173 / 180
第十七章 金塊、、そしてヤニ、、海鮮鍋へ
EP 3
しおりを挟む
借金アイドル・リーザと、小遣い制勇者・リュウの悲しき同盟
深夜の農場。
草木も眠る丑三つ時、納屋の裏手に二つの影が蠢いていた。
一人は、ボロボロのジャージを着たアイドル、リーザ。
もう一人は、疲れ切った顔の勇者、リュウ。
「……リュウさん。状況確認を」
「ああ。妻(セーラ)の財布の紐は、ミスリルの鎖より硬い。今月の俺の小遣いは……ゼロだ」
リュウが震える手でタバコの空箱『メビウス』を握り潰した。
「パチンコはおろか、明日の一服すらままならない。かつて魔神王を倒したこの俺が、だぞ?」
「奇遇ね。私もよ。今月の家賃とボイトレ代、それに新衣装のローン……計算したら、あと銅貨3枚しか残らないわ」
リーザが虚ろな目で遠くを見る。
「このままじゃ、私はアイドルじゃなくて『歌うホームレス』よ。……やるしかないわね」
「ああ。ターゲットは、あの漬物石(数億円)だ」
二人の利害は完全に一致していた。
カイトの漬物石を奪取し、換金し、山分けする。
これは犯罪ではない。世直し(と自己救済)である。
「作戦名は『オペレーション・ローリング・ストーン』。行くぞ」
◇ ◇ ◇
二人は匍匐(ほふく)前進で納屋へと接近する。
BGMは脳内で再生されるスパイ映画のテーマ曲(※口で「ダダン、ダ、ダダン♪」と言っている)。
納屋の前まで到達したリュウが、懐から「何か」を取り出した。
「見ろ、リーザ。俺のユニークスキル【ウェポンズマスター】の無駄遣いだ」
リュウが差し出したのは、カイトの金塊とサイズも形状も瓜二つの「ただの石」だった。
表面には金色のペンキが塗られ、暗闇では見分けがつかないほどの完成度だ。
「す、すごぉい! さすが器用貧乏!」
「褒め言葉として受け取っておく。……俺の亜空間収納を使えば、一瞬で『本物』と『偽物』を入れ替えられる。カイトが気づく頃には、俺たちは換金所(ゴルド商会)で祝杯をあげているはずだ」
「完璧ね! さあ、やりましょ!」
勝利を確信した二人は、漬物樽へと忍び寄る。
樽の上には、月明かりを浴びて鈍く光る黄金の塊。
手が届く距離まであと数メートル。
だが。
彼らの前には、世界最強のセキュリティシステムが設置されていた。
「……くぅ~ん……むにゃむにゃ……」
樽の横で、気持ちよさそうに腹を出して眠る犬が一匹。
カイトの愛犬ポチこと、始祖竜(幼体)である。
「ひっ……! ポ、ポチがいるわよ!?」
「しっ! 声がデカい! ……大丈夫だ、あいつは一度寝たら起きない。カイト譲りの図太い神経をしてる」
リュウは冷や汗を拭いながら、慎重に、慎重に足を運ぶ。
ポチの寝息に合わせて動く、プロの所作だ。
ズリッ……ズリッ……。
樽の前へ到着。
ポチとの距離、わずか30センチ。
(よし……今だ!)
リュウがスキルを発動しようと手をかざす。
リーザが唾を飲み込む。
数億円が、手に入る。
その瞬間。
「……肉ぅ……」
ポチが寝言を漏らした。
「!?」
「……骨付き肉ぅ……よこせぇ……!!」
ドクンッ。
ポチの体から、尋常ではない魔力が溢れ出した。
夢の中で獲物を追っているのだろうか。可愛らしい口元がカッと開き、その奥で極小の、しかし圧縮されたエネルギーが輝く。
「ま、まずい! 退避ッ!!」
「いやぁぁぁぁ!!」
リュウがリーザの首根っこを掴んで横に飛んだ、コンマ1秒後。
ズドォォォォォンッ!!
