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イースターエッグハント
イースターエッグハント -3-
しおりを挟む「……すみません」
涙がひいて、ようやく我に返った咲は、視線を伏せたまま花音に謝辞を述べた。
泣き顔が恥ずかしくて、花音の顔を直視することができない。
そもそも勝手に勘違いして、一人で暴走した挙句のこの体たらくだ。どんな顔で向き合えばいいのか──
「落ち着いた?」
それでも花音は相変わらず優しい。咲は無言で頷いた。
「それじゃあ、そろそろ戻ろっか」
そう言うと、花音はしゃがんだままクルリと咲に背中を向けた。
「え?」
咲は目を見開いて、花音を見つめる。そんな咲を振り返り、「乗って」と花音は顎をしゃくった。
──乗、る?
しばし呆然と花音の背中を眺め、「……い、いいえ、とんでもないっ」と咲は全力で遠慮した。
「私、歩けますから……」
立ち上がろうとした咲の腕を、花音が掴む。
「いいから、乗って」
いつになく強い声だ。咲はビクリと身を縮こませた。
──もしかして、花音さん、怒ってる?
チラリと花音を窺うと、どこか不機嫌さが滲む。
それは、そうだよね、と咲は唇を噛み締めた。
これだけ迷惑をかけているのだから、怒っていないはずがない。
「……ごめんなさい」
咲はその場で身を縮めたまま、小さく頭を下げた。
「……どうして咲ちゃんが謝るの?」
花音が目を細め、咲を見つめる。咲の腕を掴む手にわずかに力がこもった。
「だって、花音さんに迷惑をかけたから」
「迷惑?」
花音は眉を上げ、「咲ちゃんがいつ、僕に迷惑をかけたの?」と咲の顔を覗き込んだ。
「……今です。勝手に一人で騒いで、花音さんにこんなところまで探させてしまって……」
咲はしょんぼりとうな垂れた。
「──本当は、今日だけでなく、いつも迷惑をかけているのかも……花音さんには、つい甘えてしまうから」
ジッと咲を見つめる明るい茶褐色の瞳が、全てを見透かしているようで、余計なことまで口走ってしまう。それに花音が小さく息を吐いた。
「……甘えていいんだよ」
花音の声に「え?」と顔を上げた途端、強い力で腕を引っ張られる。咲は体勢を崩し、花音の胸に飛び込む形になった。
「わぁ、すみませんっ」
慌ててる咲を、花音は優しく抱きすくめた。
「……花音さん?」
驚いて顔を上げた咲の、鼻先数センチの距離に花音の顔が迫った。
真っ直ぐに咲を見つめる明るい茶褐色の瞳が、太陽の光を受け、ますます明るく輝く。その美しさに見惚れて、咲はジッとその瞳を見つめ返した。
「まったく……」と呟き、ヘタリッ、と花音は咲の肩に顎を乗せた。
「花音さん?」
咲はパチパチと目を瞬かせた。肩に触れた花音の顔が妙に熱い。
「……というか、甘えて欲しいんだ。僕が咲ちゃんの力になりたいんだから」
耳元で囁いて、咲の髪を撫でる。花音の手を通して伝わる温かさが、ジンワリと心の中に染み入っていく。
「……ありがとうございます」
──こんなに素直に『ありがとう』を言えたのはいつ以来だろう?
咲は花音の手の温もりに、しばし身を委ね、目を閉じた。心が自然と和らいでいく。
「……やっぱり、花音さんは女性の扱いが上手ですね」
花音の胸に顔を埋め、呟く。
「え?」
花音は髪を撫でる手を止め、咲を覗き込んだ。
「さすが女性に困っていない花音さんです」
咲は花音を見上げ、悪戯っぽく笑った。
「あのね、咲ちゃん。僕、誰にでもこんなこと言ってるわけじゃないから」
花音は憮然とした表情を浮かべる。分かってます、と咲は頷いた。
「保護者、だからですよね」
「……保護者?」
花音が眉根を寄せた。
「私が華村ビルの住人だから、そんなふうに想ってもらえるんですよね」
咲はニコリと笑う。対して花音は微妙な表情を浮かべる。
「私、頑張ります」
「え?」
「……頑張る?」と花音が口の中で呟く。
「はい。いつまでも保護者の花音さんに甘えてばかりはいられませんから。一人立ちできるよう、頑張ります」
咲の宣言に、いよいよ花音の表情は困惑を極める。咲はキョトンとして、花音を見つめた。
──私、何か変なこと言った?
「……あ、いや、……まあ、いいや」
花音は気まずそうに頭を掻き、小さくため息を吐いた。
「……そろそろ、カフェに戻ろうか」と花音がポツリとつぶやく。それから、再び、背中を向けた。
咲は、今度は大人しくその背中にお世話になることにした。
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