悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

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第2章 学園編

第17話

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 領主館の応接間でゆっくりとお茶を飲みながら休んでいたフィルミナとエレナは、3人が鉱山から帰ってくるを待っていた。

「フィルミナ様。今日は大変でしたわね。お疲れではありませんか?」

「エレナこそ、まだ顔色が悪いわ。部屋で休んだ方がいいのではなくて?」

 互いに気遣い合うフィルミナとエレナは、顔を見合わせてくすっと微笑む。

「それにしても、今日はトームスが大活躍でしたわね(あとで代わりのメガネをプレゼントしましょう)」

「そう……ですね……。ちょっと……格好良かった……ですわね」

 エレナが歯切れ悪くささやく。頬が少し赤く染まっている。

「そんな格好良かったトームスと婚約する心境はいかがかしら?(ドキドキ。ワクワク)」

 フィルミナが目を輝かせて感想を待っている。エレナの顔がさらに赤くなる。

「そ、そそ、それは……。もう、フィルミナ様。意地悪ですわ」
 
 両手で赤く染まった顔を隠すエレナを見て、フィルミナはふふふと微笑む。

「エレナは可愛いですわね。そうだわ!」

 良いことを思いついたとばかりに両手をパンと合わせると、フィルミナはとんでもないことを口走る。

「エドとわたくし。トームスとエレナでダブル結婚式をしましょう」

「そんな!? 王族と貴族の結婚式は違いますわ。恐れ多いことです」

 国をあげて大聖堂で結婚式をする王族に対して、婚家の領地にある聖堂で結婚式をする貴族とでは大きく違う。

「もちろん、それぞれの結婚式もするけど、4人でどこかの小さな教会でダブル結婚式をするのよ(素敵でしょう?)」

 頭の中でエレナは想像する。のどかな田舎の小さな教会で、口うるさい貴族に気を遣うこともなく、4人だけで祝福し合うだけの結婚式。

「それは……素敵ですわね」

 フィルミナとエレナの周りにふわふわと花が舞う……ような幻が見えている侍女たちだが、口には出さない。ヴィルシュタイン公爵家の使用人は教育がしっかりされているのだ。

「それでエド似のわたくしの子供と、トームス似のエレナの子供が生まれたら、おもしろいと思わない?」

「フィルミナ様! 話が飛躍しすぎますわ!」

 きゃーきゃーと騒ぎながら、あれやこれやと妄想する2人の令嬢であった。



 応接間で令嬢たちが恋バナ? で盛り上がっている頃、要塞の城壁では絶叫が響き渡っていた。

「うわあああああ! やめろ! やめてくれ!」

「いっそのこと殺せ!」

 鉱山から帰ってきたエドワルドたちは、捕らえた襲撃者たちの詰問を城壁で行っていた。

「やめてほしければ、おまえたちの雇い主と襲撃の詳細をはけ」

「さすがは殿下。屈辱的な拷問方法をご存じだ。今度から我が家でも取り入れましょう」

 喜々として襲撃者たちの詰問という名の拷問をするエドワルドに、セインがパチパチと惜しみない拍手をおくる。

「……セイン殿。あんた本気でそう思ってます?」

 やりかねないセインにトームスが襲撃者たちに憐れみの視線を送りながら問う。

 襲撃者たちは要塞の城壁に吊るされている。どこかから仕入れてきたカエルの着ぐるみを着せられていた。そしてその下には大きくあぎとを開けた白い大蛇がいる。人間数人くらい軽く飲み込みそうな大蛇だ。獲物が落ちてくるのを今か今かと待ち構えている。

 セインが考えた罠に待機していた大蛇を、穴倉から引っ張り出してきたのだ。普段は調教師がしっかり飼いならしてエサを与えている。お行儀の良いお蛇様なので、命令がない限り、人は飲み込まない。

「てか。あんな大蛇よく飼いならしてるな」

「あれは鉱山を採掘していたら、偶然見つけた傑物でね。白いから神の遣いではないかと鉱山夫たちが言うので、飼いならしてみたんだ。よく仕事をするいい子だよ」

 エサは何か、どんな仕事をするのか気になったが、怖くて聞けなかったトームスである。

「はく! 何でもはくから上に上げてくれ! お願いします!」

 襲撃者たちはもはやパニック状態で涙を流して懇願した。

「よし! 引き上げてやれ」

 城壁を守る衛兵たちが襲撃者たちを引き上げる。セインが大蛇に向かって手を振る。

「ブランシェ。ご苦労様。もうお家に帰ってもいいよ」

 大蛇はセインの声を聴くとうんうんと頷き、穴倉へと帰っていった。ブランシェは女性の名前だ。

(え? あの大蛇メスなのか。しかも頷いてるってことは人間の言葉が分かるのか。知能高ぇ!)

「ブランシェは気に入った人間にはよく懐いているんだ。白くて綺麗な鱗に覆われている素敵な女性? だよ。今度じっくり見るかい?」

「慎んでお断りします!」

 ブランシェがお気に召さなかったら、近寄った途端、ぱっくりと飲み込まれそうだと思うと、背筋に冷たい汗が流れた。

 引き上げられた襲撃者のリーダー格が代表して、自分たちの雇い主と詳細を語り始めた。トームスが裏通りで盗み聞きしたとおりの内容だった。

「これで完全に確定したな。こやつらも証人になる」

 襲撃者たちの話を黙って聞いていたセインに、黒い微笑みが浮かぶ。

「しかし、フィーを狙ったのは許せないな。やはりブランシェのエサになってもらおうか。ブランシェ! カモン!」

 ブランシェを呼ぼうとするセインを慌ててトームスが止める。襲撃者たちの顔色が青くなっていく。

「やめてあげて! 大事な証人なんですから!」

 ちっ! と舌打ちをしながら、セインは「仕方ないですね」と悔しげに言う。下ではブランシェが首を傾げていた。危ないところだった。


 

 ある貴族の屋敷の一室で爪をこつこつとテーブルに打ち付けていた人物は、報告を聞き終えると低い声でつぶやく。

「そう。失敗したのね」

「お嬢様。もうおやめになった方がよろしいかと。これ以上は……」

「おだまり! フィルミナさえ傷物にしてしまえば、私が王太子殿下の心を射止めてみせるわ!」

 お嬢様と呼ばれた人物はカップを投げつける。カップはガシャーンと壁に叩きつけられ砕け散った。

「次の手を考えるわ。そうね。王宮舞踏会がいい舞台になるかもしれないわ」

 企みを考えついた顔が歪む。普段は可愛らしい容貌がかけらもないほどに……。
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