神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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離れたくないんです

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「テック様とパルラ様と一緒に、コトネオールに来ていただきたいのです。」

ルイスさんがそう言った瞬間、周りの空気が張り詰めた。
みんな、怖い顔をしてルイスさんを見ている。

「おいおい、コトネオールの宰相さんよ。まだ10歳のガキが、親が一緒でも無いのにそんな遠くに行くわけないじゃねぇか。寝言は寝てから言ってくれよな。」

「……リュート、口が悪いぞ。」

緊張が走る中、龍斗さんがルイスさんにズケズケと物を言い、お父様がそれを窘めた。

龍斗さんは肩を竦めるも、まだ言い足りないようで更に口を開く。

「すみませんね。生憎、俺は貴族じゃないんで。それにまさかとは思うけど、国王もそこの宰相さんの言う事を認めている訳じゃないよなぁ?」

龍斗さんがギロリと王様を睨むと、王様は少し黙った後に小さく頷いた。

「……ああ。」

「それはアヤナ様ご本人に判断していただきましょう。お2人がまだ見ぬ故郷に帰り、その環境に慣れるまでの間でいいのです。どうか、お2人が最も信頼されているアヤナ様も我々に同行し、協力してはいただけないでしょうか。」

龍斗さんが今度は、私にお願いするルイスさんを睨んで鼻で笑った。

「慣れるっていつまでだよ。1年か?2年か?そんなの、そっちの都合だけで全然アヤナの事を考えてないじゃねぇか。おいオッサン、ふざけるのも大概にしとけよ。」

「リュート!」

「なんだよ!」

……ヤバイ。どんどんこの場の雰囲気が悪くなってる。
私がちゃんと答えないと……。

私はリスターから離れてテックとパルラに歩み寄り、2人の手をギュッと握った。

「テック、パルラ、お父さんが見つかって本当に良かったね。」

「アヤナ……。」

私が笑うと、2人は安堵の表情を見せて微笑んだ。

「せっかくの申し出だけど、私は一緒には行けない。私の居場所はここに有るから。2人もコトネオールに帰れば、きっとすぐに自分だけの居場所が見つかるよ。なんたってお父さんがいるんだもん!」

私は2人の手を繋ぎ直し、ジッと目を見つめる。2人が私の言葉を聞いて、落胆していくのが分かった。

けれど、ここで私がちゃんと言わないと。

「テックとパルラと離れるのは寂しいけど、私は行けない。私の居場所は、お父様やお母様、リスターや龍斗さん、そしてみんながいる、この場所だけだから。……だから、ゴメンね。」

私が言うと、パルラは大粒の涙を流し、テックは俯いたまま黙っている。

私は2人の横にいるルイスさんにも頭を下げて謝る。

「ルイスさんもゴメンナサイ。私は一緒には行けません。」

「……そうですか。残念です。」

ルイスさんは私を見つめて何かを考えているみたいだったけれど、それ以上は何も言わなかった。

「これでもう用は済みましたよね?僕達はこれで失礼します。」

リスターは王様が頷いたのを確認してから、私の腰を抱いて足早に謁見の間を後にした。

ーーその時、通りすがりにリスターとテックがスゴイ形相で睨み合っていたのを私は知らない。


帰りの馬車では、みんな思うところがあるのか無言だった。

お父様はラントおじ様と話しがあるとかで城に留まったから、私の隣にはリスターが乗っている。

リスターも、お母様も、龍斗さんも、みんな表情が硬かった。

「 で、でもでも、テックとパルラが王子様とお姫様だなんて、スゴく驚いたね!」

私がワザと明るい声で話せば、リスターがフッと表情を緩めて微笑んだ。

そしてお城からずっと繋ぎっぱなしの手を口まで持ち上げ、私の手の甲にキスを落とす。

「そうだね。……アヤナ、あの時キッパリと断ってくれてありがとう。」

「うん。当たり前だよ。だって、私の居場所はここでしょう?」

だから、そんな不安そうな顔をしないで!ってギュッとリスターの腕にしがみ付いた。

リスターの顔を見上げると、微笑んではいたけれど、眉尻を下げて今にも泣き出しそうな……そんな表情をしていたから……私は思わず自分からリスターの唇にキスをしていた。

「リスター大好き。」

リスターは途端に顔をクシャッと歪めて、今度はリスターから私の唇にキスをする。
私の体を引き寄せて、何度も何度もキスをする。

「はい、そこまで~。」

見かねた龍斗さんに引き剥がされた私は、きっと茹でダコ以上に真っ赤だったと思う。

途中で止められたリスターは不満だったらしくて、頬をプクッと膨らませて口を尖らせている。……あらヤダ、可愛い。

私がアハハと笑うと、みんな笑った。
みんなが笑ってくれている。それが一番幸せ。




ーー私の居場所は、みんなが笑ってくれている、この場所なんです。



テックとパルラにも、そんな居場所が早く見つかるといいな。
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