。僕」
「それは問題無い。すでに抗議として対応してきた」
「え」
「ハルは俺の小姓で、一人でいるところをこの男に襲われ掛けた。それを大林が通りかかり助かったとしての経緯と一緒に、山城家からこの男の家と携帯ショップに勤める際にこの男の保証人になっている川島伯爵家に抗議をしている。こいつはクビになり島からは追い出されるだろう」
雅の行動の早さに呆然としてしまう。
「仮にこの写真が貼り出されたとしても、周囲が一時騒ぐだろうがそれだけだ。ハルが嫌がって抵抗しているのはこの写真からも分る。これが合意ではなく、この男に襲われたハルが抵抗しているという十分な証拠だ」
僕への脅しの写真の筈が、僕が抵抗した印の証になるの。
「僕が不貞した証拠にはならない?」
「なるわけないだろ。馬鹿らしい」
「僕、雅の側に居られる?」
「勿論、佐々木の方は俺からあいつに言っておく、ハルもあいつの小姓も不自由かもしれないが、学園内で供をつける様になるだろうな」
上の学年にお供を連れてる人がいるけど、あんな感じになるんだろうか。あれって特例って聞いたけれど違うのかな。
「お供なんて、学園が許可してくれる?」
「簡単だ。小姓を大事にしている奴は皆付けている」
「そうなの?」
あれ、じゃあ特例になってるのは何故なんだろう。
僕の疑問は顔に出ていたのか、雅はすぐに気がついてくれた。
「ああ、ハルが特別だと思っている奴は教室までお供をいれている奴らだろ? あれは学園に相手がいないから、ああやって教室の中までお供を付けることで特に大切にしていると主張しているんだよ」
「知らなかった」
「小姓は使う手洗いの場所も違うし、更衣室も分かれるから専用の使用人を供として付けるのは当然の話だろ。だから手配してるから邪魔だろうけど我慢してくれ」
「当然、なんだね。分った」
そういえばこの学園、トイレとか更衣室とか小姓専用があるんだった。すっかり忘れていた。
「抗議とか僕思いつきもしなかったよ」
雅の小姓になる前だったわけだし、そんな状況でも雅が抗議出来るなんてそもそも知らなかったから当然だけれど、雅はちゃんと色々考えて動いてくれてたんだと思うと胸が一杯になる。
「あ、抗議の事でひとつ。俺達の手続きした日はハルがこの部屋に泊った日だから、もし誰かに聞かれたら周知してなかっただけで、すでに手続きしていたとしてくれ」
「どうして」
「手続きしてから一週間の待期期間があるんだ。その間は正式な手続きが終わっていないと見なされる。つまりハルが誰かに何をされても俺が抗議出来る立場ではないんだ」
「じゃあ、今日の手続きじゃ駄目なんじゃない?」
「本当はね」
何か無理矢理日にちを変えたとかなのかな? それって大丈夫なのかな。
不安そうにしているように見えたのか、雅は僕の背中を撫でながら「運が良かったんだよ」と笑った。
「運がいい?」
「そ、ハルが俺の部屋に泊ったから」
「どういうこと」
「寮は誰かの部屋に泊るの禁止されてるって覚えてる?」
「あれ、そうだっけ?」
「そうなんだよ。だから、ハルが泊ったあの日一応俺が宿泊の届けを出していたんだ。ハルが具合悪くなった為泊めたとね」
「そうなの?」
知らなかった。僕、知らないうちに雅に迷惑かけてたんだ。
雅が部屋に入ってきて、僕の体に触れるまでどれ位の時間が経っていたんだろう。
気がつくと僕は雅に抱きしめられてていた。
「み、雅」
「どうした、何故泣いてる」
「雅、雅」
雅に抱きしめられてその温かさに、暖房が効いている部屋なのに体が冷えていると気がついた。
雅の温度、雅の付けている香水の匂い、雅の息づかいを感じて僕はじわりとまた涙が浮かぶ。
離したくない、この手を離したくない。
でも、僕が雅の小姓になったことで舞に何かあったら。
それに、あの写真を貼り出されたら僕は雅の側にいられなくなる?
