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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第7話 これから
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食事を終えると、二人で並んでお茶を飲む。思ったより疲れを感じて、ミシュリーヌはオーギュストに甘えるように寄りかかった。
オーギュストは少し驚いていたが、離れるつもりはなさそうだ。
「ジュリーたちが護衛候補だったと聞いて驚きました。マリエルたちの隊はわたくしの担当から外れるのですか?」
ミシュリーヌは先程感じた不安を口にする。オーギュストが宥めるように肩を抱いてくれた。
「そうではないよ。これからもミシュリーヌの外出時には、マリエルを中心に護衛を組むつもりだ」
ミシュリーヌはそれを聞いてホッとする。たくさんの護衛がいても耐えられたのは、信頼できる人たちだったからだ。
「ジュリーはマリエルの隊に入るのでしょうか? もしかして、わたくしの護衛を増やそうとしています?」
「普通はそう思うよね。違うから安心して良いよ。これから話すことは、まだジュリーにも言ってないから内緒だよ」
ミシュリーヌが普段の護衛の多さに困惑していることを、オーギュストは知っているらしい。楽しそうに笑ってから説明してくれた。
オーギュストはジュリーを王妃の護衛として育てるつもりらしい。魔導師団員には平民出身者も多いが、ジュリーとアニェスは貴族令嬢だ。貴族が集まるパーティにも違和感なく入り込むことができる。
「私としてはミシュリーヌにもパーティで護衛をつけたいが、王妃の方が必要性が高いのも事実だ。義姉上は身を守れるほどの魔法を使えない。護衛はつけているが、女性しか入れない場所もあるだろう?」
去年までは社交どころではない地域もあったので、パーティはそれほど開かれていなかった。人の出入りが多くなかったため近衛騎士がいれば十分で、王妃の護衛を育てるという発想も魔導師団にはなかったらしい。浄化が終わって新しい一歩を踏み出した今年は、オーギュストが王宮の広範囲に強い魔法を展開することで守ってきた。戦闘ができる侍女をそばに置いているが、魔導師が相手となれば守りきれるか不安が残る。
「貴族女性が魔導師団に増えそうだから、その対策でもあるんだけどね」
お金に余裕のない家の令嬢は、持参金を用意しての結婚が難しい。浄化が終わり、魔導師団の仕事も前より安全になった。魔導師団は働きに出る令嬢の良い就職先のようだ。
爵位はなくとも魔導師団員は安定した職業なので、婚活目的で入りたがる者もいる。
「今は貴族令嬢やその親も、結婚相手の身分に拘らなくなってきている。自由に恋愛できないのは、公爵令嬢や王族くらいかな。まぁ、良いことなんだとは思うよ」
オーギュストがこちらを伺うように見るので、ミシュリーヌはムスッとしてしまう。
「わたくしは自分の意志でここにおります」
「分かっているよ」
オーギュストはホッとしたように笑う。やはり、分かってくれてはいない。自信を持ってもらいたいが、女性にモテると気づかれても嫌なので複雑だ。
この様子なら、戴冠パーティで若いご令嬢から熱い視線を受けていたことにも気づいていないのだろう。オーギュストは自分に向けられる恋愛感情に疎すぎる。
「今年は例年通りの基準で採用したが、来年はもう少し基準を緩めることになりそうなんだ。男性団員に独身者が多いから、ヌーヴェル伯爵も乗り気なんだよ。貴族に恩を売ることもできるしね」
つまり、ジュリーが否定したコネによる入団が増えるということだ。今までになかった問題が起きそうな気がする。オーギュストもそれを心配しているようだ。
「私は貴族女性が苦手だし、あまり乗り気ではないんだ。傅かれることになれているから、今回のような問題も起こりやすい。能力の低い人間が入れば、周りの不満も貯まるだろう。だが、綺麗事ばかりは言っていられない」
どの領主も魔獣の対応という一つの目的のために団結していたが、これからはそうもいかない。あらゆる手段で貴族をまとめる必要がある。
