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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第8話 買い物
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翌朝、ミシュリーヌはオーギュストと共に朝市に向かった。オーギュストは野菜などの食材を買い込んでいる。ミシュリーヌがこの国に来た頃は、驚くほど高価だった畑で育てるような食べ物も、今は朝市で普通に買えるようになった。
オーギュストは豊作であまり気味のものなどを選んで買っている。安くなっている野菜をわざわざ農家に利益の出る金額で買うのは、対策が追いついていない国を代表した贖罪なのかもしれない。
「自己満足だけどね」
オーギュストは何とも言えない顔をして、マジックバッグに食材をしまっている。
「そんなことはありませんわ。わたくしにも何か出来ることがあれば良いのですが……」
ミシュリーヌもアダンから庶民の状況を聞いたばかりだ。何かしたいが何ができるのか分からない。
「一緒に考えていこう」
「はい!」
買い物が済むと、食堂に入って朝食をとる。庶民の食堂はどうしても手に入りやすい魔獣肉が中心になる。重たくなりがちな食材だが、朝でも食べやすいように工夫がされていた。ミシュリーヌはよく煮込まれてホロホロになったお肉のスープを飲む。
「美味しい」
「味が染みてるな」
この前の旅でも庶民料理は食べたが、あの時より美味しい気がする。オーギュストがそばにいるからだろう。
オーギュストも気に入ったのか、専用の容器を出して、後で食べるためにいくつか買っていた。フリルネロ公爵領の街の中には、食糧事情が良くないところもあった。そういう街に滞在したときのための備えだろう。浄化の旅でも元気な街でいろんなものを買っていたし、こんなふうに二人で街を巡るのがミシュリーヌの数少ない楽しみでもあった。
「そろそろ合流するか」
「はい」
待ち合わせの時間が近づき、ミシュリーヌたちは団員が泊まる宿に向かう。
宿の前では団員たちが準備を終えて待っていた。近づいて行くと、一年目の二人が駆け寄ってくる。
「団長、昨日は申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないよう気を引き締めます。妃殿下、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
丁寧に頭を下げて謝罪したのはポールだ。その隣でアニェスも不服そうな顔で頭を下げる。すぐに気持ちを切り替えるのは難しいのだろう。
「魔導師を続けるのが難しいと感じたら、すぐに言ってくれ。命の危険もある仕事だ。無理をすると周りも危険にさらす。一人で王都に帰るのが不安なら、冒険者ギルドに頼んで護衛をつけても良い。私がお金を出そう」
「いいえ! 俺は……」
ポールが勢いよく顔を上げたが、途中で言葉を止めて隣のアニェスを見る。オーギュストの言葉がアニェスにのみ向いていることに気づいたのだろう。
「……続けさせて下さい」
アニェスは小さな声で言った。本人の口からミシュリーヌに対する謝罪はない。オーギュストがちらりとミシュリーヌを見たが、問題ないと頷く。アニェスは王妃の護衛候補から外された。魔導師を続けるにしても公爵領で先発している調査隊に入れるようなので、それまでの短い期間なら問題ない。
「ここから先の行動を見させてもらう。ジュリー、話がある」
オーギュストは新人二人から距離を取る。ミシュリーヌも団内の相談に加わるべきではないと思ったが、離れようとするとオーギュストに手を握られた。アニェスがどう思うかとヒヤヒヤしたが、さり気なくミシュリーヌの視界との間にオーギュストが入るので確認できなかった。昨日もこうやって嫌な視線から守られていたのだろう。
「悪いがアニェスは護衛とは認められない。私がいないときには、ジュリーがミシュリーヌのそばに必ずいるようにしてくれ。ブノワには必要なら話して協力させても構わない」
「畏まりました」
ジュリーが助けを求めるようにミシュリーヌをチラリと見る。ミシュリーヌが『アニェスにもう一度挽回の機会を与えてくれ』とオーギュストに提案すべきなのかもしれない。本当に『優しい聖女様』ならそうするだろう。しかし、ミシュリーヌにはどうしても提案することが出来なかった。
可愛い聖女でいられる子供時代は終わった。その意味を少しずつ理解すると、オーギュストが子供のように守ってくれていたことのありがたさを実感してくる。
でも、ミシュリーヌは戻りたいとは思わない。オーギュストに頼ってもらえるようになるには必要なことだ。
「ジュリー、仕事を増やしてごめんなさい。よろしくね」
「はい、お任せください」
ジュリーがどう感じたのかは分からない。それでも、表面上は納得したように行動してくれた。
「気になることがなければ出発する」
「問題ありません」
一行はギクシャクとした雰囲気のまま街を出る。ミシュリーヌから見ると問題はいっぱいあるが、街に残っても改善は見込めないのでしょうがないのだろう。
