しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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ライオネット目を覚ます(ライオネット視点)

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♦-/-/-//-/-魔王城:救護室/--/-/-/--/♦

 瞼を開けた瞬間、見覚えのある天井が視界に広がった。
 重たい身体。喉の奥に残る焦げるような痛み。肺がぎこちなく空気を吸い込み、吐き出す。
 ……生きている。
 そう理解するまで、しばらく時間がかかった。

 思い出す。あの光。ドルガスの兵器──改造された魔道具【電子レンジ】から放たれた、灼熱の奔流。
 胸を焼かれ、意識が闇に沈んでいくその中で──
 
 私は見た。
 必死に私の胸に謎の魔道具を押し当てる者を──
 轟 電次郎。異世界から来た、冴えない中年の、電気屋と名乗る男。
 金属の板を重ね打つように胸を叩き、火花を散らす不思議な装置。
 その合間に、温かな唇の感触があった。
 呼吸もままならない私の口に、唇を重ねた。
 そして、まるで命を灯すように息を吹き込む。
 あいつの吐息を感じるたびに、私の中に何か、得体の知れないエネルギーが注ぎ込まれている気がして──それはとても心地が良かった。

 あの男は、私を助けようとしたのか?
 なぜだ──。
 学園で私が行った非道を知らないのか?
 いや……あの男は、知っていても私を助けただろう。
 それは、きっと、ステラ──お前が泣いているからだ。

 涙で濡れた彼女の手の温もりが、まだ頬に残っている。
 あれほど私に尽くしながら、私の罪を知ってなお、彼女は「先生」と呼び続けた。
 なぜだ。なぜ信頼を置く? 裏切られてなお、縋りつくのか?

 ……考えても、結論は出ない。
 これが人間の本質なのかもしれない。愚かで、矛盾に満ち、それでもなお誰かを信じ、誰かを救おうとする。

 溜息が漏れる。
 不思議だ……ステラが泣くと、心のどこかが痛んだ。
 ステラが笑うと、心のどこかが温かく喜んだ。
 私はそんな感情を、とうに失ったはずだったのに。

 ──孤児たちの顔が脳裏に蘇る。
 初めて彼らに手を差し伸べたときのことを思い出す。
 私と同じように、居場所をなくした子どもたち。
 ただ笑顔にしたかった。それだけだった。自分も救われたから、彼らを救いたかった。
 だから、手を差し伸べた。笑顔を守りたい一心で。

 だが、争いは絶えなかった。
 大人たちは力を誇示し、子どもたちはその犠牲となった。
 私は考えた。どうすれば争いをなくせるのか。
 答えは一つ、“力”だ。

 力ある者が欲望のままに他者を征服するのなら、それを止めるには、より強大な力しかない。
 単純で残酷だが、最も理にかなっている。
 だから私は力を求めた。
 子どもたちを守るために。

 ……いつしか、目的と手段が入れ替わっていた。
 力を得るために、子どもたちを実験に巻き込みすらした。
 救いたかったはずなのに、犠牲にしてしまった。
 だが、立ち止まるわけにはいかなかった。止まれば、全てを否定することになるから。

 そんな中で──あの男が現れた。
 電次郎。
 あの男の周りには、笑顔があった。
 召喚する魔道具は、人を傷つけるためではなく、人を笑わせ、支え、救う力を持っていた。
 ……もし、彼に出会うのがもう少し早ければ。
 もし、あの魔道具を「力」ではなく「笑顔のため」に研究していたなら。
 私は違う道を歩んでいたかもしれない。

 ……たられば、か。
 唇を歪めて苦笑する。

 己の感情を感じ取れるほどに、意識が戻ったそのとき、胸の奥に異変を覚えた。

 魔力が……流れていない。
 生まれて初めて、マナの気配を感じ取れなかった。
 代わりに、もっと微細な粒子のざわめきが、神経を走り抜けている。

 これは……なんだ?
 ……いや、私はこれの正体を知っている。
 電次郎の血液に触れたときに感じたモノと同じだ。

 ──電子。
 新たなエネルギーの粒子。
 なぜ私に、ソレが……。

 あの装置、電次郎の謎の魔道具が、私に命を吹き込んだというのか?
 あるいは、あの口づけが……。
 どちらにせよ、マナとは違う、新たな力。
 その存在が自分自身に宿ったのは確かだろう。

 これが何なのかを解き明かさなければならない。
 この世界の未来を変えるかもしれない、新しい理。
 そして、電次郎の家電は、その理を現実に繋ぐ技術だ。

 笑顔のための力。
 かつて私が見失ったものを、彼は持っている。
 ──目が覚めてから、心がやけに穏やかだからだろうか……。
 今すぐにでも飛び起きて、研究に没頭したい。
 他を制圧する力ではなく、子供達を笑顔にするための力。

 「……ステラ」
 掠れた声が自然と漏れた。
 ──私が電力を使ってやりたいこと、それを知っていると言ったな……。
 きっと、彼女は私の心の奥底にある想いを知っていたのだろう。

 「勘のいい子だ……」
 私がかつて孤児に願った笑顔を、あの子は今も私に向けてくれる。
 私はまだ、彼女に教えることがある。
 いや、教わるべきことか──。

 本当の力とは何か……。

 カーテン越しに差し込む光が、やけに眩しく思えた。
 私は目を細め、ゆっくりと息を吐いた。
 早く、ステラに会いたい。
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