悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

文字の大きさ
1 / 24
第1章 偽王太子断罪編

第1話

しおりを挟む
 それは王宮舞踏会で突然起こった。


「フィルミナ・ヴィルシュタイン。私は其方との婚約破棄を宣言する!」

 よく通る声で、この国の王太子エドワルドは高らかに言い放つ。

 エドワルドの目の前に立つ可憐な少女フィルミナは、ヴィルシュタイン公爵家の令嬢でエドワルドの婚約者である。
 
 フィルミナは一瞬の間を置いて、透き通るような青い瞳でまっすぐにエドワルドを見つめる。

「承知いたしました。それではこれにて失礼いたします」

 淑女の礼をとると光輝くプラチナブロンドをなびかせ、そのまま出口へ向かおうとする。

「待て。理由くらい聞かぬのか?」

 エドワルドはさっさと歩いていくフィルミナを呼び止める。

「別に聞きたくありませんわ」

 フィルミナはエドワルドの方へ振り向く。
 
 エドワルドの隣には金色の巻き毛でリボンとレースをふんだんに使ったドレスがよく似合う可愛い少女が並んでいる。

 理由は聞かずとも、その光景を見れば婚約破棄の理由は察することができた。

 「それでは」と再び出口を目指すフィルミナをまたもや呼び止めるエドワルド。

「待てと言っている。其方にはまだ用がある」

「(ちっ! 面倒くさいですわ)こちらには用はございませんので帰ります(早く帰って本が読みたい)」

「おい! 今、前後に本音が漏れてたぞ」

「気のせいですわ」

「舌打ちしてただろう? ちっ! とか聞こえたぞ。あと本が読みたいってなんだ」

「(意外と耳がいいですわね。地獄耳?)然るべき書類でしたら後ほど宰相である父がご用意いたしますわ」

 フィルミナの父であるヴィルシュタイン公爵はこの国の宰相である。
 
「そういうことではない。また本音が漏れてるぞ!」

 本音がだだ漏れのフィルミナの言動にいらついてきたエドワルドである。

 フィルミナはやれやれといった風にため息を吐く。

「それではどのようなご用件ですの?」

「其方がここにいるエレナにしてきた所業についてだ」

 エドワルドの隣にいる少女エレナの大きな紫の瞳が涙で潤んでいた。その様は庇護欲をそそる。

「エレナ様にしてきたことですか? そもそもわたくしとエレナ様との接点はございませんが、どのようなことでしょうか?」

「とぼけるつもりか! エレナを田舎貴族の娘と罵り、つらくあたったそうではないか!」

 それは誰がしたことだろうか? 全く心当たりがないフィルミナである。

「殿下はご存知かと思いますが、わたくしは基本引きこもりですのでエレナ様だけではなく、他のご令嬢ともあまり接点はございません。本が友達です!」

 清々しいほどの表情で言い切るフィルミナにエドワルドは唖然とする。

「それは……自慢して言うことなのか……」

 唖然としたのはエドワルドだけではなく、周囲にいた面々もだが、そんなことには意も介さずフィルミナは持っていた扇を開き口を覆う。

「それに目の前にいる貴方はわたくしの知っている王太子殿下ではございませんもの」

 ほほほと上品に笑うフィルミナの言葉に周囲が「どういうことだ?」とざわめく。

「よく似てはおりますけれど、貴方はエドワルド王太子殿下ではありません」

「フィルミナ! 貴様は私を偽物と申すか? どこにそんな証拠がある!」

 エドワルドは端正な顔を歪ませ激昂するが、フィルミナは物怖じせずになおも言い募る。

「わたくしの婚約者であるエドワルド王太子殿下とは3歳からのお付き合いです。細かい所作などもすべて把握しておりますが、決定的に違うことがございます。それはつむじの巻き方です!」

「はあああああ!? 何それ? つむじの巻き方って!? 逆に怖いんだけど!」
 
 怒りで赤く染まっていたエドワルドの顔が今度は青くなる。確かにつむじの巻き方で人を判別する観察眼は「ストーカー?」と言えなくもないが……。

「殿下のつむじの巻き方は渦のようでそれは美しいのですよ。黄金の髪が天使の輪のように光って芸術的ですの」

 白磁の肌を薄い紅色に染め、うっとりとした表情でフィルミナは語る。それとは裏腹にエドワルドや隣にいるエレナの顔はどんどん青くなっていく。ちなみに周囲にいた人々もだが。

 「それに比べて貴方のつむじは美しくありません! 地肌が一部露出しているからです(ハゲ始めてるのかしら? 若いのに気の毒ですわ)」

 気にしていることを指摘された(主に漏れ出た本音で)エドワルドはわなわなと体を震わせ、青い顔を再び赤く染め、フィルミナを指差し大声で近衛兵を呼ぶ。

「近衛兵! この女を捕らえ地下牢に連れて行け! 王族に対する不敬罪で処刑してやる!」

 戸惑いながらも近衛兵がフィルミナに近づいた時である。

「そこまでだ! 不敬罪で牢に行くのはお前だ!」

 よく通る声が出口から聞こえた。舞踏会場にいた人々の視線が一斉にそちらに向く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...