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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第6話 食事
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宿に着くと、ジュリーは手続きだけ済ませて足早に戻っていった。他の三人と話し合うのだろう。ミシュリーヌは落ち込んだ様子の背中を見送って、オーギュストとともに宿の部屋に入る。
ミシュリーヌたちの部屋は、先程の部屋より広くてきれいだ。オーギュストが安全のために部屋中を調べてくれているが、ミシュリーヌは小さめのダブルベッドが気になってしょうがない。離宮にある二人のベッドの半分くらいの大きさしかないのだ。一緒に眠るのには慣れたが、今日は久しぶりに緊張しそうだ。
「ミシュリーヌ? 疲れたか?」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「それなら、食事にするか。今日は部屋で摂ろうと思って買ってきた」
オーギュストは結界を張ると、マジックバッグから机を出して屋台料理を並べる。冒険者ギルドの査定中に買ってきてくれたようだ。
「アイツらにも食べさせるつもりだったんだがな」
「すみません」
彼らは各々のマジックバッグに遠征食を持っていると思う。食事に困りはしないが、あの様子ではきちんと食べているか心配だ。
「ミシュリーヌのせいではないよ」
オーギュストは慰めるように言ってから、魔獣肉の串焼きをミシュリーヌのお皿に乗せてくれる。食欲をそそる良い香りだ。オーギュストはミシュリーヌの好きな味付けも把握してくれている。
「わたくし、彼らと良い関係を築けませんでした。子供扱いするなと言いましたのに、大人の女性らしい対応ができておりません」
「ミシュリーヌがアニェスのことを諌めたのだろう? 今回はそれで十分だよ。良い関係を作るには相手の協力も必要だ」
「でも、あまり良い諌め方とは言えませんでしたわ」
「どのように対処したんだ?」
オーギュストがパンをちぎりながら、不思議そうにミシュリーヌを見ている。ミシュリーヌは澄んだ青い瞳から逃れるようにスープに視線を落とした。
「……言いたくありません」
「ん? まぁ、無理には聞かないが……」
恐る恐る顔を上げると、オーギュストは心配そうにミシュリーヌを見ていた。黙っていることができずに躊躇いがちに口を開く。
「わたくし、身分を笠に着る嫌な女なのです」
「……それで良いと思うがな。あまり甘い顔をすると侮られたり利用されたりする」
「難しいです」
ミシュリーヌは先程の自分と、祖国の異母姉たちが重なってため息を漏らす。姉たちは皇女の地位や後ろ盾の強さを理由に、ミシュリーヌを含む周りの者たちを物のように扱っていた。自分を守るためだとしても、彼女たちのようには絶対になりたくない。ただ、ヘクターがミシュリーヌを標的にしたことを思い出すと、侮られたままでいるのも嫌だった。
「そんな顔をしなくて良いよ。こういう対応は慣れだ。私が守るから必要ないと言ってあげたいが……今後は成人王族として行動することも増える。そばにいてやれないときのために、少しずつ対処を覚えていってほしい。私も手を出しすぎないように善処するよ」
「わたくし、頑張りますわ」
ミシュリーヌが拳を握って気合を入れると、オーギュストがクスリと笑う。
「困ったことがあれば、すぐに相談するんだよ。上手く対応できたと思っても、後で報告だけはしてほしい。どういう相手に何を言われたか教えてくれれば、ミシュリーヌが二度と嫌な思いをしないように、私が……」
「オーギュスト様」
ミシュリーヌは不穏な気配を感じてオーギュストの言葉を遮る。『手を出しすぎないように善処』してほしい。
「……逆上するような人間がいたら危険だろう?」
オーギュストがしゅんとして、ミシュリーヌを見つめている。ちょっと、可愛い。
「そのようなときには必ず報告しますわ」
「少しでも気になったら報告するんだよ。何かあってからでは遅いからね」
「いつも頼りにしております」