それに、国が平和なら魔導師の必要性も下がる。必要としない高い能力は、畏怖の対象にもなりかねない。多くの人を受け入れるのは、魔導師を身近に感じてもらい孤立させないためでもあるようだ。
この国に聖女がいなかったのも、魔獣が減りすぎた時代に迫害された歴史があるからだ。多くの人は遠い未来の安全ではなく、今の安心を優先してしまう。それは残念ながらミシュリーヌも同じだ。
「伯爵に任せてしまえば良いのです」
ミシュリーヌはつい本音を言ってしまって、慌てて口をつぐむ。仕事とはいえ、若い貴族令嬢とは関わってほしくない。
「……ミシュリーヌの護衛をさせて育てるのだから、私はミシュリーヌと一緒にいるときにしか関わらないよ」
オーギュストの笑顔を見れば、口に出さなかったことまで伝わってしまったと分かる。ミシュリーヌのオーギュストへの想いも、思ったより伝わっているのかもしれない。
「彼女たちが育てば、社交シーズン中でも自由に動けるようになる。伯爵は私が断れないように話を持ってくるのが上手いよね」
パーティがない日でも王妃は人脈作りに忙しく、オーギュストは王宮に縛り付けられた状態だった。
「橋の式典のときも、近衛は私が離れることに反対していたようだ。兄上が強引に進めなければ、囮作戦はできなかっただろうな」
「わたくしを追いかけて来てくださらなかったのも、王妃様の護衛があったからですか?」
オーギュストは申し訳なさそうな顔をするだけで、肯定も否定もしない。自分以外の何かのせいにしたくないのかもしれない。
「蒸し返して申し訳ありません。でも、今日の速度なら、わたくしに追いつけた気がして……」
「今度いなくなるときには、行き先を教えておいてほしいな。あと、夜間の移動も控えてもらえるとありがたい。ミシュリーヌは自分の能力を小さく見積もり過ぎている」
「分かりましたわ。今度からはローブを置いていきますね」
ミシュリーヌが着ていたローブには追跡を防ぐ効果もある。オーギュストがミシュリーヌの安全のために渡してくれていたものだ。
「冗談だよ。心配になるからやめてくれ」
「分かっております。もう二度と勝手にいなくなったりはしませんわ」
ミシュリーヌはニッコリ笑って見上げたが、オーギュストは疑っているようだ。いなくなる気はないのに、ローブの着用を約束させられてしまった。
オーギュストは少し驚いていたが、離れるつもりはなさそうだ。
「ジュリーたちが護衛候補だったと聞いて驚きました。マリエルたちの隊はわたくしの担当から外れるのですか?」
ミシュリーヌは先程感じた不安を口にする。オーギュストが宥めるように肩を抱いてくれた。
「そうではないよ。これからもミシュリーヌの外出時には、マリエルを中心に護衛を組むつもりだ」
ミシュリーヌはそれを聞いてホッとする。たくさんの護衛がいても耐えられたのは、信頼できる人たちだったからだ。
「ジュリーはマリエルの隊に入るのでしょうか? もしかして、わたくしの護衛を増やそうとしています?」
「普通はそう思うよね。違うから安心して良いよ。これから話すことは、まだジュリーにも言ってないから内緒だよ」
ミシュリーヌが普段の護衛の多さに困惑していることを、オーギュストは知っているらしい。楽しそうに笑ってから説明してくれた。
オーギュストはジュリーを王妃の護衛として育てるつもりらしい。魔導師団員には平民出身者も多いが、ジュリーとアニェスは貴族令嬢だ。貴族が集まるパーティにも違和感なく入り込むことができる。
「私としてはミシュリーヌにもパーティで護衛をつけたいが、王妃の方が必要性が高いのも事実だ。義姉上は身を守れるほどの魔法を使えない。護衛はつけているが、女性しか入れない場所もあるだろう?」
去年までは社交どころではない地域もあったので、パーティはそれほど開かれていなかった。人の出入りが多くなかったため近衛騎士がいれば十分で、王妃の護衛を育てるという発想も魔導師団にはなかったらしい。浄化が終わって新しい一歩を踏み出した今年は、オーギュストが王宮の広範囲に強い魔法を展開することで守ってきた。戦闘ができる侍女をそばに置いているが、魔導師が相手となれば守りきれるか不安が残る。
「貴族女性が魔導師団に増えそうだから、その対策でもあるんだけどね」
