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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第9話 野営
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王都を出発してから、どのくらいの日にちが経っただろう。いくつもの領地を越えて、やっと明日にはフリルネロ公爵領に入る。
それでも、ミシュリーヌが一人で来たときよりかなり短い日程だ。あのときは、商会への同行だったこともあり、街での滞在期間もあった。しかし、理由はそれだけではない。
ミシュリーヌは後方をチラリと見る。団員たちの顔には疲れが滲んでいた。どれだけ強行日程だったのかが、素人のミシュリーヌにも分かる。オーギュストの手が空くのを待たずに出発していたとしても、公爵領に入る前に追いつかれていただろう。
「今日はこの先で野営だな」
「この旅で初めての野営ですね。大丈夫でしょうか?」
「妃殿下、ご安心下さい。我々もきちんと訓練を受けています。ご不便はおかけしません」
ジュリーがミシュリーヌたちの馬に追いつき笑顔を見せる。旅の中でリーダーとしての自信をつけたようだ。
「先輩の言うとおりです。俺たちが妃殿下の安全をお守りします」
後ろから元気よく声をかけてきたのはポールだ。彼もオーギュストたちから多くを学び、旅のはじめとは違い新人らしい危うさが抜けている。オーギュストが叱ることも少なくなった。
「お手並み拝見といこうか」
オーギュストは悪い笑みを浮かべて、野営に適した開けた土地に馬をとめる。
一瞬、団員たちに緊張が走ったが、オーギュストが結界を発動するのを見て、その緊張をすぐに解いた。
「これも自分たちでやれるようになって一人前だからな」
「はい」
ポールが沈んだ声で返事をする。
「まぁ、野営のために余力を残している者もいるようだがな」
視線を向けられたブノワは、澄ました顔で馬を降りる。遅れてきたアニェスへの対応がいつもより優しいので、褒められて内心喜んでいるのかもしれない。
「私が援護するのはここまでだ。朝まで四人で野営を維持してもらう。そのつもりで話し合え」
オーギュストが野営用の建物や厩舎を出しながらサラリと言う。団員四名の達成感に満ちた顔が焦りの色に変わった。
ミシュリーヌは馬たちを癒やし終えると、野営用の建物の中に落ち着いた。ベッドと机があるだけの小さな部屋だが、綺麗なお手洗いなどもあるので、宿より快適だ。
「本当に四人に任せるのですか?」
窓から見える四人は疲れた顔で夕食の準備を始めている。野営に入るにしては早い時間だったが、彼らの疲労を考えると日没までに準備が済むか怪しいところだ。
「宿を出発するときに伝えておいたのに、私がいるからと油断していたようだな」
確かにオーギュストは『今日は野営になるから、そのつもりでいろ』と言っていた。しかし、付き合いの長いミシュリーヌだって、そこまで無茶を言うとは思っていなかった。
「心配ないよ。そろそろだから、外に出よう。彼らに最後の試練だ」
ミシュリーヌはよく分からないまま、建物の外に出る。オーギュストが四人に声をかけて、休憩を取ることになった。ブノワは準備を続けたかったようだが、新人二人の顔を見て受け入れることにしたようだ。
皆で焚き火を囲んでいるが、アニェスは少し離れた位置でお茶を飲んでいる。ミシュリーヌとは、あれ以来話していない。ミシュリーヌの知る限り、他の団員とも最低限の会話しかなさそうだ。ジュリーも途中で諦めてしまったように思う。
「団長、お願いがあるのですがよろしいですか?」
ジュリーが意を決したように、オーギュストに声をかける。
「聞こう」
「ありがとうございます。実は皆で今晩の警護について話し合ったのですが、新人に一人で火の番をさせるのは難しいと判断しました」
「そうだろうな」
「そうなると二人ずつで、交代という形になります。皆の体力を考えると出発をいつもより遅くしていただきたいのです」
オーギュストはジュリーの話を聞きながら、途中でピクリと動く。なんだろうと思いながら話を聞いていると、今度はブノワがある方向を睨みつけはじめた。
「私に手伝えとは言わないのだな」
オーギュストは何事もなかったかのように会話を続けている。
「手伝って下さるのですか?」
情けない声を出したのはポールだ。ちょっと泣きそうな顔をしている。
ピリッ
魔法が使われる気配を感じて、ミシュリーヌは反射的に魔法で対抗した。
「なるほど……」
ブノワが呟く声が聞こえて、続いて馬がこちらに向かってくる蹄の音が聞こえてくる。
「大丈夫だ」
オーギュスト呟きと、ジュリーとポールが戦闘態勢に入るのが同時だった。ミシュリーヌはびっくりしてオーギュストに抱きつくが、すぐによく知る魔力だと分かって距離をとる。