ポチの口から放たれた「寝言ブレス(水爆級)」が、二人がいた空間を焼き尽くし、納屋の壁を貫通して夜空へと消えていった。
農場全体が昼間のように明るくなり、衝撃波でビニールハウスが揺れる。
◇ ◇ ◇
「……けほっ、けほっ」
黒煙が立ち込める中。
アフロヘアーのようにチリチリに焼けたリュウとリーザが、煤(すす)だらけの顔で体を起こした。
「……死ぬかと思った……」
「私の……自慢の鱗(肌)が……焼き魚になっちゃう……」
命からがら回避したものの、作戦は完全なる失敗。
騒ぎを聞きつけた足音が、母屋の方から近づいてくる。
「こらーっ! 誰だ夜中に花火なんかしてるのは!」
カイトの声だ。
それに続いて、さらに恐ろしい声が響く。
「リュウ? ……あなた、こんな夜中に何をしてるのかしら?」
背筋が凍るような冷たい声。
仁王立ちする妻、セーラだった。
彼女の手には「お仕置き用のハリセン」が握られている。
「あ、いや、セーラ、これは……その、夜の散歩というか……」
「散歩で消し炭になる馬鹿がどこにいるの! 今月のお小遣い、さらに50%カットです!!」
「そ、そんなぁぁぁ!!」
絶望するリュウ。
そして、その横でリーザもまた、カイトに捕獲されていた。
「リーザちゃんも怪我はない? ……あ、そうだ。壊れた納屋の壁の修理代、リーザちゃんのツケにしておくね」
「いやぁぁぁぁ! 借金が増えたぁぁぁ!!」
夜空に二人の悲鳴が木霊する。
その騒ぎの中心で、ポチだけが「……むにゃ? お肉焼けた?」と呑気に欠伸をするのだった。
金塊への道は、あまりにも遠く、険しい。
深夜の農場。
草木も眠る丑三つ時、納屋の裏手に二つの影が蠢いていた。
一人は、ボロボロのジャージを着たアイドル、リーザ。
もう一人は、疲れ切った顔の勇者、リュウ。
「……リュウさん。状況確認を」
「ああ。妻(セーラ)の財布の紐は、ミスリルの鎖より硬い。今月の俺の小遣いは……ゼロだ」
リュウが震える手でタバコの空箱『メビウス』を握り潰した。
「パチンコはおろか、明日の一服すらままならない。かつて魔神王を倒したこの俺が、だぞ?」
「奇遇ね。私もよ。今月の家賃とボイトレ代、それに新衣装のローン……計算したら、あと銅貨3枚しか残らないわ」
リーザが虚ろな目で遠くを見る。
「このままじゃ、私はアイドルじゃなくて『歌うホームレス』よ。……やるしかないわね」
「ああ。ターゲットは、あの漬物石(数億円)だ」
二人の利害は完全に一致していた。
カイトの漬物石を奪取し、換金し、山分けする。
これは犯罪ではない。世直し(と自己救済)である。
「作戦名は『オペレーション・ローリング・ストーン』。行くぞ」
◇ ◇ ◇
二人は匍匐(ほふく)前進で納屋へと接近する。
BGMは脳内で再生されるスパイ映画のテーマ曲(※口で「ダダン、ダ、ダダン♪」と言っている)。
納屋の前まで到達したリュウが、懐から「何か」を取り出した。
「見ろ、リーザ。俺のユニークスキル【ウェポンズマスター】の無駄遣いだ」
リュウが差し出したのは、カイトの金塊とサイズも形状も瓜二つの「ただの石」だった。
表面には金色のペンキが塗られ、暗闇では見分けがつかないほどの完成度だ。
「す、すごぉい! さすが器用貧乏!」
「褒め言葉として受け取っておく。……俺の亜空間収納を使えば、一瞬で『本物』と『偽物』を入れ替えられる。カイトが気づく頃には、俺たちは換金所(ゴルド商会)で祝杯をあげているはずだ」
「完璧ね! さあ、やりましょ!」
勝利を確信した二人は、漬物樽へと忍び寄る。
樽の上には、月明かりを浴びて鈍く光る黄金の塊。
手が届く距離まであと数メートル。
だが。
彼らの前には、世界最強のセキュリティシステムが設置されていた。
「……くぅ~ん……むにゃむにゃ……」
樽の横で、気持ちよさそうに腹を出して眠る犬が一匹。
カイトの愛犬ポチこと、始祖竜(幼体)である。
「ひっ……! ポ、ポチがいるわよ!?」
「しっ! 声がデカい! ……大丈夫だ、あいつは一度寝たら起きない。カイト譲りの図太い神経をしてる」
リュウは冷や汗を拭いながら、慎重に、慎重に足を運ぶ。
ポチの寝息に合わせて動く、プロの所作だ。
ズリッ……ズリッ……。
樽の前へ到着。
ポチとの距離、わずか30センチ。
(よし……今だ!)
