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おっさん喧嘩す
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出発の準備が終わるや否や、ジェダくんは魔王城のバルコニーで大きな竜へと変わった。
巨大な翼、鋭い鱗、地を揺らすほどの気配……。
あれだ、間違いない。ドローンで見たあの竜、バンボルトに連れて行かれた時に空をかすめた影──全部、ジェダくんだったんだ。
その時だった。
「おっさん、あたいを置いてくつもりか?」
背後から声をかけてきたのはシービーだった。
いつもの軽口混じりの調子に聞こえたが、真剣な眼差しが決意の表れのように見える……だけど……。
「シービー、ダメだ。お前は残れ、何が待ち受けているかわからないし、ルクスも心配だ。あいつを守ってやってくれ」
俺がそう言いかけた瞬間、シービーは勢いよく首を振った。
「バカ言うなよ。これは、魔王様の命令だ。詳しくは言えねぇけど、おっさんに悪い虫が付かないように見張っててやる」
悪い虫?
その言葉に、クレアの表情が曇った気がしたが──
「ダメなものはダメだ。このワガママだけは聞けねぇ。今すぐ引き返せ」
「ワガママじゃねぇ! あたいはおっさんに命を救われたんだ。その借りは命で返すって決めたんだ。ここで引き返したら、あたいは一生、自分を許せねぇ!」
「……命を無駄にするために助けたんじゃねぇよバカ野郎っ」
シービーの熱意に、少し躊躇った。
けど、やっぱりこいつを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
「怒鳴るなよ、バカおやじっ」
大人げなく声を荒げたけど、シービーは引き下がらない。
こいつのこういうところ、嫌いじゃないんだよな……自分を見ているみたいだ。
「おい、痴話げんかしてる場合じゃねぇんだよ」
サンダルが鬼の形相で俺とシービーを睨み付ける。
さすがのシービーも狂戦士の気迫に、怯んだ。
「すまんなシービー、ちょっと待っててくれ。きっとすぐ帰る」
「……」
シービーは俯き、それ以上何も言わなかった。
「あの、私はここに残ります」
声の主は、ライオネットの傍に付いていたはずのステラだった。
「そうだな、その方が先生も心強いと思う」
ボルトリアへの帰還は、きっとステラにとっても危険な旅になる……ルクスやシービーが居るココなら、危険な目に遭うこともないだろう。
「電次郎さん……先生を助けてくれて、本当にありがとうございます」
「気にするな。シービー、ステラを頼んだぞ」
「……」
シービーは俯いたままだ。
「行こうっ」
クレア、サンダルと共にジェダくんの背中に乗り、空高く舞い上がった。
もの凄い勢いで上昇し息をするのもままならない。
こりゃいい、この速度ならボルトリアまであっという間だ。
「で、電次郎さん……尻尾に何かが……」
ジェダくんの声に、思わず振り返ると、シービーのやつがジェダくんの尻尾に必死に掴まっている。
「あのバカ」
「引き返すのは許さんぞ……ミカ様になにかあったらお前らをぶん殴るだけじゃ済まねぇからな」
サンダルの低い声に、その本気度が伝わってくる。
ジェダくんは飛行しながら器用に尻尾を俺達の方へと向けた。
俺はすぐさまシービーの体を掴み、抱き寄せる。
「あたいは、本気だかんな」
口を尖らせるシービーに、怒る気力も失った……と同時に、心強くもあった。
「足手まといにはなるなよ」
俺は、小さな体が飛んでいかないように、しっかりとシービーを抱きしめた。
「あたぼうよ」
「調子に乗んな、今みたいな無茶しやがったら絶交だからな」
「……分かったよ」
頬を膨らませながら必死に俺の服にしがみ付くシービーに、ほんの一瞬でも心が救われた。だが胸の奥底では、“ボルトリア壊滅”の言葉が重く沈み続けている。
誤報であってくれ……ミカちゃん、無事でいてくれよ。
巨大な翼、鋭い鱗、地を揺らすほどの気配……。
あれだ、間違いない。ドローンで見たあの竜、バンボルトに連れて行かれた時に空をかすめた影──全部、ジェダくんだったんだ。
その時だった。
「おっさん、あたいを置いてくつもりか?」
背後から声をかけてきたのはシービーだった。
いつもの軽口混じりの調子に聞こえたが、真剣な眼差しが決意の表れのように見える……だけど……。
「シービー、ダメだ。お前は残れ、何が待ち受けているかわからないし、ルクスも心配だ。あいつを守ってやってくれ」
俺がそう言いかけた瞬間、シービーは勢いよく首を振った。
「バカ言うなよ。これは、魔王様の命令だ。詳しくは言えねぇけど、おっさんに悪い虫が付かないように見張っててやる」
悪い虫?
その言葉に、クレアの表情が曇った気がしたが──
「ダメなものはダメだ。このワガママだけは聞けねぇ。今すぐ引き返せ」
「ワガママじゃねぇ! あたいはおっさんに命を救われたんだ。その借りは命で返すって決めたんだ。ここで引き返したら、あたいは一生、自分を許せねぇ!」
「……命を無駄にするために助けたんじゃねぇよバカ野郎っ」
シービーの熱意に、少し躊躇った。
けど、やっぱりこいつを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
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こいつのこういうところ、嫌いじゃないんだよな……自分を見ているみたいだ。
「おい、痴話げんかしてる場合じゃねぇんだよ」
サンダルが鬼の形相で俺とシービーを睨み付ける。
さすがのシービーも狂戦士の気迫に、怯んだ。
「すまんなシービー、ちょっと待っててくれ。きっとすぐ帰る」
「……」
シービーは俯き、それ以上何も言わなかった。
「あの、私はここに残ります」
声の主は、ライオネットの傍に付いていたはずのステラだった。
「そうだな、その方が先生も心強いと思う」
ボルトリアへの帰還は、きっとステラにとっても危険な旅になる……ルクスやシービーが居るココなら、危険な目に遭うこともないだろう。
「電次郎さん……先生を助けてくれて、本当にありがとうございます」
「気にするな。シービー、ステラを頼んだぞ」
「……」
シービーは俯いたままだ。
「行こうっ」
クレア、サンダルと共にジェダくんの背中に乗り、空高く舞い上がった。
もの凄い勢いで上昇し息をするのもままならない。
こりゃいい、この速度ならボルトリアまであっという間だ。
「で、電次郎さん……尻尾に何かが……」
ジェダくんの声に、思わず振り返ると、シービーのやつがジェダくんの尻尾に必死に掴まっている。
「あのバカ」
「引き返すのは許さんぞ……ミカ様になにかあったらお前らをぶん殴るだけじゃ済まねぇからな」
サンダルの低い声に、その本気度が伝わってくる。
ジェダくんは飛行しながら器用に尻尾を俺達の方へと向けた。
俺はすぐさまシービーの体を掴み、抱き寄せる。
「あたいは、本気だかんな」
口を尖らせるシービーに、怒る気力も失った……と同時に、心強くもあった。
「足手まといにはなるなよ」
俺は、小さな体が飛んでいかないように、しっかりとシービーを抱きしめた。
「あたぼうよ」
「調子に乗んな、今みたいな無茶しやがったら絶交だからな」
「……分かったよ」
頬を膨らませながら必死に俺の服にしがみ付くシービーに、ほんの一瞬でも心が救われた。だが胸の奥底では、“ボルトリア壊滅”の言葉が重く沈み続けている。
誤報であってくれ……ミカちゃん、無事でいてくれよ。
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