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一章 田舎育ちの令嬢
20.消された歴史
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次の休日、ディランは王宮の書庫に来ていた。王宮に勤める者も閲覧できる一般書庫を抜け、普段は鍵が掛かっている立入禁止のエリアを一人で進む。階段を下り、いくつかの結界を通った感覚があったあと、何もなかった通路の先に扉が一つ姿を現した。たぶん、ボードゥアンの研究施設と同じような原理なのだろう。
ディランは扉の前に着くと、王太子に借りた木箱を開けて中の鍵を取り出す。色とりどりの宝石がついているところをみると、この鍵もかなりたくさんの魔法が施されていることが分かる。
「現王太子の第2王子、ディラン・シクノチェスと申します。王太子の許可を得て入室させていただきます」
ディランは扉に挨拶をする。普通の扉相手なら可笑しな人間だが、魔法の施された扉に必要な呪文のようなものだ。
ディランが鍵穴に鍵を差し込むと魔法がいくつも発動したのを感じ、禁書室の扉が勝手に開いた。部屋からは古い本の独特の匂いがしてくる。ディランは、恐る恐る扉を潜った。
(思った以上に本の数が多いな)
部屋の中はどこを見ても、びっしりと古い本が並んでいる。ディランはたくさんの知識に囲まれて幸せな気持ちになるが、この部屋にある本は安全なものばかりではない。
ディランが読むに適さないと判断されれば、いつ敵意を向けてくるか分からないのだ。ディランは魔道士なので簡単に入室許可が下りたが、チャーリーだったら、数人がかりで保護魔法をかけた上で、医師に健康を確かめられてからの入室となっただろう。
ディランは気を引き締め直して、薄暗い部屋を進む。まずは、王太子に教えてもらった本を読んでから動くつもりだ。そびえ立つように並ぶ本棚の間を歩いて目的の棚を探した。
(えっと……11番目の棚の……あった!)
目的の棚には、ディランにも馴染みのある『10年史』が並んでいた。『10年史』とは文字通り、10年間に起こった出来事や犯罪などを一冊にまとめた本だ。10年ごとに王宮の文官たちによって同じ物が3冊作られ、神殿と国立図書館と王宮書庫に一冊ずつ納められる。
ディランも王宮の一般書庫に並んでいるものを開いたことがあるが、古い時代のものは失われて歯抜けのようになっていた。どうやら、失われたと言われている本は、3冊とも禁書として保管されているようだ。
(消された歴史ってことだよね)
ディランは微妙な気持ちになりながら手袋をつけた。王太子に教えられた約300年ほど前の一冊を引き抜く。本から攻撃される可能性も考えたが、意外にもあっさりと手に取ることができた。
ディランは詰めていた息を吐き出し、近くにあった椅子を引き寄せて座る。本を慎重に開いて、最初のページにまとめられている目次代わりの年表を確認した。
(あった! これだな)
『ヴァランティーヌ・シクノチェス 魅了罪により処刑』
(処刑……か)
王太子はエミリーの話を聞いて、迷わずこの件を持ち出した。そのことから考えて、処刑されたヴァランティーヌ・シクノチェスもエミリーと同じ状況だったのだろう。シクノチェスということは、少なくとも王籍を持っていた人物ということだ。その人物でさえ、処刑されたということは伯爵令嬢のエミリーならどういう扱いを受けるのか……
どうやら、ディランは覚悟を持って調べなければなれないようだ。
ディランは扉の前に着くと、王太子に借りた木箱を開けて中の鍵を取り出す。色とりどりの宝石がついているところをみると、この鍵もかなりたくさんの魔法が施されていることが分かる。
「現王太子の第2王子、ディラン・シクノチェスと申します。王太子の許可を得て入室させていただきます」
ディランは扉に挨拶をする。普通の扉相手なら可笑しな人間だが、魔法の施された扉に必要な呪文のようなものだ。
ディランが鍵穴に鍵を差し込むと魔法がいくつも発動したのを感じ、禁書室の扉が勝手に開いた。部屋からは古い本の独特の匂いがしてくる。ディランは、恐る恐る扉を潜った。
(思った以上に本の数が多いな)
部屋の中はどこを見ても、びっしりと古い本が並んでいる。ディランはたくさんの知識に囲まれて幸せな気持ちになるが、この部屋にある本は安全なものばかりではない。
ディランが読むに適さないと判断されれば、いつ敵意を向けてくるか分からないのだ。ディランは魔道士なので簡単に入室許可が下りたが、チャーリーだったら、数人がかりで保護魔法をかけた上で、医師に健康を確かめられてからの入室となっただろう。
ディランは気を引き締め直して、薄暗い部屋を進む。まずは、王太子に教えてもらった本を読んでから動くつもりだ。そびえ立つように並ぶ本棚の間を歩いて目的の棚を探した。
(えっと……11番目の棚の……あった!)
目的の棚には、ディランにも馴染みのある『10年史』が並んでいた。『10年史』とは文字通り、10年間に起こった出来事や犯罪などを一冊にまとめた本だ。10年ごとに王宮の文官たちによって同じ物が3冊作られ、神殿と国立図書館と王宮書庫に一冊ずつ納められる。
ディランも王宮の一般書庫に並んでいるものを開いたことがあるが、古い時代のものは失われて歯抜けのようになっていた。どうやら、失われたと言われている本は、3冊とも禁書として保管されているようだ。
(消された歴史ってことだよね)
ディランは微妙な気持ちになりながら手袋をつけた。王太子に教えられた約300年ほど前の一冊を引き抜く。本から攻撃される可能性も考えたが、意外にもあっさりと手に取ることができた。
ディランは詰めていた息を吐き出し、近くにあった椅子を引き寄せて座る。本を慎重に開いて、最初のページにまとめられている目次代わりの年表を確認した。
(あった! これだな)
『ヴァランティーヌ・シクノチェス 魅了罪により処刑』
(処刑……か)
王太子はエミリーの話を聞いて、迷わずこの件を持ち出した。そのことから考えて、処刑されたヴァランティーヌ・シクノチェスもエミリーと同じ状況だったのだろう。シクノチェスということは、少なくとも王籍を持っていた人物ということだ。その人物でさえ、処刑されたということは伯爵令嬢のエミリーならどういう扱いを受けるのか……
どうやら、ディランは覚悟を持って調べなければなれないようだ。
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