リュウがスキルを発動しようと手をかざす。
リーザが唾を飲み込む。
数億円が、手に入る。
その瞬間。
「……肉ぅ……」
ポチが寝言を漏らした。
「!?」
「……骨付き肉ぅ……よこせぇ……!!」
ドクンッ。
ポチの体から、尋常ではない魔力が溢れ出した。
夢の中で獲物を追っているのだろうか。可愛らしい口元がカッと開き、その奥で極小の、しかし圧縮されたエネルギーが輝く。
「ま、まずい! 退避ッ!!」
「いやぁぁぁぁ!!」
リュウがリーザの首根っこを掴んで横に飛んだ、コンマ1秒後。
ズドォォォォォンッ!!
ポチの口から放たれた「寝言ブレス(水爆級)」が、二人がいた空間を焼き尽くし、納屋の壁を貫通して夜空へと消えていった。
農場全体が昼間のように明るくなり、衝撃波でビニールハウスが揺れる。
◇ ◇ ◇
「……けほっ、けほっ」
黒煙が立ち込める中。
アフロヘアーのようにチリチリに焼けたリュウとリーザが、煤(すす)だらけの顔で体を起こした。
「……死ぬかと思った……」
「私の……自慢の鱗(肌)が……焼き魚になっちゃう……」
命からがら回避したものの、作戦は完全なる失敗。
騒ぎを聞きつけた足音が、母屋の方から近づいてくる。
「こらーっ! 誰だ夜中に花火なんかしてるのは!」
カイトの声だ。
それに続いて、さらに恐ろしい声が響く。
「リュウ? ……あなた、こんな夜中に何をしてるのかしら?」
背筋が凍るような冷たい声。
仁王立ちする妻、セーラだった。
彼女の手には「お仕置き用のハリセン」が握られている。
「あ、いや、セーラ、これは……その、夜の散歩というか……」
「散歩で消し炭になる馬鹿がどこにいるの! 今月のお小遣い、さらに50%カットです!!」
「そ、そんなぁぁぁ!!」
絶望するリュウ。
そして、その横でリーザもまた、カイトに捕獲されていた。
「リーザちゃんも怪我はない? ……あ、そうだ。壊れた納屋の壁の修理代、リーザちゃんのツケにしておくね」
「いやぁぁぁぁ! 借金が増えたぁぁぁ!!」
夜空に二人の悲鳴が木霊する。
その騒ぎの中心で、ポチだけが「……むにゃ? お肉焼けた?」と呑気に欠伸をするのだった。
金塊への道は、あまりにも遠く、険しい。
11
あなたにおすすめの小説
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
追放されたけど気づいたら最強になってました~無自覚チートで成り上がる異世界自由旅~
eringi
ファンタジー
勇者パーティーから「役立たず」と追放された青年アルト。
行くあてもなく森で倒れていた彼は、実は“失われし最古の加護”を持つ唯一の存在だった。
無自覚のまま魔王を倒し、国を救い、人々を惹きつけていくアルト。
彼が気づかないうちに、世界は彼中心に回り始める——。
ざまぁ、勘違い、最強無自覚、チート成り上がり要素満載の異世界ファンタジー!
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
最弱職〈祈祷士〉だった俺、実は神々の加護持ちでした~追放されたけど無自覚チートで世界最強~
eringi
ファンタジー
パーティから「役立たず」と言われ追放された祈祷士ルーク。だが彼の祈りは神々に届いており、あらゆる奇跡を現実にする「神の権能」だった。本人は気づかぬまま無双し、救った相手や元パーティの女性たちから次々想いを寄せられる。裏切った者たちへの“ざまぁ”も、神の御業のうちに。無自覚チート祈祷士が、神々さえも動かす伝説を紡ぐ──!
転生辺境の雑用兵、知らぬ間に世界最強になっていた件 〜追放されたけど美女たちに囲まれて安寧生活〜
eringi
ファンタジー
辺境軍の雑用兵として転生した青年・レオン。異世界に転生したのに、剣も魔法も地味でパッとしない日々。ところが彼の“地味な努力”が、実は世界の理をゆるがすほどの能力だと気づく者が次々と現れる。貴族令嬢、魔族の姫、神官少女──気づけばハーレム状態に。追放された元仲間が破滅していく流れの中、本人だけは「俺、そんな強いかな?」と首をかしげる。無自覚最強×ざまぁ×追放後スローライフ×英雄伝説が交錯する、異世界逆転ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる