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第二章 邪と天然と鬼の温泉地
EP 7
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地下から湧く黒い泥(邪神復活の予兆)
その日の朝、カイト農場は不穏な地響きに包まれていた。
震源地は、地下ダンジョン『始まりの農場迷宮』の最深部。
庭師兼ダンジョンマスターの妖精キュルリンは、いつものようにツルハシ(魔法)を振るっていた。
「えっほ、えっほ! 目指せ地下1000階層!」
彼女は地下665階層を掘り抜き、さらに奥へと進んでいた。
カイトから「地下倉庫を広げておいて」と言われたのを、「もっと深く掘っていいよ!」とポジティブに解釈した結果である。
カキンッ。
ツルハシが、何か異様に硬い岩盤に当たった。
そこには、古びた石碑のようなものがあり、禍々しい鎖で封印されている。
「あれぇ? なにか埋まってる。……邪魔だなぁ」
キュルリンは首を傾げた。
普通なら「触れてはいけない封印」だと気づくところだが、彼女の辞書に「引き返す」という言葉はない。
「えいっ☆ 【地形操作(デリート)】!」
彼女は封印の楔(くさび)ごと、岩盤を消滅させた。
パリーンッ……!
世界を縛っていた「理(ことわり)」の一つが砕け散る音がした。
直後、開いた大穴から、ドロドロとした漆黒の液体が噴き出した。
「わわっ!? 水漏れだぁ!」
キュルリンが慌てて上昇するのと同時に、黒い濁流は凄まじい勢いで階層を駆け上がり、地上へと向かった。
それはただの水ではない。
創世記に封印された邪神デュアダロスの怨念。触れるもの全てを腐らせ、狂わせる「死の泥」だった。
†
地上。
異変を最初に察知したのは、やはり最強の神々だった。
「――ッ!?」
屋台でスープの味見をしていた竜神デュークが、血相を変えて寸胴鍋をひっくり返しそうになった。
洗濯物を干していた不死鳥フレアが、青ざめてシーツを落とした。
昼寝をしていたポチ(始祖竜)が、カッと目を見開き、喉の奥で唸り声を上げた。
「この気配は……まさか!」
「嘘でしょ!? 封印はまだ持つきはずじゃ……!」
彼らは知っている。この、鼻が曲がるような腐臭と、肌にまとわりつく不快な魔力。
数千年前、世界を滅亡の淵に追いやった宿敵の気配だ。
ズドオオオオオオオッ!!!!
納屋(ダンジョン入口)の屋根が吹き飛び、黒い水柱が天高く噴き上がった。
それは雨のように降り注ぎ、農場の一角を黒く染め上げていく。
「グルルァァァ!!(邪神だ! 総員戦闘配置!)」
ポチが咆哮した。
デュークが黄金のブレスを溜め、フレアが炎の翼を広げ、龍魔呂が店から飛び出してきて闘気を練る。
農場は一瞬にして、神話大戦の最終決戦場のような緊張感に包まれた。
「まずいぞ! あの泥に触れたら、精神汚染を受ける!」
「カイト様を守れ! 結界を張るのよ!」
神々がカイトを探して叫んだ、その時。
「うわぁ! なんだこれ、すごい勢いだ!」
カイトは、既に黒い泥の海のど真ん中に立っていた。
彼はタオルを片手に、噴き上がる黒い液体を見上げて目を輝かせている。
「カイト! 離れろ! それは……!」
デュークが制止しようとするが、遅かった。
カイトは屈み込み、その禍々しい黒い泥を、素手ですくい上げたのだ。
ジュッ……。
泥がカイトの手のひらで湯気を立てる。
本来なら、触れた瞬間に腕が腐り落ち、精神が崩壊するはずの猛毒。
だが、カイトは「あちちっ」と言って手を振っただけだった。
「熱っ! ……ん? この匂い……」
カイトは指についた黒い泥を鼻に近づけ、クンクンと嗅いだ。
漂ってくるのは、腐った卵のような強烈な刺激臭。
神々にとっては「死と腐敗の悪臭」だが、現代日本人のカイトにとっては、全く別の記憶を呼び覚ます香りだった。
「独特の硫黄の匂い……。黒く濁ったお湯……。そして、地下深くから湧き出る熱源……」
カイトの中で、点と点が線で繋がった。
「――間違いない!」
カイトはバッと振り返り、呆然とする神々に向かって満面の笑みで叫んだ。
「みんな! すごいぞ! 『温泉』が出た!!」
「……は?」
