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もう子供じゃないんだから
しおりを挟む結局サイラスはグレイソンさんに付き添われてお風呂へと向かった。
すっごく嫌そうに顔を顰めていたけど自分でしっかり洗えないんだから、しょうがないよね。
「ユーカよ、こちらへ座るのだ」
フータからソファに座るように促されて座ると、腕を組んで難しい顔をしたフータが向いに座った。
「お主は何歳になった?」
「えっと、もうすぐ13歳……かな?」
「そうだ。13歳の女子が成人しておる男と風呂に入るのか?」
「えー?でも昔は毎日一緒に入ってたし……サイラスは今モフモフの狼だし……」
「戯け者。それは昔の話であろうが。それにモフモフな狼なのは一緒に入る理由にならぬわ。お主と一緒に風呂など入れば、サイラスは違う意味で本当のオオカミになってしまいかねぬのだぞ」
「痛っっっ!!」
口を尖らせて答えた私の頭へフータが思い切りチョップしてきた。
容赦ないチョップに、頭を押さえながら涙目でフータを睨んだけれど、逆に鬼の形相でジロリと睨み返されてしまう。
「違う意味のオオカミって何?狼の種類なんて分からないし」
「お主がサイラスに襲われるということだ」
「え?サイラスは人を絶対に襲わないよ!?」
フータってばサイラスをそんな凶暴な人間だと思ってるの!?絶対に違うからね!?
私が真剣に抗議すると今度は大きな溜息を吐かれ残念な子を見るような目を向けられてしまった。
「……お主はもっと危機感を持たねばならぬのう。この様子ではパクッと彼奴に食われてしまうのも時間の問題ぞ?」
「何ふざけた事言ってんだ」
フータに訳のわからないことをブツブツ言われていたら、後ろからドスの効いた声が聞こえてくる。
振り返れば銀色の毛はサラサラになり本来の美しい色を取り戻したサイラスの姿があった。
「サイラス!!」
思わず駆け寄ってサイラスに飛び付くと、そのモフモフの毛並みを堪能するべくサイラスの首に顔を埋めグリグリと押し付ける。
体からは石鹸の良い匂いがしているしモフモフは気持ちいいし……はぁぁ、最高。
「ユーカよ……そういうところだぞ」
「煩いぞフータ。俺はまだ手を出さないからユーカに変なこと言うんじゃねえよ」
「……ほう。まだ、とな?」
私がモフモフを満喫している傍らではサイラスとフータが何やら険悪なムードになっていてビックリ。え?なんで?
「ど、どうしたの?2人とも……あっ!分かった!!お腹空いてるんでしょ?もうすぐ夜ご飯の時間だし、お腹空いちゃってると何かイライラしちゃうよねっ!ねっ!」
「…………そうだね。お腹、空いたかも。久しぶりにユーカと一緒にご飯が食べたいな」
「うん!一緒に食べよう!」
……そう、一緒にって思ってたけど、人間の姿に戻れないサイラスはやっぱりと言うかなんというか、椅子には座れないわけで。勿論、ナイフとフォークも使えないから大きなお肉がのせてある大きなお皿が床にドンと置かれていた。
それにとても不服そうなサイラスだったけど、こればっかりはどうしようも出来ないので、眉間に皺を寄せながらも大人しく床に置かれたお肉をガツガツと食べている。
「お野菜もちゃんと食べてね」
椅子から降りてサイラスに私のサラダを差し出すと、サイラスは表情を柔らかくしてパクリと食べてくれた。
サイラスの私を見つめる優しい眼差しが嬉しくて何度もサラダをサイラスの口に運んでいたら、グレイソンさんに怒られてしまった。
「それはユーカ様の分です。サイラス様にはお肉にしっかりと野菜を混ぜてありますので心配はいりませんよ」
「おぉ!グレイソンさんはやっぱり凄いねー!流石だよ!」
「…………ユーカはソイツと仲が良いの?」
さっきまで機嫌良く私のサラダを食べていた筈なのに、なんでかブスッとしてしまったサイラスにジト目を向けられる。
「ん?グレイソンさんと?うん、仲良しだよ!ここに来てからはグレイソンさんが色々お世話してくれて、とっても助かってるの。優しいし、大好き!」
「ユーカ様にそのように言っていただけるなんて光栄です。私もユーカ様が大好きです」
「えへへ、ありがとう!」
グレイソンさんに大好きって言ってもらえるなんて嬉しいな。そう思ってグレイソンさんと笑い合っていたら、突然視界にさっきよりも不機嫌そうなサイラスがズイッと割り込んできた。
「俺の方がユーカのこと大好きだし。っていうか、これからは俺がユーカの世話するし」
「ほう、その姿でか?」
「ぐっ……」
グレイソンさんを見ながら威嚇するような感じで言うサイラスに、フータがニヤリと笑ってツッコんでいる。
サイラスは何も言い返せなくて悔しそうだけど……でも、なんで本当に人間の姿に戻れないんだろう。
結局、寝る時間になってもサイラスは狼のままで。しょうがないけどサイラスも疲れているだろうし色々考えるのは明日にして今日はもう寝ることにした。……したんだけど……。
『……だからユーカ、そういうところだぞ』
ベッドの上で嬉しそうに尻尾を振っているサイラスと寝る準備をしていたら、不死鳥の姿なのに呆れ顔をしていると分かるフータに大きな溜息を吐かれ、そしてクチバシで頭を突かれた。
「痛っ!痛いよフータ!!」
「おい、やめろ」
私を前足で囲みフータを威嚇するサイラスにもフータは呆れ顔を向ける。
『お主はいつまでその姿のままでおるのだ』
「…………俺だって、戻れるんだったらとっくに戻ってる」
『まだまだ心身共に修行が足りぬようだのう』
やれやれといったように溜息混じりに言うフータをサイラスがジロリと睨んだ。
お?なんだかまた険悪ムードになってない?なんとかしなければ。……でも本当になんでサイラスは元の姿に戻れないのかなぁ……?
「あっ!」
ーーその時、私はふと遠い昔に読んだことのある大好きだった絵本を思い出し、思わず声を上げてしまっていたのだった。
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