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第七章 魔人サルバロス現る
EP 5
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ラスティアの看破
深夜。
カイト農場の南エリアにある、サルバロスの豪華な天幕(サンクチュアリ)。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったその場所に、ヒールの音が鋭く響いた。
カツ、カツ、カツ。
天幕の入り口をくぐったのは、漆黒のドレスを纏った魔王ラスティアだ。
彼女は玉座でワインを揺らしているサルバロスを、ゴミを見るような目で見下ろした。
「……随分とくつろいでいるのね、偽救世主さん」
「おや、こんな夜更けに魔王様が何の用だい? 私に愛の告白でも?」
サルバロスは薄ら笑いを浮かべてグラスを掲げた。
ラスティアは鼻で笑い、一枚の羊皮紙を投げつけた。
バサッ。
それは、ルーベンスの情報網と、ラスティアの古い記憶から復元された「手配書」だった。
そこには、角の生えた悪魔の姿と、数々の滅びた国の名前が記されている。
「魔人サルバロス。……『劇作家』の異名を持つ、魔界でも指折りの変質者」
ラスティアが冷酷に告げる。
「貴方の手口はいつも同じ。弱った国に入り込み、圧倒的な力で復興させ、民衆を依存させる。そして……最も幸せな瞬間に全てを消し去り、絶望する顔を見て楽しむ」
「…………」
「サンドリア国もそうやって滅ぼしたのよね? ……もう芝居は終わりよ。ここから出ていきなさい」
ラスティアの全身から、紫色の魔力が立ち昇る。
重力が歪み、天幕の支柱がミシミシと悲鳴を上げた。
魔王の威圧。並の魔族なら失神するプレッシャーだ。
しかし。
サルバロスは、クツクツと肩を揺らして笑い出した。
「クク……ハハハハハッ!」
彼は顔を覆っていた手を離した。
その表情からは、慈愛に満ちた勇者の面影は消え失せ、歪んだ恍惚の笑みが張り付いていた。
「バレちゃったかぁ。いやぁ、さすがは『災厄の魔女』。情報通だねぇ」
彼は悪びれもせず、グラスの中身を一気に飲み干した。
「そうさ。俺はヒーローごっこがしたいだけ。……だって面白いじゃないか? ゴミのような人間どもが、俺にすがりつき、涙を流して感謝する。その顔が、一瞬で絶望に染まる瞬間ときたら……最高の酒の肴だよぉw」
「下衆が……!」
ラスティアが右手を突き出す。
『重力圧殺(グラビティ・プレス)』。
目に見えない巨大な力が、サルバロスを押し潰そうと殺到する。
だが、サルバロスは動かなかった。
ただ、パチンと指を鳴らしただけだ。
ザッ、ザッ、ザッ!!
「なっ……!?」
ラスティアは慌てて術を解除した。
サルバロスの前に、壁となって立ちはだかった者たちがいたからだ。
「……サルバロス様ヲ、守ルンダ……」
「……救世主様ニ、指一本触レサセナイ……」
それは、農場に来ていた難民たちだった。
彼らの目は虚ろで、焦点が合っていない。サルバロスの魔力混じりの食料によって、思考を支配されているのだ。
「オイオイ、危ないなぁ魔王様。俺は『民衆に愛されるヒーロー』なんだぜ?」
サルバロスは、震える老婆の肩に手を置き、その背後に隠れながらニヤニヤと笑った。
「彼らは俺を愛している。俺のためなら死ねると言っている。……そんな彼らを、まさか殺すつもりかい?」
「っ……卑怯な!」
ラスティアが歯噛みする。
彼女自身なら、躊躇なく吹き飛ばしていたかもしれない。
だが、ここはカイト農場だ。
カイトが守ろうとした人々を、自分の手で殺すわけにはいかない。
「ハハハ! 動けないか? 優しいねぇ! 魔王なのに人間ごときに情が移ったか?」
サルバロスは老婆を盾にしたまま、勝ち誇ったように腕を広げた。
「手出しは無用だ。もし俺を攻撃すれば、こいつらが代わりに死ぬ。俺の魔法を解こうとしても、そのショックでこいつらの脳は焼き切れる」
完璧な人質。
そして、完璧な膠着状態。
「……覚えておきなさい」
ラスティアはギリギリと拳を握りしめ、踵(きびす)を返した。
「カイトを……そしてウチの『料理人(龍魔呂)』を本気で怒らせたら、楽には死ねないわよ」
「ハッ! 農夫とコックに何ができる! せいぜい特等席で見ていろ、この楽園の終焉をな!」
サルバロスの高笑いが夜空に響く。
ラスティアは悔しさを噛み殺しながら撤退した。
正攻法では勝てない。
この悪意の塊をどうにかするには、彼以上の「恐怖」が必要だ。