事実、変な緊張の中での旅は危険がいっぱいだった。ただ、オーギュストの魔法は他の者と比べると異次元で、表情一つ変えずに団員に対応できなくなった問題へと対処する。
結果だけ見ると何も問題が起こらなかったかのように、旅は順調に進んでいった。
オーギュストは豊作であまり気味のものなどを選んで買っている。安くなっている野菜をわざわざ農家に利益の出る金額で買うのは、対策が追いついていない国を代表した贖罪なのかもしれない。
「自己満足だけどね」
オーギュストは何とも言えない顔をして、マジックバッグに食材をしまっている。
「そんなことはありませんわ。わたくしにも何か出来ることがあれば良いのですが……」
ミシュリーヌもアダンから庶民の状況を聞いたばかりだ。何かしたいが何ができるのか分からない。
「一緒に考えていこう」
「はい!」
買い物が済むと、食堂に入って朝食をとる。庶民の食堂はどうしても手に入りやすい魔獣肉が中心になる。重たくなりがちな食材だが、朝でも食べやすいように工夫がされていた。ミシュリーヌはよく煮込まれてホロホロになったお肉のスープを飲む。
「美味しい」
「味が染みてるな」
この前の旅でも庶民料理は食べたが、あの時より美味しい気がする。オーギュストがそばにいるからだろう。
オーギュストも気に入ったのか、専用の容器を出して、後で食べるためにいくつか買っていた。フリルネロ公爵領の街の中には、食糧事情が良くないところもあった。そういう街に滞在したときのための備えだろう。浄化の旅でも元気な街でいろんなものを買っていたし、こんなふうに二人で街を巡るのがミシュリーヌの数少ない楽しみでもあった。
「そろそろ合流するか」
「はい」
待ち合わせの時間が近づき、ミシュリーヌたちは団員が泊まる宿に向かう。
宿の前では団員たちが準備を終えて待っていた。近づいて行くと、一年目の二人が駆け寄ってくる。
「団長、昨日は申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないよう気を引き締めます。妃殿下、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
丁寧に頭を下げて謝罪したのはポールだ。その隣でアニェスも不服そうな顔で頭を下げる。すぐに気持ちを切り替えるのは難しいのだろう。
「魔導師を続けるのが難しいと感じたら、すぐに言ってくれ。命の危険もある仕事だ。無理をすると周りも危険にさらす。一人で王都に帰るのが不安なら、冒険者ギルドに頼んで護衛をつけても良い。私がお金を出そう」
「いいえ! 俺は……」
ポールが勢いよく顔を上げたが、途中で言葉を止めて隣のアニェスを見る。オーギュストの言葉がアニェスにのみ向いていることに気づいたのだろう。
「……続けさせて下さい」
アニェスは小さな声で言った。本人の口からミシュリーヌに対する謝罪はない。オーギュストがちらりとミシュリーヌを見たが、問題ないと頷く。アニェスは王妃の護衛候補から外された。魔導師を続けるにしても公爵領で先発している調査隊に入れるようなので、それまでの短い期間なら問題ない。
「ここから先の行動を見させてもらう。ジュリー、話がある」
オーギュストは新人二人から距離を取る。ミシュリーヌも団内の相談に加わるべきではないと思ったが、離れようとするとオーギュストに手を握られた。アニェスがどう思うかとヒヤヒヤしたが、さり気なくミシュリーヌの視界との間にオーギュストが入るので確認できなかった。昨日もこうやって嫌な視線から守られていたのだろう。
「悪いがアニェスは護衛とは認められない。私がいないときには、ジュリーがミシュリーヌのそばに必ずいるようにしてくれ。ブノワには必要なら話して協力させても構わない」
「畏まりました」
ジュリーが助けを求めるようにミシュリーヌをチラリと見る。ミシュリーヌが『アニェスにもう一度挽回の機会を与えてくれ』とオーギュストに提案すべきなのかもしれない。本当に『優しい聖女様』ならそうするだろう。しかし、ミシュリーヌにはどうしても提案することが出来なかった。
可愛い聖女でいられる子供時代は終わった。その意味を少しずつ理解すると、オーギュストが子供のように守ってくれていたことのありがたさを実感してくる。
でも、ミシュリーヌは戻りたいとは思わない。オーギュストに頼ってもらえるようになるには必要なことだ。
「ジュリー、仕事を増やしてごめんなさい。よろしくね」
「はい、お任せください」
ジュリーがどう感じたのかは分からない。それでも、表面上は納得したように行動してくれた。
「気になることがなければ出発する」
「問題ありません」
一行はギクシャクとした雰囲気のまま街を出る。ミシュリーヌから見ると問題はいっぱいあるが、街に残っても改善は見込めないのでしょうがないのだろう。
事実、変な緊張の中での旅は危険がいっぱいだった。ただ、オーギュストの魔法は他の者と比べると異次元で、表情一つ変えずに団員に対応できなくなった問題へと対処する。
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