神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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ケンカしないでください

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その日の夜中、私は馬車の止まる音で目が覚めた。私は眠い目を擦りながらカーテンを開けた。

お父様が帰ってきたのかな?

私の2階の部屋からは庭がよく見える。
ずっとお父様とお母様の寝室で3人一緒に寝ていたけれど、8歳頃から自分の部屋で寝ることを許されたのだ。

庭を見ていると、奥の門からは馬車が2台入って来た。

ーー2台?

私は不思議に思いながらも、夜遅いこともあってもう一度ベッドに戻る。

ゴロゴロ。

ゴロゴロ。

何度寝返りを打っても眠れない。

胸がザワザワする。

なんで、こんな夜遅くに馬車が2台きたのか。
私はベッドから体を起こして寝衣の上にカーディガンを羽織った。

部屋を抜け出し、1階へ降りる。

客間の方から何人かの声がした。
高鳴る胸を押さえて静かに声のする方へ向かうと、扉の隙間から灯りの漏れる部屋の前に人が立っている。

この家の執事のモルトだ。

モルトは気付いてすぐに私に歩み寄った。こんなに慌てたモルトの姿を見るのは珍しい。
多分、奥の客間から聞こえてくる声が原因なんだろうな。

私は人差し指を口に当てて静かにするようモルトにお願いし、客間の前まで行く。

中では激しく言い争っているようで、私が少し扉を開けたのにも気付いていない様子だった。

開けた扉の隙間から中を覗くと、そこには王様の姿があって、驚きのあまり思わず声が出そうになった。
口を押さえてなんとか堪えたけど、なんで家に王様が!?しかもこんな夜中に?

王様の横にはラントおじ様が。そしてその後ろにはダナンさんとカールさんがいる。

王様と対面する位置にお父様がいて、そのすぐ横に龍斗さんの姿があった。
お母様も後ろのソファーに手をかけて立っていた。

王様とお父様達はソファーに座らず立ったまま言い争っている。

……言い争っているというか、龍斗さんが王様に対して激しく捲し立てているというか、凄い剣幕で怒鳴っていた。

「リュート、落ち着け。」

カールさんが龍斗さんの肩に手を置き、龍斗さんを宥めようとしているが、龍斗さんはそれを勢いよく振り払う。

「あぁ?落ち着けだ!?こんな馬鹿な話しを聞かされて落ち着いてなんていられるかよ!」

龍斗さんが王様に掴みかかろうとして、ダナンさんとカールさんに両脇を押さえ込まれた。

「リュート!!」

「なんでだよ!彩菜がコトネオールに行く話しは昼間に断ったはずだよな?それが何で一緒に行く事になってるんだ!おかしいだろ!?」

えっ!?どういうこと!?

私は自分の顔から血の気が引いたのが分かった。

王様は眉を顰め、苦しげな表情で目を伏せる。

「……テックとパルラの今までの境遇を思えば、希望する人物の1人や2人付き添わせるのは当然の事だと抗議された。2人の願いが叶わないのならば、こちらに非があるとして武力行使も辞さないと……。」

「なんだよそれ……。」

「そんな無茶苦茶なっ!」

ダナンさんとカールさんからも非難の声が上がった。

龍斗さんは、ダナンさんとカールさんに取り押さえられている間も、身を捩って暴れている。

「武力行使でも何でもすればいいじゃねえか!そんな奴ら、叩きのめしてやればいいっ!」

「コトネオールは、我が国より軍事力が遥かに勝っている。そんな事をすれば多くの犠牲を払うことになるだろう。」

「………犠牲?犠牲だと?」

龍斗さんがハハッと馬鹿にしたような笑い声を上げて顔を歪める。

「この国の為に彩菜が犠牲になるのはいいのか?……なあ、アイツが今までどんなに大変だったか、どんな思いをしてきたのか、国王だって知ってんだろ?」

王様は目を伏せたまま、黙って話しを聞いている。
龍斗さんの頬を涙が伝い、ポタポタと床に溢れ落ちた。

「5歳なんて小さい頃に突然親から離れて、全く知らない世界に1人でいたんだぜ。お前達にこの恐怖が分かるか?」

ーーうん。そうだね。怖かった。龍斗さんも怖かったよね。……この思いはきっと、私と龍斗さんにしか分からない。

「言葉も何もかも違うこの世界で、親になってくれる人達と出会って、なんとか必死に生きてきたんだ。……そんな子から、また親を奪うのか?」

涙でグシャグシャの顔を更に歪ませて、龍斗さんは膝から崩れ落ちた。

「頼む……。もう彩菜から親を奪わないでやってくれよ。頼むよ……。」

龍斗さんの泣いて掠れる声に、お母様の泣く声が重なる。
お母様も力無く床に座り込み、手で顔を覆って泣いていた。

「フローラ!」

お父様が駆け寄り、お母様を優しく抱き締める。お父様の目も涙で濡れていた。

「アヤナだけに辛い思いなんてさせないよ。フローラ、家族3人で一緒に行こう。」

「「団長!!」」

ダナンさんとカールさんが顔を青くして叫んだ。

「騎士団はどうするんですか!?」

「私が辞めても、後を任せられる奴は沢山いるだろう。でも、アヤナの父親は私しかいない。誰がなんと言おうとも、アヤナは私とフローラの子だ!」

「団長……。」


それきり、誰も何も話さなくなった。

沈黙が流れ、部屋に重たい空気が立ち込める。



ギギィーー。



ーー私は震える手に力を込めて扉をゆっくりと開けた。
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