そして翌日。
サルバロスはついに、全住人の前でその本性を曝け出す。
深夜。
カイト農場の南エリアにある、サルバロスの豪華な天幕(サンクチュアリ)。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったその場所に、ヒールの音が鋭く響いた。
カツ、カツ、カツ。
天幕の入り口をくぐったのは、漆黒のドレスを纏った魔王ラスティアだ。
彼女は玉座でワインを揺らしているサルバロスを、ゴミを見るような目で見下ろした。
「……随分とくつろいでいるのね、偽救世主さん」
「おや、こんな夜更けに魔王様が何の用だい? 私に愛の告白でも?」
サルバロスは薄ら笑いを浮かべてグラスを掲げた。
ラスティアは鼻で笑い、一枚の羊皮紙を投げつけた。
バサッ。
それは、ルーベンスの情報網と、ラスティアの古い記憶から復元された「手配書」だった。
そこには、角の生えた悪魔の姿と、数々の滅びた国の名前が記されている。
「魔人サルバロス。……『劇作家』の異名を持つ、魔界でも指折りの変質者」
ラスティアが冷酷に告げる。
「貴方の手口はいつも同じ。弱った国に入り込み、圧倒的な力で復興させ、民衆を依存させる。そして……最も幸せな瞬間に全てを消し去り、絶望する顔を見て楽しむ」
「…………」
「サンドリア国もそうやって滅ぼしたのよね? ……もう芝居は終わりよ。ここから出ていきなさい」
ラスティアの全身から、紫色の魔力が立ち昇る。
重力が歪み、天幕の支柱がミシミシと悲鳴を上げた。
魔王の威圧。並の魔族なら失神するプレッシャーだ。
しかし。
サルバロスは、クツクツと肩を揺らして笑い出した。
「クク……ハハハハハッ!」
彼は顔を覆っていた手を離した。
その表情からは、慈愛に満ちた勇者の面影は消え失せ、歪んだ恍惚の笑みが張り付いていた。
「バレちゃったかぁ。いやぁ、さすがは『災厄の魔女』。情報通だねぇ」
彼は悪びれもせず、グラスの中身を一気に飲み干した。
「そうさ。俺はヒーローごっこがしたいだけ。……だって面白いじゃないか? ゴミのような人間どもが、俺にすがりつき、涙を流して感謝する。その顔が、一瞬で絶望に染まる瞬間ときたら……最高の酒の肴だよぉw」
「下衆が……!」
ラスティアが右手を突き出す。
『重力圧殺(グラビティ・プレス)』。
目に見えない巨大な力が、サルバロスを押し潰そうと殺到する。
だが、サルバロスは動かなかった。
ただ、パチンと指を鳴らしただけだ。
ザッ、ザッ、ザッ!!
「なっ……!?」
ラスティアは慌てて術を解除した。
サルバロスの前に、壁となって立ちはだかった者たちがいたからだ。
「……サルバロス様ヲ、守ルンダ……」
「……救世主様ニ、指一本触レサセナイ……」
それは、農場に来ていた難民たちだった。
彼らの目は虚ろで、焦点が合っていない。サルバロスの魔力混じりの食料によって、思考を支配されているのだ。
「オイオイ、危ないなぁ魔王様。俺は『民衆に愛されるヒーロー』なんだぜ?」
サルバロスは、震える老婆の肩に手を置き、その背後に隠れながらニヤニヤと笑った。
「彼らは俺を愛している。俺のためなら死ねると言っている。……そんな彼らを、まさか殺すつもりかい?」
「っ……卑怯な!」
ラスティアが歯噛みする。
彼女自身なら、躊躇なく吹き飛ばしていたかもしれない。
だが、ここはカイト農場だ。
カイトが守ろうとした人々を、自分の手で殺すわけにはいかない。
「ハハハ! 動けないか? 優しいねぇ! 魔王なのに人間ごときに情が移ったか?」
サルバロスは老婆を盾にしたまま、勝ち誇ったように腕を広げた。
「手出しは無用だ。もし俺を攻撃すれば、こいつらが代わりに死ぬ。俺の魔法を解こうとしても、そのショックでこいつらの脳は焼き切れる」
完璧な人質。
そして、完璧な膠着状態。
「……覚えておきなさい」
ラスティアはギリギリと拳を握りしめ、踵(きびす)を返した。
「カイトを……そしてウチの『料理人(龍魔呂)』を本気で怒らせたら、楽には死ねないわよ」
「ハッ! 農夫とコックに何ができる! せいぜい特等席で見ていろ、この楽園の終焉をな!」
サルバロスの高笑いが夜空に響く。
ラスティアは悔しさを噛み殺しながら撤退した。
正攻法では勝てない。
この悪意の塊をどうにかするには、彼以上の「恐怖」が必要だ。
そして翌日。
サルバロスはついに、全住人の前でその本性を曝け出す。
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