しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
111 / 130

シービー決意す

しおりを挟む
 魔王城の大広間に、冷たい風が流れ込んできた。
 混乱し、呆然と立ち尽くす俺に、ルクスが声を掛けてくれた。

 「……行くのか」
 その背中を押してくれるような優しい声に、頭の霧が晴れた気がした。

 「すまねぇ、ルクス。ボルトリアに、大切な仲間がいるんだ」
 そう言うと、ルクスは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに凛とした表情を作った。
 「そうか……」
 ルクスは、それ以上、何も返さなかった。けれど、彼女の瞳に一瞬だけ揺らぎが走ったのを俺は見逃さなかった。

 「王や姫様が心配です。電次郎殿、急ぎましょう」
 クレアが俺の腕を引いた。
 真剣な顔の中に、どこか焦りが滲んでいる。

 サンダルは肩に担いだバスターソードを叩きながら、ジェダくんを見て叫んだ。
 「坊主、外に出ろ。俺達を乗せてすぐにでも飛んでもらう。これは命令だ」
 「で、でも……」
 「……頼む、俺が居ない間に、ミカ様にもしものことがあったら……」
 戸惑うジェダくんに、サンダルはゆっくりと頭を下げた。
 あの勝ち気なサンダルが……。

 「わかりました。でも、今度は俺の頼みも聞いてもらいますからね」
 ジェダくんは、人の姿に戻り、魔王城の外へと歩き出す。

 心強い仲間たち。けれど同時に、この先に待つものへの不安で胸が詰まる。
 それでも立ち止まるわけにはいかない。

 「おっさん……」
 みんなの不安を感じてか、シービーが俺の服をつまみ、見上げて来る。
 「悪いなシービー、ちょっと用事ができちまった」
 「でも、いや……そうか、そうだよな」
 シービーは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、俺から少し離れ背中を向ける。

 突然の別れだけど、今はそれどころじゃない。
 ミカちゃん、王様、城や城下町の皆……姫様は、学園だよな? とにかく、心配だ。使える物はなんでも使う。急いでボルトリアに戻ろう。

 ジェダくんの後を追うと、シービーがルクスのもとへ走り出したのが分かった。
 すまないな二人とも、状況を確認できたら、きっと戻ってくる。

♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦

 重い扉が閉じ、足音が遠ざかっていく。
 広間には、ルクスとシービーだけが残された。

 「……魔王様、おっさんのやつ、行っちまうけど、いいのか?」
 「あの顔を見ただろう? 今の私に彼を止める術はない……もっと一緒にいられたら、少しは状況が変わっただろうか……」
 ルクスの寂し気な顔を見上げ、シービーは唇を噛んだ。

 「なぁ、魔王様……あたい、どうすりゃいいんだ?」
 この状況に困惑しルクスに理解を求めるしかできない自分をシービーに、いつもの威勢はなかった。
 「魔王様の命令は、おっさんの世話だろ? 付いていった方がいいのか?」
 シービーの少し震えた声に、ルクスは表情を緩めた。

 「気付いているのだろう? 君はもう私の眷属ではない」
 「……魔王様」
 電次郎に蘇生されたあの日から、自分の中のマナが消えたことは分かっていた。
 ルクスとの繋がりが途切れてしまったことも。
 けれど、それを言葉にするのが怖かった。

 「シービー、もう君は自由だ。自分の信じる道を進めばいい」
 ルクスは静かに膝を折り、シービーの瞳と同じ高さで見つめた。
 シービーは、その魔王らしからぬ優しい声に、涙を浮かべる。
 「だが忘れるな。君が私の子であることは、揺るぎない事実。ここは君の帰ってくる場所だ」
 ルクスはそう囁き、シービーを抱きしめた。

 「魔王様……あたいは、おっさんを追うよ」
 「ああ」
 「絶対に魔王様のところに連れて帰るから待っててくれよな」
 「ふふふ、頼もしいことだ」
 
 シービーは涙を拭い、電次郎を追い掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...