ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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絵本みたいに

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『急に大きな声を出すでない。驚くではないか』

「痛ーいっ!」

「おい、やめろよ!」


ビックリした様子のフータにまた頭を突かれてメチャクチャ痛い。頭に穴があいたらどうするんだ。
サイラスが心配して頭をペロペロ舐めてくれる。やっぱり優しいなぁ。


「大丈夫か?どうしたんだ大きな声を出して」

「あ、うん。昔ね、読んだ絵本を思い出したの」

『「絵本?」』


サイラスとフータが同時に首を傾げた。
ああ、そっか。この世界では絵本が無いんだっけ?
確か、出会って間もない時にもサイラスに絵本の話しをしたけど、あまりよく分かってなかったもんね。懐かしい。

上手く説明できたかは分からないけど私なりに絵本の何たるかを話すと、フータとサイラスは興味深そうに聞いてくれていた。


「それでね、絵本のお話しの中に好きな人とキスをして魔法とか眠りを解くみたいなのがあったのを思い出したの。サイラスは絵本に出てくる王子様みたいにカッコイイからさ、もしかしたらそれで人間の姿に戻れるかなって」

『成程のう。……面白い。ならば今此処で試すがよい』


ふむふむと頷きながらフータがクチバシをクイッとサイラスに向けた。

いやいや、フータさんよ。私の話をちゃんと聞いてた?


「だから~、キスだって言ってるじゃん。此処でしろって言ったって相手がいないでしょ。サイラスが一旦、獣人国へ戻ってサイラスの婚約者とするしか方法が……」

「此処でする。国へ戻っても婚約者なんていないから」

「へ?婚約者、いないの?…………って、ああっ!もしかして、もう結婚したからお嫁さんってこと?…………そっかぁ…………ん?でも此処でするって…………ああっ!もしかして一緒に来てるの?!うそ~!全然気付かなかった!!早く言ってよね~!…………そっか、そっかぁ」


やっぱりそうだよねぇ……自分で言い出したくせにそれで勝手に傷つくなんて……私ってば、本当、バカだなぁ……。
思った以上にショックを受けている自分がいて、戸惑う。


「ユーカ、ストップ。俺の話しを聞いて」

「え?…………うん」


ショックを受けているのを誤魔化すように喋り続ける私へ待ったをかけるサイラス。
なんだか凄く真剣な眼差しにドキドキする。
サイラスの銀色の瞳は出会ってからずっといつも真っ直ぐに私を見てくれて、どんな私も受け入れてくれた。
それは狼の姿でも変わらなくて。
久しぶりにサイラスに会ってみて思ったのは、やっぱり私はまだサイラスが好きなんだなぁってこと。……まだっていうか、たぶん、ずっと好きなんだと思う。

そんなサイラスにジッと見つめられれば、銀色の瞳に魅了されている私はそれに応えるべくジッと見つめ返すしかないわけで。

私がちょっと落ち着いたのを見計らってサイラスが口を開いた。


「俺には婚約者なんていないし、結婚なんてしていないよ」

「…………うん」

「婚約は、しようと思ってたけど、しなかった。……いや、出来なかったって言った方がいいのかな」


ーーしようと、したんだ……。そう言われてズキンと胸が痛む。


「……そっかぁ……でも、なんで出来なかったの?」

「俺と婚約して欲しいって言う前に、逃げられちゃったから」

「ええっ?!何それ?!何でサイラスから逃げちゃうの?そんなの有り得ないでしょ?!」

「うん、俺も何でか分からないんだ。ずっと好かれてると思ってたから……」


シュン、と耳を垂らして悲しそうなサイラスに、またズキンと胸が痛む。


「サイラスは世界で一番強くて優しくてカッコイイもん。……きっと、ちゃんと婚約して欲しいって言えば、逃げたその人だってOKしてくれるよ」

「本当に?本当にユーカはそう思う?」

「うん……そう思う」


ーーだって、もし私がサイラスにそんなこと言われたら絶対に嬉しいもん。


「そっか……嬉しいよ」


そう言って嬉しそうに目を細めるサイラスを見ているのが辛くて、サッと俯いて目を逸らした。


「ユーカ、こっちを見て?…….俺をちゃんと見て」


少し寂しそうに聞こえるサイラスの声に私が渋々顔を上げると、さっきよりもサイラスとの距離が近くて思わず体がビクッとしてしまった。
私の反応にサイラスが一瞬真顔になったけど、直後に私の顔が真っ赤になったのを見て頬を緩める。


「フフッ、可愛い」

「も、もうっ!近いよサイラス!」


ううっ……ドキドキしてるのがバレるとか、恥ずかし過ぎる。


あわあわとしながら体を後ろに反らせようとしたらサイラスに止められてしまった。


「待ってユーカ!もう俺から逃げないで」

「え……」


動きを止めてサイラスをジッと見つめると、サイラスは満足気に笑んでピシッと姿勢を正す。それにつられて私もピシッと正座をし、サイラスに向き合った。


「じゃあユーカ、改めて言わせてもらうね。いい?」

「え?あ、はい」


やけに真剣なサイラスの口調に戸惑いながらも返事をする。と、サイラスは目を閉じ大きな深呼吸を2回。それから再び綺麗な銀色の瞳に私を映すと、驚きの言葉を口にしたのだった。



「ユーカ、愛してる。俺と結婚してください」



「…………………………はい?」
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