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第2章 学園編
第15話
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ヴィルシュタイン公爵領の領主館まであと小一時間で到着する辺りで、エレナは落ち着きを取り戻し、申し訳なさそうに頭を下げる。
「先ほどは取り乱しまして、申し訳ございませんでした」
「謝罪は必要ないぞ。エレナ嬢。あのような場面に出くわしたのだから。レディには刺激が強かったろう」
「そうだ。気にするな」
「エレナはエドたちが飛び出して鍵を閉めた後、ずっとわたくしを励ましてくれました(勇敢でしたわ)」
自分のせいで出発が遅れてしまったのを責めることもなく、励ましてくれる3人に、エレナはまた涙腺が緩みそうになる。
「ガードナー伯爵家は武人の家系ですのに、いざ戦いを目の前にしましたら、震えがきてしまいました……不甲斐ないですわ」
そういえばとトームスは思い出す。自分の剣の特訓をしてくれたのは、王国騎士団第一隊長でガードナー伯爵家の嫡男だった。つまりエレナの兄である。
髪と瞳の色はエレナと同じなのだが、がっちりとした体格に見事な筋肉で、精悍な顔立ちをした青年だった。
(似てねぇ兄妹だと思ったもんな)
「それにしてもエドはともかく、貴方も素晴らしい立ち回りでしたわね(トームスのくせに生意気ですわ)」
「お前は本音が余計だ」
「兄が申しておりました。トームスの剣の腕は隊長クラスだと」
うんうんとエドワルドは頷いている。
「トームスはいい拾い物だった」
「人を物扱いしてるんじゃねえよ」
エドワルドの元で(強制的に)侍従として仕えてから、半年くらいになるだろうか。ずっとエドワルドを見てきた。優秀な王太子ではあるが、人となりは少し問題がある。
(殿下はドSだ)
先ほどの襲撃者に対しても容赦がなかった。トームスが止めに入らなかったら、襲撃者は息の根が止まっていただろう。決着がついた頃には虫の息だった。
そういえば、ヴィルシュタイン家の領主館に行ったら、自ら詰問するとも言っていた。襲撃者を少しだけ気の毒に思うトームスだった。
エドワルド一行を乗せた馬車はヴィルシュタイン公爵家の領主館へ到着した。
「どこの要塞だ!」
領主館を見たトームスは馬車を降りた途端に圧倒されて、叫んでしまった。領主館は貴族の城というよりは要塞に近い佇まいだった。
「ヴィルシュタイン公爵領は貴重な宝石が採れる鉱山を有している。盗賊などが絶えず襲ってくるのだ。優雅な城では守りきれぬだろう?」
「居住空間は快適に過ごせるようになっておりますわ」
領主館の扉が開き、一人の青年が出迎えにきた。エドワルドに紳士の礼をとると顔をあげる。プラチナブロンドに緑の瞳をした穏やかな雰囲気をまとっている。顔立ちがどことなくフィルミナに似ていた。
「ようこそいらっしゃいました。エドワルド殿下……殿下が二人!?」
「セイン殿。久しぶりだ。こちらは私の侍従のトームスだ」
「噂の影武者殿ですか? 初めてお目にかかります。ヴィルシュタイン公爵領の領主代行でセイン・ヴィルシュタインと申します」
セインが笑顔で手を差し出す。握手を求めているのだ。トームスは慌ててセインと握手を交わし、挨拶をする。
「マルク子爵家当主のレオンハルト・トームス・マルクと申します。よろしくお願いします」
「「レオンハルトって誰ですの?」」
フィルミナとエレナが口を合わせる。頭に疑問符が浮かび、目が点になっている。
「今、名乗っただろう。俺だよ俺」
「トームスではありませんの?」
フィルミナが人差し指を顎にあてて、頭を傾げる。なんとも可愛らしい仕草だ。
「レオンハルトは元の名前だ。トームスってのは孤児院に入れられた時に牧師様がつけてくれた名前だ。愛着があるからセカンドネームにしたんだよ」
「貴族にしては珍しい名前だと思いましたわ(雑魚キャラっぽい名前ですもの)」
「おい! 全世界のトームスさんに謝れ」
「トームスとは、国教であるニールカ教の聖人の名前だね。良い名前を与えてもらえたね」
セインがにこにこ笑顔で補足してくれる。オーグランド王国の国教はニールカ教といい、聖人トームスが教えを広めたと言われる。
「よくご存じですね。セイン殿。フィルミナの兄上ですね?」
「そうだよ。妹が世話をかけているようだね。少し個性的な娘だが、これからもよろしく頼むよ」
フィルミナがブゥと頬を膨らませる。
「違いますわ。お兄様。わたくしがトームスのお世話をしていますの(手間がかかりますの)」
「どっちがだよ」
にこやかにセインが見守る。
「フィルミナは可愛いな。抱きしめていいか?」
先ほどからフィルミナが可愛らしい仕草をするので、我慢がきかなくなったエドワルドだった。にこやかだったセインの笑顔が消え、目尻が吊り上がる。
「結婚前は慎みくださいますよう。殿下」
声のトーンまで低い。妹に不埒なマネをしたら殺すとセインの目が語っている。
「あ。はい」
エドワルドが固まる。再びセインの顔に笑みが浮かぶ。
「お疲れでしょう? さあ。館の中へお入りください」
(あの殿下が固まった!? 穏やかそうに見えても、やっぱりただ者じゃないよな)
