悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

文字の大きさ
19 / 24
第2章 学園編

第19話

しおりを挟む
 ガードナー伯爵VSトームスの決闘? が終わった後、再び応接間に戻り、マーガレット夫人お手製のマカロンをお茶菓子にして、紅茶を飲みながら、歓談していた。

「トームス君。今度の王宮舞踏会ではエレナのエスコートを頼むよ。エレナの社交デビューだからな」

 伯爵の思わぬ言葉にトームスは驚きの色が隠せない。

「えっ! エレナは社交デビューしてないのですか?」

 エドワルドがふんと鼻を鳴らすとトームスを睨む。

「エレナ嬢だけではない。フィーもだ」

「なんでだよ。前の王宮舞踏会では2人ともいたじゃないか?」

お前のせい・・・・・だからな!」

「そうですわ! わたくしとエレナは前の王宮舞踏会で社交デビューするはずだったのに、貴方のせいで台無しでしたのよ(せっかく気合を入れてましたのに)」

「あ! その節はどうもすみませんでした」

 あらためてトームスは頭を下げる。そう。通称「王太子の影武者がいました事件」でトームスが前の王宮舞踏会を中断させてしまったのだ。

「そういうわけだ。トームス君。本当は私がエスコートしたいのだが、責任とってくれるね?」

 ガードナー伯爵は顔は笑っているが、背後に怒気が漂っていた。

「はい。もちろんです!」

 マーガレット夫人がトドメの一言を刺す。

「エレナを幸せにしてくださいね。大切な娘ですから」

「はい! 幸せにします! 白い大蛇のエサにはなりたくないです!」

「ブランシェは人間を襲いませんよ」

 優雅に紅茶を楽しんでいたエレナがソーサーにティーカップを置き、ぼそりとつぶやく。

「え? そうなの?」

「ブランシェは美食家なのです(人間は不味いそうです)」

「さらりととんでもない本音が漏れてますけど!? それって味見したことあるんだよね?」

 不味いということはぱっくりといったということではないのか? トームスは戦慄する。

「すぐに吐き出したみたいですわ。その方、ぱっくりされても生きておりましたもの」

 少しほっとしたが、あること・・・・・に気づく。

「ちょっと待て。なんであの大蛇が美食家とか……その……不味いとか知ってるんだよ」

「時々、エレナとわたくしでブランシェの部屋に行ってお茶してますもの」

「女子会楽しいですわよね」

 フィルミナとエレナは「ね!」と顔を見合わせる。

「お前ら、蛇の言葉が分かるのか!?」

「「なんとなく」」

 口をパクパクさせて、エドワルドの方へ顔をギギギと向ける。

「……殿下。俺……女の子が怖くなってきた」

「その……なんだ……男は細かいことは気にするな」



 その日はガードナー伯爵家に泊まることになり、ガードナー伯爵夫妻と4人で晩餐を楽しんだ。料理長が腕をふるった晩餐は、畜産が盛んということもあり、肉料理が絶品だった。

 晩餐の後、トームスはエレナを部屋までエスコートしていったので、フィルミナはエドワルドにエスコートしてもらい客間へと向かう。

「エド。お願いがありますの」

「フィーの願いなら、なんでも聞かないとな」

「それぞれの結婚式の後に、どこか小さな教会で4人だけでダブル結婚式をしたいのです(ダメかしら?)」

 上目遣いでエドワルドを見つめるフィルミナはなんとも庇護欲をそそる。

「ダメではない。トームスとエレナ嬢の了解を得ればだが。フィーの望みを叶えてやりたいからな」

「エレナの了解は得ていますわ」

「では、トームスに拒否権はないな。決定だ。そうだ! マルク子爵領は温泉があるし、自然豊かなリゾート地だ。トームスに手配させよう」

「でも、トームスとエレナの結婚式はマルク子爵領でするのでは?」

 貴族の結婚式は婚家ですることになっているが、例外もある。

「いや。ガードナー伯爵領で行う。トームスの両親は他界しているし、兄弟もいないからな。マルク子爵領で取り仕切る人材がいないなら、こちらで行ってはどうか? とガードナー伯爵が申し出てくれたのだ」

「まあ。ではトームスとエレナの結婚式が終わったら、マルク子爵領に行ってダブル結婚式をしましょう!」

「ついでに4人で新婚旅行に行こうか?」

 フィルミナがぱあと顔を輝かせる。美しい青い瞳が嬉しそうに細められる。

「それは素敵ですわ!(今からワクワクします)」

 トームスだけが知らないところで着々と話が進んでいった。彼に拒否権はないのだろうが……。



 エレナをエスコートして、部屋の前まで送っていったトームスは役目を終えたので「じゃあ。また明日な」と挨拶して踵をかえそうとする。

「お待ちになって。部屋の中にお入りになってくださいな」

「えっ! 婚約前に部屋に入ったらまずいだろう?」

 トームスの顔が赤くなる。意味を察したエレナの顔も赤くなる。

「そういう意味ではありませんわ! 貴方、お父様との試合の時に背中を打ち付けたでしょ? かなり痛むはずですわ」

 エレナの言うとおりだ。黙っていたが、背中がズキズキと痛む。

「一晩、寝れば治るから大丈夫だ。俺は頑丈だからな」

「打ち身に効く塗り薬がありますの。我が家は武人の家系ですから、秘伝の薬ですのよ」

 いいから入れとエレナが自ら自室の扉を開けた。トームスはふっと笑うと両手を挙げる。降参だ。

「強引だな。まあ気の強い女も好きだけどな」



 エレナの部屋は花柄の壁紙で、調度品も女性が好きそうな可愛らしい家具が並んでいる。彼女らしい部屋だと思った。

 キャビネットの引き出しをあけて薬を取り出したエレナは、恥ずかしそうにトームスをソファに座らせる。

「その……シャツを脱いでくださいな」

「はいはい」

 シャツを脱いだトームスの肌が露わになる。エレナは父と兄が剣の稽古の後、上半身裸になるので、男性の裸には耐性があると思ったのだが、あらためてトームスの上半身を見て顔を赤らめる。

(きれいな肌をしているのね。男性らしくしっかり筋肉もついているのに)

 背中を向けているトームスに真っ赤になった自分の顔が見えてなくて良かったと思う。手際良く打ち付けて青いアザになっている部分に塗り薬をぬっていく。

(手が少し震えているかな? 男の裸に耐性ないとか? 可愛いなあ)

「終わりましたわ」

「ありがとな」

「どういたしまし……て……きゃー!」

 エレナは咄嗟に顔を隠す。トームスが上半身裸のままエレナの方を向いたからだ。

「あ! 悪い! 今、シャツ着る……か……ら……」

 一瞬、トームスの息が止まった。にやにや笑っているエドワルドと顔を隠しつつも手の隙間から覗いているフィルミナが扉の前にいたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...