悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

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第2章 学園編

第18話

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 ガードナー伯爵家の領主館までは馬車で1時間ほどの距離だった。馬車の中でエレナの両親への挨拶を考えていたトームスはガチガチに全身が強張っていた。

「あ~。緊張する」

「自然体で構いませんわ。父は貴方のことを気に入っているようですから」

「会ったことがあったか?」

 考えてみるが、ガードナー伯爵とは面識がないような気がする。

「兄があれこれ話をしているようですわ」

「なるほど。で。お前らはなんでついてきてるんだ?」

 向かい側に座るエドワルドとフィルミナをじろっと見やる。

「私はおまえの主だ。婚約の一部始終を見届ける義務がある」

「わたくしはエレナの友人として見届ける義務があります(どんな挨拶をするのか楽しみですわ)」

 良い笑顔の2人だが、明らかに面白がっているのが、バレバレだ。

「俺が失敗するのを期待しているって顔に書いてあるぞ」

 トームスの緊張が少し解れた。


 
 ガードナー伯爵家の領主館は要塞のようなヴィルシュタイン公爵家の領主館とは違い、牧草地が広がる豊かな緑の中に佇んでいた。

「いいところだな」

「我がガードナー伯爵家は軍馬となる馬の産地なのです。畜産業も盛んですよ」

 一応、貴族の情報はエドワルドに叩き込まれたので、ガードナー伯爵家の領地や特産なども知識として知ってはいたが、見るのと聞くのでは違うものだ。ヴィルシュタイン公爵領がいい例である。

 領主館の玄関前で馬車が停車すると、ガードナー伯爵家の執事が扉を開けてくれる。玄関前ではガードナー伯爵夫妻が出迎えてくれた。

「ようこそお越しくださいました。エドワルド殿下」

 ガードナー伯爵夫妻は王族に対する最上級の礼をとる。

「忍びゆえ、畏まった挨拶は抜きだ。ガードナー伯爵。紹介する。このくるくるメガネがマルク子爵だ」

(くるくるメガネって……。もう少しまともな表現はないのかよ)

 昨日、フィルミナがプレゼントしてくれたメガネは度は入っていないが、レンズが厚く光加減でくるくる渦が巻いて見えるのだ。

 トームスはガードナー伯爵夫妻に紳士の礼をとり、挨拶をする。

「初めてお目にかかります。ガードナー伯爵ならびに伯爵夫人。マルク子爵家当主のレオンハルト・トームス・マルクと申します」

「君が噂の殿下にそっくりだというマルク子爵か。初めてお目にかかる。ガードナー伯爵家当主のエリオット・ガードナーです。こちらは妻のマーガレットです」

 ガードナー伯爵が夫人を紹介すると、マーガレット夫人は淑女の礼をする。

「初めまして。エレナの母ですわ。娘がいつもお世話になっております」

 伯爵夫人はエレナと同じ金色の髪だ。瞳は青いが、何より顔立ちがエレナに似ている。

(エレナは母親似だな)

 ガードナー伯爵はエレナの兄と同じ精悍な顔立ちをしている。ブラウンの髪に紫の瞳。エレナの瞳の色は父親譲りのようだ。

「こちらこそ、エレナ嬢にはいつもお世話になっています」

「立ち話もなんです。どうぞ屋敷にお入りください」


 
 応接間に案内された4人は、大人が5人座れそうな広いソファに腰かける。対面にはガードナー伯爵夫妻が座っている。

 エドワルドが挨拶しろと目配せしてくる。顔が面白がっているのが腹が立つ。おかげで緊張は解けたが……。

 トームスはすうと呼吸を整えると、あらかじめ考えておいた挨拶をする。

「あらためまして、この度はエレナ嬢との婚約を申し込みに参りました。本日は……」

 言いかけたところでガードナー伯爵がきっとトームスを見据える。

「トームス君。息子から聞いたが、君は剣の腕が立つそうだね」

「え?」

 ガードナー伯爵は立ち上がると腰に手をあてて、仁王立ちする。

「ここは剣で語ろうではないか!」

「はい?」



(なんでこうなった!?)

 気が付けば、ガードナー伯爵に庭に引っ張られて、剣を手渡された。執事に預けたはずのトームスの剣だ。

「まあ、お父様の悪い癖が出たわ」

「わたくし達はここでお茶をいただきながら、観戦しましょう」

「お菓子はマーガレットおばさま特製のマカロンですわね(これ美味しいのよね)」

 マーガレット夫人は夫がトームスを引っ張っていった後、手際良く、剣の勝負がよく見える場所にテーブルをセッテングし、お茶の準備をした。まるでこうなることが分かっていたようだ。

「そういえば、まだおかえりを言ってなかったわね。おかえりなさい、エレナ。フィーちゃん、お久しぶりね」

「ただいま。お母様。この紅茶はファーストフラッシュですわね」

「おばさま。お久しぶりです。マカロン美味しいですわ(もぐもぐ)」

 花が綻ぶような笑顔でマーガレット夫人が娘とその友人をおもてなしする。美人が3人。実に和む風景だ。目の前の殺伐とした空気を除けば……。

「審判は私が務めよう。両者、剣を構え!」

 審判はエドワルドが自らかってでた。

「いやいや。おかしいだろう? この剣は刃引きがしてない剣だぞ。これ決闘だよね」

「遠慮はいらんぞ。むしろ殺すつもりでかかってこないと私は倒せないぞ!」

 鼻息が荒いガードナー伯爵である。やる気に満ちて、目が爛々と輝いている。

(このおっさん、殺る気だ!)

「伯爵は現役の騎士団団長だ。死ぬ気で頑張れよ。トームス」

 エドワルドは止める気はないらしい。

「騎士団団長!? 死ぬ気っていうか。死ぬわ!」

「はじめ!」

 ガードナー伯爵が電光石火で剣を繰り出す。すばやくガードするが、一撃が重い。手がビリビリと痺れる。

(さすが騎士団団長。強い! 真剣にやらないとマジで死ぬな)

 二撃目が襲い掛かるが、ガードナー伯爵の眼前からトームスの姿が消える。

「何っ!?」

 空中に飛び上がったのだ。落下速度を利用して剣の腹を伯爵の頭上に落とそうとする。

「だが、甘い!」

 頭上に迫ったトームスの剣を受け止めると、トームスごと木に向かって叩きつけた。

「ぐえっ!」

 叩きつけられた痛みでトームスは気を失いそうになるが、かろうじて受け身をとり、着地する。体勢を整えようとするが、目の前に伯爵の剣が突きつけられる。

「勝負あったな。そこまで!」

 エドワルドが勝負の終わりを告げる。

 ガードナー伯爵が手を差し出してきたので、トームスはその手を借り、立ち上がる。

「息子が言ったとおりだ。いい腕をしている」

 ガハハハと豪快にガードナー伯爵が笑う。そしてトームスの背中をバンバンと叩いてくる。

「いててっ! 痛いです!」

「気に入った! 今日から義父と呼ぶが良い」

「まあ! じゃあ私は義母と呼んでくださる?」

 伯爵に便乗して夫人もはいはいと手を挙げている。

「これって認められたってことでいいのか?」

「そういうことだ。良かったな」

 エドワルドがにやにや笑いながら、トームスの肩に手を乗せる。
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