デューク、フレア、ラスティア、龍魔呂、フェンリル。
世界の頂点に立つ者たちの思考が、同時に停止した。
「お、おんせん……?」
「そうだよ! これ、『黒湯(くろゆ)』だよ! 日本でも珍しい泉質なんだ!」
カイトは興奮気味に説明を始めた。
「この硫黄の匂い! 肌にまとわりつくヌルヌル感! これは美肌効果抜群の証拠だよ! いやあ、まさかウチの地下に源泉があったなんて!」
カイトは再び泥をすくい、自分の腕に塗りたくった。
邪神の呪詛がたっぷり詰まった泥パックである。
「見てよこれ! ポカポカする! 肩こりに効きそうだなぁ!」
「カ、カイト様……? 精神は……大丈夫なのですか?」
フレアが恐る恐る尋ねる。
カイトは「え? 元気だよ?」とピンピンしている。
女神ルチアナから貰ったスキル【絶対飼育】の副作用か、あるいは彼の規格外の適応力か。彼は邪神の呪いを「効能(ポカポカする)」として処理してしまったのだ。
「よーし、決めた!」
カイトは拳を握りしめた。
「ここに『大露天風呂』を作ろう! みんなで仕事の疲れを癒やすんだ!」
その言葉に、地下の邪神(泥)がピクリと反応した気がした。
『我を……風呂にするだと……?』という困惑の波動が伝わってくる。
「さあ、みんな手伝って! まずはこの泥を貯める囲いを作るぞ!」
カイトが鍬を持って走り出す。
取り残された神々は、顔を見合わせた。
「……おい、どうする。あれは邪神の泥だぞ」
「でも、カイトが平気そうだし……」
「それに『美肌効果』って言ってたわよ? ちょっと気になるじゃない」
ラスティアがゴクリと喉を鳴らした。
ポチも「きゅぅ(風呂か。悪くない)」と尻尾を振っている。
こうして、世界を滅ぼす「邪神復活の危機」は、カイトの鶴の一声によって「温泉リゾート開発プロジェクト」へと変更された。
だが、泥はただの温泉ではない。
自我を持った邪神デュアダロスが、黙って風呂にされるはずがなかった。
「おのれ人間め……! 我を舐めるなよ……!」
黒い泥が盛り上がり、巨大な人の顔を形作り始める。
次なる戦いは、邪神VS天然エルフ(お掃除係)。
浄化と入浴の戦いが幕を開ける!
その日の朝、カイト農場は不穏な地響きに包まれていた。
震源地は、地下ダンジョン『始まりの農場迷宮』の最深部。
庭師兼ダンジョンマスターの妖精キュルリンは、いつものようにツルハシ(魔法)を振るっていた。
「えっほ、えっほ! 目指せ地下1000階層!」
彼女は地下665階層を掘り抜き、さらに奥へと進んでいた。
カイトから「地下倉庫を広げておいて」と言われたのを、「もっと深く掘っていいよ!」とポジティブに解釈した結果である。
カキンッ。
ツルハシが、何か異様に硬い岩盤に当たった。
そこには、古びた石碑のようなものがあり、禍々しい鎖で封印されている。
「あれぇ? なにか埋まってる。……邪魔だなぁ」
キュルリンは首を傾げた。
普通なら「触れてはいけない封印」だと気づくところだが、彼女の辞書に「引き返す」という言葉はない。
「えいっ☆ 【地形操作(デリート)】!」
彼女は封印の楔(くさび)ごと、岩盤を消滅させた。
パリーンッ……!
世界を縛っていた「理(ことわり)」の一つが砕け散る音がした。
直後、開いた大穴から、ドロドロとした漆黒の液体が噴き出した。
「わわっ!? 水漏れだぁ!」
キュルリンが慌てて上昇するのと同時に、黒い濁流は凄まじい勢いで階層を駆け上がり、地上へと向かった。
それはただの水ではない。
創世記に封印された邪神デュアダロスの怨念。触れるもの全てを腐らせ、狂わせる「死の泥」だった。
†
地上。
異変を最初に察知したのは、やはり最強の神々だった。
「――ッ!?」
屋台でスープの味見をしていた竜神デュークが、血相を変えて寸胴鍋をひっくり返しそうになった。
洗濯物を干していた不死鳥フレアが、青ざめてシーツを落とした。
昼寝をしていたポチ(始祖竜)が、カッと目を見開き、喉の奥で唸り声を上げた。
「この気配は……まさか!」
「嘘でしょ!? 封印はまだ持つきはずじゃ……!」
彼らは知っている。この、鼻が曲がるような腐臭と、肌にまとわりつく不快な魔力。
数千年前、世界を滅亡の淵に追いやった宿敵の気配だ。
ズドオオオオオオオッ!!!!
