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イースターエッグハント
イースターエッグハント -2-
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身体が否応なく宙に浮く。捕まるところのない階段ではもはや大人しく落下するしかない。咲はギュッと目を閉じ、次に来る衝撃に備えた。
地面に叩きつけられる自分を想像し、身構える。
けれど、次に感じた衝撃は思ったよりも柔らかいもので、それは咲の身体を優しく包み込んだ。それから、フローラル系の香りが鼻をくすぐる。
──フローラル系の香り?
咲はゆっくりと目を開けた。途端に目に飛び込んできたのは、急な階段の坂道。
「ヒャァッ」と咲は素っ頓狂な声を上げた。
こんなところで転げ落ちていたら、タダでは済まなかっただろう。一気に血の気が引いていく。
「大丈夫だよ、咲ちゃん」
その声に、ようやく咲は、花音が自分の身体を支えていることに気がついた。
「花音さんっ」
階段を転がり落ちる寸前の咲を、花音が抱き止めてくれたのだ。花音はゆっくりと咲を地面へ下ろした。
「……花音さん、大丈夫ですか?」
咲は自分の足が地面についたことを確認してから、尋ねた。
「……それは、こっちのセリフだよ」
花音は呆れたようにため息を吐いた。
「あ、私は大丈夫です」
咲は大きく頷いてみせる。それに花音は片眉を上げ、「だけど、どうしてこんなところまで?」と尋ねた。
「陸くんを探しに……森の中に陸くんが一人で入ったって聞いて、後を追ってきたんです。でも、全然見つからなくて……」
花音の問いに、咲は堰を切ったように状況を説明する。
「陸くんが?」
花音が驚いて目を見開いた。
「陸くん、大丈夫かな? ……もし、陸くんに何かあったら……私……花音さん、どうしよう」
さっきまで辛うじて保っていた緊張の糸が、花音の顔を見て切れてしまったようで、涙が頬を伝う。
ポツリ、ポツリと足元に落ちる涙を見て、情けない、と咲は唇を噛み締めた。
自分より小さな陸くんはきっと今も辛い思いをしてるはずなのに。泣いている場合じゃない。
咲は腕で顔を拭うと、花音を見上げた。
「この上には、陸くんはいませんでした。だから、下を探しに行かないと……」
そう言って駆け出そうとした咲を、花音は両腕で抱き止めた。
「落ち着いて、咲ちゃん」とギュッと腕に力を込める。自然と花音の胸に顔が埋まる。身体の体温が一気に上がり、耳まで熱くなった。
「……陸くんなら大丈夫だから」
花音が優しく耳元で囁いた。
「でもっ」
咲は言い返そうと腕の中でもがく。
「陸くん、一人で心細いはず……」
言いながら涙が溢れる。それがまた悔しかった。
──花音さんに安心して泣いてしまう自分が。
そんな咲の背中を優しく撫で、花音はフゥと小さく息をついた。
「……ねぇ、咲ちゃん。一体、誰から聞いたか知らないけれど、陸くんならずっと僕と一緒にいたよ」
──え?
咲は花音の胸から顔を引き剥がし、彼を見上げた。
「……花音さんと?」
「そう。僕と……僕に付き合って、車まで着いてきてくれていたの」
「そう……なんですか?」
ジッと花音を見つめる。そうなの、と花音が頷いた。
「それなら、陸くんは今?」
「今は川上さんと一緒にカフェにいるよ」
カフェに、と口の中で呟いて、咲はヘナヘナとその場にへたり込んだ。
「ちょ、咲ちゃん、大丈夫?」
辛うじて花音の右腕が咲を支える。咲はその腕を掴んだまま、うんうん、と頷いた。
──そっか。さっき川上さんの傍に陸くんの姿が見当たらなかったのは、花音さんについていったからか。
「陸くんが無事でよかったです……」
そう声に出した途端、再び涙が溢れた。
「……本当だね」
花音もしゃがみ込み、咲の頭を自分の肩へと抱き寄せた。そのまま黙って、咲が泣き止むまで背中を摩った。
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