【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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一章 田舎育ちの令嬢

19.茶色

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 ディランがエミリーの練習する様子を眺めていると、シャーロットが「そういえば……」と話しかけてくる。

「わたくし、思い出したのよ」

「何を?」

「エミリーを注意するのに森を選んだ理由よ」

 ディランが身体検査をした日にシャーロットに聞いた内容だ。シャーロットが、この森に来ることなどなかったので、あの日の行動は不自然だった。

「それで? なんでだったの?」

「前にチャーリー様に言われてのよ。自分がいない日に重要な事をするなら、この森を使うと良いって……どこかで頭に残っていたのね」

 ディランはその言葉に頭を抱えた。チャーリーが理由もなくそんな事を言うはずがない。

「それって、いつ言われたか覚えてる?」

「うーん、入学する少し前だったと思うわ。学院に通うのに不安があると言ったら、自分がいるから心配ないと仰ってくださって……」

「いないときには、この森でと言われたわけだね」

「ええ、そうよ」

 シャーロットが通学に不安を感じていたことにも驚くが、チャーリーの意味深すぎる言葉には驚愕する。明らかにディランが森に普段からいることを把握していて、シャーロットを助けさせるつもりだったとしか思えない。

(いつから、この場所がバレていたんだろう?)
 
 唯一の逃げ場が消えた事を知って、ディランは落ち込む。いや、元から逃げ場になっていなかったのかもしれない。

「ディラン殿下、大丈夫ですか?」
 
 エミリーの可愛らしい瞳が4つ、ディランを心配そうに見ている。可愛さも2倍だ。ディランは心の癒やしを求めて、一旦チャーリーを忘れることにした。

「大丈夫だよ。それより、上手くなってきたね」
 
「はい、ありがとうございます」

 本物のエミリーがニッコリと笑う。

 盲点だったのは、自分の姿を想像するのが難しいということだ。誰を参考にしたのかは敢えて言わないが、エミリー本人より幻影のほうが自信たっぷりに座っている。

「同時に結界も張られるから、僕とエミリーしか幻影に近づけないし、インク壺に触れないんだ」

 その他、インク壺を遠ざけると幻影が消えてしまうなど、細かい注意をエミリーに伝えて、インク壺に関しての話を終えた。シャーロットは自分には使えないと知って、心做しか残念がっているようだった。

「こっちも開けていいですか?」

「うん、こっちはイヤリング型の隠蔽魔道具だよ」

 エミリーは宝石店のラッピングを恐る恐る開けている。雑貨屋のラッピングより明らかに高級品だと分かるので、緊張しているのかもしれない。

「耳に付けてから、どちらか片耳の石を触るとエミリーの姿を消すことができるんだ。両耳の石を同時に触れると隠蔽が解除される。こっちは単純だから練習はいらないかな」

 エミリーはイヤリングを取り出すとポーチから鏡を取り出して、その場で付ける。イヤリングを揺らして嬉しそうな顔をしたので、こちらも気に入ってくれたようでホッとする。

「ディラン、この色って……」

「エミリーの好きなチョコレート色にしようと思ったんだけど、魔道具にする過程で、ちょっと薄い茶色になっちゃったんだ。ごめんね」

 シャーロットがディランの瞳を見ているのを感じて、ディランはシャーロットの言葉を遮る。ディランの瞳の色に似ているのは、魔力による不可抗力なのだが、なんとなく後ろめたい。

「隠蔽するときだけ、つければいいから、普段はポケットにでも入れておいてよ」

 シャーロットの疑うような視線に嫌な汗が流れる。その色に深い意味は……今のところない。

「いえ、私の一番好きな色です。ディラン殿下、ありがとうございます。あの……ずっと、つけていてもいいですか?」
 
「う、うん。その方がすぐに発動できるからいいと思うよ」

 エミリーは嬉しそうにイヤリングをつけて、シャーロットに見せている。エミリーに他意はないのだろうが、ディランは自分の色をつけて喜んでいるエミリーを直視し続けることができず、俯いて顔を赤くした。
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