お金に余裕のない家の令嬢は、持参金を用意しての結婚が難しい。浄化が終わり、魔導師団の仕事も前より安全になった。魔導師団は働きに出る令嬢の良い就職先のようだ。
爵位はなくとも魔導師団員は安定した職業なので、婚活目的で入りたがる者もいる。
「今は貴族令嬢やその親も、結婚相手の身分に拘らなくなってきている。自由に恋愛できないのは、公爵令嬢や王族くらいかな。まぁ、良いことなんだとは思うよ」
オーギュストがこちらを伺うように見るので、ミシュリーヌはムスッとしてしまう。
「わたくしは自分の意志でここにおります」
「分かっているよ」
オーギュストはホッとしたように笑う。やはり、分かってくれてはいない。自信を持ってもらいたいが、女性にモテると気づかれても嫌なので複雑だ。
この様子なら、戴冠パーティで若いご令嬢から熱い視線を受けていたことにも気づいていないのだろう。オーギュストは自分に向けられる恋愛感情に疎すぎる。
「今年は例年通りの基準で採用したが、来年はもう少し基準を緩めることになりそうなんだ。男性団員に独身者が多いから、ヌーヴェル伯爵も乗り気なんだよ。貴族に恩を売ることもできるしね」
つまり、ジュリーが否定したコネによる入団が増えるということだ。今までになかった問題が起きそうな気がする。オーギュストもそれを心配しているようだ。
「私は貴族女性が苦手だし、あまり乗り気ではないんだ。傅かれることになれているから、今回のような問題も起こりやすい。能力の低い人間が入れば、周りの不満も貯まるだろう。だが、綺麗事ばかりは言っていられない」
どの領主も魔獣の対応という一つの目的のために団結していたが、これからはそうもいかない。あらゆる手段で貴族をまとめる必要がある。
それに、国が平和なら魔導師の必要性も下がる。必要としない高い能力は、畏怖の対象にもなりかねない。多くの人を受け入れるのは、魔導師を身近に感じてもらい孤立させないためでもあるようだ。
この国に聖女がいなかったのも、魔獣が減りすぎた時代に迫害された歴史があるからだ。多くの人は遠い未来の安全ではなく、今の安心を優先してしまう。それは残念ながらミシュリーヌも同じだ。
「伯爵に任せてしまえば良いのです」
ミシュリーヌはつい本音を言ってしまって、慌てて口をつぐむ。仕事とはいえ、若い貴族令嬢とは関わってほしくない。
「……ミシュリーヌの護衛をさせて育てるのだから、私はミシュリーヌと一緒にいるときにしか関わらないよ」
オーギュストの笑顔を見れば、口に出さなかったことまで伝わってしまったと分かる。ミシュリーヌのオーギュストへの想いも、思ったより伝わっているのかもしれない。
「彼女たちが育てば、社交シーズン中でも自由に動けるようになる。伯爵は私が断れないように話を持ってくるのが上手いよね」
パーティがない日でも王妃は人脈作りに忙しく、オーギュストは王宮に縛り付けられた状態だった。
「橋の式典のときも、近衛は私が離れることに反対していたようだ。兄上が強引に進めなければ、囮作戦はできなかっただろうな」
「わたくしを追いかけて来てくださらなかったのも、王妃様の護衛があったからですか?」
オーギュストは申し訳なさそうな顔をするだけで、肯定も否定もしない。自分以外の何かのせいにしたくないのかもしれない。
「蒸し返して申し訳ありません。でも、今日の速度なら、わたくしに追いつけた気がして……」
「今度いなくなるときには、行き先を教えておいてほしいな。あと、夜間の移動も控えてもらえるとありがたい。ミシュリーヌは自分の能力を小さく見積もり過ぎている」
「分かりましたわ。今度からはローブを置いていきますね」
ミシュリーヌが着ていたローブには追跡を防ぐ効果もある。オーギュストがミシュリーヌの安全のために渡してくれていたものだ。
「冗談だよ。心配になるからやめてくれ」
「分かっております。もう二度と勝手にいなくなったりはしませんわ」
ミシュリーヌはニッコリ笑って見上げたが、オーギュストは疑っているようだ。いなくなる気はないのに、ローブの着用を約束させられてしまった。
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