戦慄が走ったトームスだった。セインに逆らうのはやめておこう。トームスの中のヒエラルキーの頂がエドワルドからセインに変わった。
「先ほどは取り乱しまして、申し訳ございませんでした」
「謝罪は必要ないぞ。エレナ嬢。あのような場面に出くわしたのだから。レディには刺激が強かったろう」
「そうだ。気にするな」
「エレナはエドたちが飛び出して鍵を閉めた後、ずっとわたくしを励ましてくれました(勇敢でしたわ)」
自分のせいで出発が遅れてしまったのを責めることもなく、励ましてくれる3人に、エレナはまた涙腺が緩みそうになる。
「ガードナー伯爵家は武人の家系ですのに、いざ戦いを目の前にしましたら、震えがきてしまいました……不甲斐ないですわ」
そういえばとトームスは思い出す。自分の剣の特訓をしてくれたのは、王国騎士団第一隊長でガードナー伯爵家の嫡男だった。つまりエレナの兄である。
髪と瞳の色はエレナと同じなのだが、がっちりとした体格に見事な筋肉で、精悍な顔立ちをした青年だった。
(似てねぇ兄妹だと思ったもんな)
「それにしてもエドはともかく、貴方も素晴らしい立ち回りでしたわね(トームスのくせに生意気ですわ)」
「お前は本音が余計だ」
「兄が申しておりました。トームスの剣の腕は隊長クラスだと」
うんうんとエドワルドは頷いている。
「トームスはいい拾い物だった」
「人を物扱いしてるんじゃねえよ」
エドワルドの元で(強制的に)侍従として仕えてから、半年くらいになるだろうか。ずっとエドワルドを見てきた。優秀な王太子ではあるが、人となりは少し問題がある。
(殿下はドSだ)
先ほどの襲撃者に対しても容赦がなかった。トームスが止めに入らなかったら、襲撃者は息の根が止まっていただろう。決着がついた頃には虫の息だった。
そういえば、ヴィルシュタイン家の領主館に行ったら、自ら詰問するとも言っていた。襲撃者を少しだけ気の毒に思うトームスだった。
エドワルド一行を乗せた馬車はヴィルシュタイン公爵家の領主館へ到着した。
「どこの要塞だ!」
領主館を見たトームスは馬車を降りた途端に圧倒されて、叫んでしまった。領主館は貴族の城というよりは要塞に近い佇まいだった。
「ヴィルシュタイン公爵領は貴重な宝石が採れる鉱山を有している。盗賊などが絶えず襲ってくるのだ。優雅な城では守りきれぬだろう?」
「居住空間は快適に過ごせるようになっておりますわ」
領主館の扉が開き、一人の青年が出迎えにきた。エドワルドに紳士の礼をとると顔をあげる。プラチナブロンドに緑の瞳をした穏やかな雰囲気をまとっている。顔立ちがどことなくフィルミナに似ていた。
「ようこそいらっしゃいました。エドワルド殿下……殿下が二人!?」
「セイン殿。久しぶりだ。こちらは私の侍従のトームスだ」
「噂の影武者殿ですか? 初めてお目にかかります。ヴィルシュタイン公爵領の領主代行でセイン・ヴィルシュタインと申します」
セインが笑顔で手を差し出す。握手を求めているのだ。トームスは慌ててセインと握手を交わし、挨拶をする。
「マルク子爵家当主のレオンハルト・トームス・マルクと申します。よろしくお願いします」
「「レオンハルトって誰ですの?」」
フィルミナとエレナが口を合わせる。頭に疑問符が浮かび、目が点になっている。
「今、名乗っただろう。俺だよ俺」
「トームスではありませんの?」
フィルミナが人差し指を顎にあてて、頭を傾げる。なんとも可愛らしい仕草だ。
「レオンハルトは元の名前だ。トームスってのは孤児院に入れられた時に牧師様がつけてくれた名前だ。愛着があるからセカンドネームにしたんだよ」
「貴族にしては珍しい名前だと思いましたわ(雑魚キャラっぽい名前ですもの)」
「おい! 全世界のトームスさんに謝れ」
「トームスとは、国教であるニールカ教の聖人の名前だね。良い名前を与えてもらえたね」
セインがにこにこ笑顔で補足してくれる。オーグランド王国の国教はニールカ教といい、聖人トームスが教えを広めたと言われる。
「よくご存じですね。セイン殿。フィルミナの兄上ですね?」
「そうだよ。妹が世話をかけているようだね。少し個性的な娘だが、これからもよろしく頼むよ」
フィルミナがブゥと頬を膨らませる。
「違いますわ。お兄様。わたくしがトームスのお世話をしていますの(手間がかかりますの)」
「どっちがだよ」
にこやかにセインが見守る。
「フィルミナは可愛いな。抱きしめていいか?」
先ほどからフィルミナが可愛らしい仕草をするので、我慢がきかなくなったエドワルドだった。にこやかだったセインの笑顔が消え、目尻が吊り上がる。
「結婚前は慎みくださいますよう。殿下」
声のトーンまで低い。妹に不埒なマネをしたら殺すとセインの目が語っている。
「あ。はい」
エドワルドが固まる。再びセインの顔に笑みが浮かぶ。
「お疲れでしょう? さあ。館の中へお入りください」
(あの殿下が固まった!? 穏やかそうに見えても、やっぱりただ者じゃないよな)
戦慄が走ったトームスだった。セインに逆らうのはやめておこう。トームスの中のヒエラルキーの頂がエドワルドからセインに変わった。
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