【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

文字の大きさ
18 / 115
一章 田舎育ちの令嬢

18.昼休み

しおりを挟む
 翌日、ディランは、なんとか遅刻せずに学院に行き午前中をやり過ごした。

 昼食を食べて、森の中の涼しい木陰にいるとウトウトしてきてしまう。昨晩も睡眠は取った筈なのに、魔力を2日連続で大量に使用したせいか、とにかく眠い。午前中の授業で王族としての品位を守れたことは奇跡に近い。

「ちょっと、ディラン。仮にも王子様なのだから、外でだらしなく寝るのはよしなさい!」

「うーん、分かってるよ」

 ディランがシャーロットのうるさい声に顔を上げると、エミリーと2人でディランの顔を覗き込むように見ていた。ゆっくり食事をしていた2人を静かに待っていたのに、その言い草はないと思う。

「ディラン殿下、お疲れですか?」

「大丈夫だよ。ありがとう、エミリー。食べ終わったなら、話を始めようか」

 エミリーの優しさが心に沁みる。今日、この場にいるのは3人だけだ。休日に作った魔道具について話すので、シャーロットの友人たちには遠慮してもらった。どこまでを彼女たちに話すかは、シャーロットとエミリーに任せようと考えている。

「じゃあ、これね。僕からのプレゼントだと思って受け取って」

 ディランからすると安価なものだが、エミリーが気にするといけないので、そんなふうに言って小さな箱を2つ手渡す。きれいなリボンまでついているのは、それぞれのお店の人達の気遣いだ。魔道具製作に使うと言ったのに、『女性へのプレゼントでしたら……』とニコニコしながらラッピングしてくれた。

 そのせいで、ディランはお店の人と同じように包み直すのにかなり苦労したのだが、エミリーが嬉しそうに受け取っているので良しとしよう。

「開けてもいいですか?」

「うん、ただの魔道具だから期待しないでね」

 エミリーはワクワクした様子でリボンをといている。ディランは期待に満ちた表情が曇らないか心配したが、エミリーは嬉しそうにインク壺を取り出した。

「きれい……」 

「インク壺ね」

 シャーロットがエミリーの手元を覗き込んでいる。シャーロットの反応も上々だ。これなら、エミリーの机の上に置いてあっても問題ないだろう。

「魔道具にした関係で見た目ほどは入らないけど、インク壺としても使えるよ。蓋をしっかり閉めた状態で3回机に底を打ち付けてくれる?」

「こうですか?」

 コンコンコン 
 
 エミリーがインク壺で机を3回たたくと、そばにエミリーがもう一人現れる。制服を着て棒立ちになっているエミリーの幻影は動くことはない。

「これでは、流石に身代わりには出来ないのではなくて?」

「うん、シャーロットの言うとおりだね」
 
 用途については説明してあったので、シャーロットが難しい顔で幻影を見つめている。ディランはエミリーからインク壺を借りると、ひっくり返して、蓋の部分で机を2回叩く。そうするとエミリーの幻影が姿を消した。

 もう一度、ひっくり返して、今度はディランがインク壺の底を3回机に打ち付ける。再び現れたエミリーは、本物のエミリーの隣にちょこんと座ってニッコリと笑った。

「姿を想像するのがコツなんだ。動きは繰り返しになるから不自然にならないようなものにするといいよ」

 幻影のエミリーは『座ってニッコリ笑う』を何度も繰り返している。座っていた次の瞬間立っているので、かなり不自然だ。ディランは幻影を消してエミリーにインク壺を返した。

「練習してごらん」

「はい」

 エミリーは何度も幻影を出しては消して、不自然でない動きを作り出そうとしている。ディランは真剣な表情のエミリーを微笑ましく見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり
恋愛
前世は少食だったクリスティア。 今世も侯爵家の令嬢として、父に「王子の婚約者になり、次期王の子を産むように!」と日々言いつけられ心労から拒食気味の虚弱体質に! しかし、十歳のお茶会で王子ミリアム、王妃エリザベスと出会い、『ガリガリ令嬢』から『偏食令嬢』にジョブチェンジ!? 仮婚約者のアーク王子にも溺愛された結果……順調に餌付けされ、ついに『腹ペコ令嬢』に進化する! 今日もクリスティアのお腹は、減っております! ※pixiv異世界転生転移コンテスト用に書いた短編の連載版です。 ※ノベルアップ+さんに書き溜め読み直しナッシング先行公開しました。 改稿版はアルファポリス先行公開(ぶっちゃけ改稿版も早くどっかに公開したい欲求というものがありまして!) カクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェ、ツギクル(外部URL登録)にも後々掲載予定です(掲載文字数調整のため準備中。落ち着いて調整したいので待ってて欲しい……)

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...