「雅、小姓の手続きは」
「終わった。安心していい、もう受理されたから誰にも取り消しも撤回も出来ない」
小姓の手続きを取り消せるのは手続きした本人、つまり僕達の場合は雅だけ。
受理されてしまえば誰が何を言っても取り消せないんだ。
だから僕が黙っていれば、あのメールを雅が知らなければ誰にも邪魔は出来ない。
悪い心が僕を誘惑する。
でも、本当に舞に何かあったら、そしたらそれは僕が黙っていたせいだ。
そんなの、駄目だ。
「雅、ごめんなさい。駄目なんだ」
「なにが駄目なんだ?」
「小姓、駄目なんだ。僕、どうしよう。雅」
説明しなきゃと焦るのに、どう説明したらいいのか考えられない。
どうしよう、どうしようと繰り返すばかりの僕を辛抱強く雅は待ってくれているのに、上手い言葉が浮かばない。
「メールが」
「メール? ハルのスマホに何かメールが来たのか?」
僕を抱きしめながら、雅はサイドテーブルに視線を動かしそして床下に落ちたスマホに気がつき立ち上がった。
「見るぞ」
「う、うん」
電源を入れると、画面に出したままの画像が見えた。
「これは、さっきの?」
「メールについて。メール、誰からか分らないけど、メールが」
要領を得ない僕の説明に、雅はスマホを操作し始める。
「モブとは」
「僕のことかな、どういう意味で言ってるのか分らないけど」
この世界にこんな言葉使われてるかどうか分らないけど、メールの文章から読み取ればそれは僕について言っているのだと分るだろう。
「ハルが俺の小姓になったら、佐々木の小姓に何かが起きると。で、ふざけたこの写真」
「どうしよう、こんな写真が貼り出されたら。僕」
「それは問題無い。すでに抗議として対応してきた」
「え」
「ハルは俺の小姓で、一人でいるところをこの男に襲われ掛けた。それを大林が通りかかり助かったとしての経緯と一緒に、山城家からこの男の家と携帯ショップに勤める際にこの男の保証人になっている川島伯爵家に抗議をしている。こいつはクビになり島からは追い出されるだろう」
雅の行動の早さに呆然としてしまう。
「仮にこの写真が貼り出されたとしても、周囲が一時騒ぐだろうがそれだけだ。ハルが嫌がって抵抗しているのはこの写真からも分る。これが合意ではなく、この男に襲われたハルが抵抗しているという十分な証拠だ」
僕への脅しの写真の筈が、僕が抵抗した印の証になるの。
「僕が不貞した証拠にはならない?」
「なるわけないだろ。馬鹿らしい」
「僕、雅の側に居られる?」
「勿論、佐々木の方は俺からあいつに言っておく、ハルもあいつの小姓も不自由かもしれないが、学園内で供をつける様になるだろうな」
上の学年にお供を連れてる人がいるけど、あんな感じになるんだろうか。あれって特例って聞いたけれど違うのかな。
「お供なんて、学園が許可してくれる?」
「簡単だ。小姓を大事にしている奴は皆付けている」
「そうなの?」
あれ、じゃあ特例になってるのは何故なんだろう。
僕の疑問は顔に出ていたのか、雅はすぐに気がついてくれた。
「ああ、ハルが特別だと思っている奴は教室までお供をいれている奴らだろ? あれは学園に相手がいないから、ああやって教室の中までお供を付けることで特に大切にしていると主張しているんだよ」
「知らなかった」
「小姓は使う手洗いの場所も違うし、更衣室も分かれるから専用の使用人を供として付けるのは当然の話だろ。だから手配してるから邪魔だろうけど我慢してくれ」
「当然、なんだね。分った」
そういえばこの学園、トイレとか更衣室とか小姓専用があるんだった。すっかり忘れていた。
「抗議とか僕思いつきもしなかったよ」
雅の小姓になる前だったわけだし、そんな状況でも雅が抗議出来るなんてそもそも知らなかったから当然だけれど、雅はちゃんと色々考えて動いてくれてたんだと思うと胸が一杯になる。
「あ、抗議の事でひとつ。俺達の手続きした日はハルがこの部屋に泊った日だから、もし誰かに聞かれたら周知してなかっただけで、すでに手続きしていたとしてくれ」
「どうして」
「手続きしてから一週間の待期期間があるんだ。その間は正式な手続きが終わっていないと見なされる。つまりハルが誰かに何をされても俺が抗議出来る立場ではないんだ」
「じゃあ、今日の手続きじゃ駄目なんじゃない?」
「本当はね」
何か無理矢理日にちを変えたとかなのかな? それって大丈夫なのかな。
不安そうにしているように見えたのか、雅は僕の背中を撫でながら「運が良かったんだよ」と笑った。
「運がいい?」
「そ、ハルが俺の部屋に泊ったから」
「どういうこと」
「寮は誰かの部屋に泊るの禁止されてるって覚えてる?」
「あれ、そうだっけ?」
「そうなんだよ。だから、ハルが泊ったあの日一応俺が宿泊の届けを出していたんだ。ハルが具合悪くなった為泊めたとね」
「そうなの?」
知らなかった。僕、知らないうちに雅に迷惑かけてたんだ。
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