納屋(ダンジョン入口)の屋根が吹き飛び、黒い水柱が天高く噴き上がった。
それは雨のように降り注ぎ、農場の一角を黒く染め上げていく。
「グルルァァァ!!(邪神だ! 総員戦闘配置!)」
ポチが咆哮した。
デュークが黄金のブレスを溜め、フレアが炎の翼を広げ、龍魔呂が店から飛び出してきて闘気を練る。
農場は一瞬にして、神話大戦の最終決戦場のような緊張感に包まれた。
「まずいぞ! あの泥に触れたら、精神汚染を受ける!」
「カイト様を守れ! 結界を張るのよ!」
神々がカイトを探して叫んだ、その時。
「うわぁ! なんだこれ、すごい勢いだ!」
カイトは、既に黒い泥の海のど真ん中に立っていた。
彼はタオルを片手に、噴き上がる黒い液体を見上げて目を輝かせている。
「カイト! 離れろ! それは……!」
デュークが制止しようとするが、遅かった。
カイトは屈み込み、その禍々しい黒い泥を、素手ですくい上げたのだ。
ジュッ……。
泥がカイトの手のひらで湯気を立てる。
本来なら、触れた瞬間に腕が腐り落ち、精神が崩壊するはずの猛毒。
だが、カイトは「あちちっ」と言って手を振っただけだった。
「熱っ! ……ん? この匂い……」
カイトは指についた黒い泥を鼻に近づけ、クンクンと嗅いだ。
漂ってくるのは、腐った卵のような強烈な刺激臭。
神々にとっては「死と腐敗の悪臭」だが、現代日本人のカイトにとっては、全く別の記憶を呼び覚ます香りだった。
「独特の硫黄の匂い……。黒く濁ったお湯……。そして、地下深くから湧き出る熱源……」
カイトの中で、点と点が線で繋がった。
「――間違いない!」
カイトはバッと振り返り、呆然とする神々に向かって満面の笑みで叫んだ。
「みんな! すごいぞ! 『温泉』が出た!!」
「……は?」
デューク、フレア、ラスティア、龍魔呂、フェンリル。
世界の頂点に立つ者たちの思考が、同時に停止した。
「お、おんせん……?」
「そうだよ! これ、『黒湯(くろゆ)』だよ! 日本でも珍しい泉質なんだ!」
カイトは興奮気味に説明を始めた。
「この硫黄の匂い! 肌にまとわりつくヌルヌル感! これは美肌効果抜群の証拠だよ! いやあ、まさかウチの地下に源泉があったなんて!」
カイトは再び泥をすくい、自分の腕に塗りたくった。
邪神の呪詛がたっぷり詰まった泥パックである。
「見てよこれ! ポカポカする! 肩こりに効きそうだなぁ!」
「カ、カイト様……? 精神は……大丈夫なのですか?」
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カイトは「え? 元気だよ?」とピンピンしている。
女神ルチアナから貰ったスキル【絶対飼育】の副作用か、あるいは彼の規格外の適応力か。彼は邪神の呪いを「効能(ポカポカする)」として処理してしまったのだ。
「よーし、決めた!」
カイトは拳を握りしめた。
「ここに『大露天風呂』を作ろう! みんなで仕事の疲れを癒やすんだ!」
その言葉に、地下の邪神(泥)がピクリと反応した気がした。
『我を……風呂にするだと……?』という困惑の波動が伝わってくる。
「さあ、みんな手伝って! まずはこの泥を貯める囲いを作るぞ!」
カイトが鍬を持って走り出す。
取り残された神々は、顔を見合わせた。
「……おい、どうする。あれは邪神の泥だぞ」
「でも、カイトが平気そうだし……」
「それに『美肌効果』って言ってたわよ? ちょっと気になるじゃない」
ラスティアがゴクリと喉を鳴らした。
ポチも「きゅぅ(風呂か。悪くない)」と尻尾を振っている。
こうして、世界を滅ぼす「邪神復活の危機」は、カイトの鶴の一声によって「温泉リゾート開発プロジェクト」へと変更された。
だが、泥はただの温泉ではない。
自我を持った邪神デュアダロスが、黙って風呂にされるはずがなかった。
「おのれ人間め……! 我を舐めるなよ……!」
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