「すみません。でも、言っておいてほしかったです」
「最後の試練だって言っただろう?」
ミシュリーヌが赤くなりながら抗議すると、オーギュストがクスリと笑う。ジュリーが戦闘態勢を保ったまま、不思議そうにちらりとこちらを見ていた。
それでも、ミシュリーヌが一人で来たときよりかなり短い日程だ。あのときは、商会への同行だったこともあり、街での滞在期間もあった。しかし、理由はそれだけではない。
ミシュリーヌは後方をチラリと見る。団員たちの顔には疲れが滲んでいた。どれだけ強行日程だったのかが、素人のミシュリーヌにも分かる。オーギュストの手が空くのを待たずに出発していたとしても、公爵領に入る前に追いつかれていただろう。
「今日はこの先で野営だな」
「この旅で初めての野営ですね。大丈夫でしょうか?」
「妃殿下、ご安心下さい。我々もきちんと訓練を受けています。ご不便はおかけしません」
ジュリーがミシュリーヌたちの馬に追いつき笑顔を見せる。旅の中でリーダーとしての自信をつけたようだ。
「先輩の言うとおりです。俺たちが妃殿下の安全をお守りします」
後ろから元気よく声をかけてきたのはポールだ。彼もオーギュストたちから多くを学び、旅のはじめとは違い新人らしい危うさが抜けている。オーギュストが叱ることも少なくなった。
「お手並み拝見といこうか」
オーギュストは悪い笑みを浮かべて、野営に適した開けた土地に馬をとめる。
一瞬、団員たちに緊張が走ったが、オーギュストが結界を発動するのを見て、その緊張をすぐに解いた。
「これも自分たちでやれるようになって一人前だからな」
「はい」
ポールが沈んだ声で返事をする。
「まぁ、野営のために余力を残している者もいるようだがな」
視線を向けられたブノワは、澄ました顔で馬を降りる。遅れてきたアニェスへの対応がいつもより優しいので、褒められて内心喜んでいるのかもしれない。
「私が援護するのはここまでだ。朝まで四人で野営を維持してもらう。そのつもりで話し合え」
オーギュストが野営用の建物や厩舎を出しながらサラリと言う。団員四名の達成感に満ちた顔が焦りの色に変わった。
ミシュリーヌは馬たちを癒やし終えると、野営用の建物の中に落ち着いた。ベッドと机があるだけの小さな部屋だが、綺麗なお手洗いなどもあるので、宿より快適だ。
「本当に四人に任せるのですか?」
窓から見える四人は疲れた顔で夕食の準備を始めている。野営に入るにしては早い時間だったが、彼らの疲労を考えると日没までに準備が済むか怪しいところだ。
「宿を出発するときに伝えておいたのに、私がいるからと油断していたようだな」
確かにオーギュストは『今日は野営になるから、そのつもりでいろ』と言っていた。しかし、付き合いの長いミシュリーヌだって、そこまで無茶を言うとは思っていなかった。
「心配ないよ。そろそろだから、外に出よう。彼らに最後の試練だ」
ミシュリーヌはよく分からないまま、建物の外に出る。オーギュストが四人に声をかけて、休憩を取ることになった。ブノワは準備を続けたかったようだが、新人二人の顔を見て受け入れることにしたようだ。
皆で焚き火を囲んでいるが、アニェスは少し離れた位置でお茶を飲んでいる。ミシュリーヌとは、あれ以来話していない。ミシュリーヌの知る限り、他の団員とも最低限の会話しかなさそうだ。ジュリーも途中で諦めてしまったように思う。
「団長、お願いがあるのですがよろしいですか?」
ジュリーが意を決したように、オーギュストに声をかける。
「聞こう」
「ありがとうございます。実は皆で今晩の警護について話し合ったのですが、新人に一人で火の番をさせるのは難しいと判断しました」
「そうだろうな」
「そうなると二人ずつで、交代という形になります。皆の体力を考えると出発をいつもより遅くしていただきたいのです」
オーギュストはジュリーの話を聞きながら、途中でピクリと動く。なんだろうと思いながら話を聞いていると、今度はブノワがある方向を睨みつけはじめた。
「私に手伝えとは言わないのだな」
オーギュストは何事もなかったかのように会話を続けている。
「手伝って下さるのですか?」
情けない声を出したのはポールだ。ちょっと泣きそうな顔をしている。
ピリッ
魔法が使われる気配を感じて、ミシュリーヌは反射的に魔法で対抗した。
「なるほど……」
ブノワが呟く声が聞こえて、続いて馬がこちらに向かってくる蹄の音が聞こえてくる。
「大丈夫だ」
オーギュスト呟きと、ジュリーとポールが戦闘態勢に入るのが同時だった。ミシュリーヌはびっくりしてオーギュストに抱きつくが、すぐによく知る魔力だと分かって距離をとる。
「すみません。でも、言っておいてほしかったです」
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