オーギュストはまだ言い足りなそうだったが、ミシュリーヌは笑顔で流して食事に手を伸ばす。オーギュストが買ってきてくれた料理はどれも美味しい。オーギュストにも勧めると、諦めて食べ始めてくれた。
ミシュリーヌたちの部屋は、先程の部屋より広くてきれいだ。オーギュストが安全のために部屋中を調べてくれているが、ミシュリーヌは小さめのダブルベッドが気になってしょうがない。離宮にある二人のベッドの半分くらいの大きさしかないのだ。一緒に眠るのには慣れたが、今日は久しぶりに緊張しそうだ。
「ミシュリーヌ? 疲れたか?」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「それなら、食事にするか。今日は部屋で摂ろうと思って買ってきた」
オーギュストは結界を張ると、マジックバッグから机を出して屋台料理を並べる。冒険者ギルドの査定中に買ってきてくれたようだ。
「アイツらにも食べさせるつもりだったんだがな」
「すみません」
彼らは各々のマジックバッグに遠征食を持っていると思う。食事に困りはしないが、あの様子ではきちんと食べているか心配だ。
「ミシュリーヌのせいではないよ」
オーギュストは慰めるように言ってから、魔獣肉の串焼きをミシュリーヌのお皿に乗せてくれる。食欲をそそる良い香りだ。オーギュストはミシュリーヌの好きな味付けも把握してくれている。
「わたくし、彼らと良い関係を築けませんでした。子供扱いするなと言いましたのに、大人の女性らしい対応ができておりません」
「ミシュリーヌがアニェスのことを諌めたのだろう? 今回はそれで十分だよ。良い関係を作るには相手の協力も必要だ」
「でも、あまり良い諌め方とは言えませんでしたわ」
「どのように対処したんだ?」
オーギュストがパンをちぎりながら、不思議そうにミシュリーヌを見ている。ミシュリーヌは澄んだ青い瞳から逃れるようにスープに視線を落とした。
「……言いたくありません」
「ん? まぁ、無理には聞かないが……」
恐る恐る顔を上げると、オーギュストは心配そうにミシュリーヌを見ていた。黙っていることができずに躊躇いがちに口を開く。
「わたくし、身分を笠に着る嫌な女なのです」
「……それで良いと思うがな。あまり甘い顔をすると侮られたり利用されたりする」
「難しいです」
ミシュリーヌは先程の自分と、祖国の異母姉たちが重なってため息を漏らす。姉たちは皇女の地位や後ろ盾の強さを理由に、ミシュリーヌを含む周りの者たちを物のように扱っていた。自分を守るためだとしても、彼女たちのようには絶対になりたくない。ただ、ヘクターがミシュリーヌを標的にしたことを思い出すと、侮られたままでいるのも嫌だった。
「そんな顔をしなくて良いよ。こういう対応は慣れだ。私が守るから必要ないと言ってあげたいが……今後は成人王族として行動することも増える。そばにいてやれないときのために、少しずつ対処を覚えていってほしい。私も手を出しすぎないように善処するよ」
「わたくし、頑張りますわ」
ミシュリーヌが拳を握って気合を入れると、オーギュストがクスリと笑う。
「困ったことがあれば、すぐに相談するんだよ。上手く対応できたと思っても、後で報告だけはしてほしい。どういう相手に何を言われたか教えてくれれば、ミシュリーヌが二度と嫌な思いをしないように、私が……」
「オーギュスト様」
ミシュリーヌは不穏な気配を感じてオーギュストの言葉を遮る。『手を出しすぎないように善処』してほしい。
「……逆上するような人間がいたら危険だろう?」
オーギュストがしゅんとして、ミシュリーヌを見つめている。ちょっと、可愛い。
「そのようなときには必ず報告しますわ」
「少しでも気になったら報告するんだよ。何かあってからでは遅いからね」
「いつも頼りにしております」
オーギュストはまだ言い足りなそうだったが、ミシュリーヌは笑顔で流して食事に手を伸ばす。オーギュストが買ってきてくれた料理はどれも美味しい。オーギュストにも勧めると、諦めて食べ始めてくれた。
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