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石化を解除す
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「こんなの、間違っていますわ」
姫様が、涙を浮かべて王様の前に立った。
……親の罪を子が被るなんて、確かに間違っている。
「ミカの心中は推し量れぬ……じゃが、それを生きがいとも言った。我らはその言葉に縋るしかないのだ」
「そんな……」
「ミカちゃんを解放してあげる方法はないんですか? 地面の魔法陣? それを消しちまえばいい」
単純で浅はかな提案かもしれない、でも何も言わずにはいられなかった。
「次代の王になってからは、そういった意見が多くあった。結界の解除に取り組む動きもあったとも伝えられておるが……結界がなくなったその時、ミカがどうなるか、誰も予想はできぬ」
王様の言葉に姫様が口に手をあて、涙を流した。
やってみないと分からねぇじゃねぇか……なんて言えるわけない。
ミカちゃんが死んでしまうかもしれないし、ここを守る結界もなくなってしまう。
大事な物が二つもいっぺんになくなってしまうくらいなら……だからミカちゃんは受け入れているのか……。
「今回の件……これは我らが国に課せられた贖いかもしれぬ……あるいは試練か……」
王は、姫の小さく震える肩にそっと手を添え、静かに続けた。
「ゆえにエネッタ。お前は知らねばならなかった」
「わたくしは……」
姫様は言葉を濁した。すごく動揺しているようだ。
そりゃそうだよな……誰かを犠牲にしたうえでの平和……その国の王族。俺だったら耐えられそうにない。
「そして轟電次郎……お主に話した理由は、ミカがお前に父親を重ねておるからじゃろう」
「お、おれに……」
なんで……いや、出会ったときから親身になって支えてくれていたのは分かっていた。それが、親の償いや、皆の幸せを願うためだなんて思ってもみなかった……。
狭い世界で、何十年も一人で背負って……そして今、結界がなくなって死ぬかもしれない状態にある。
ミカちゃんが、俺のために色々してくれたことへの恩返しをずっとしたいと思っていた……いや、もう俺だけじゃない、みんなのためにしてくれたことへの恩返し……今がそのときなんじゃないのか?
俺にできること……できるだけ多くの家電を出して、みんなを勇気付けること。
厄災の獣を探し出して討伐すること。
ミカちゃんを呪いから解放して、外の世界をみせてあげること。
全部だ。全部やる。
何を、どうやって──
考えるより先に、体が動いていた。
思いつく限りの、ありってけの家電を取り出し、みんなを呼んで披露した。
城内が家電の光と音で彩られ、笑顔と驚きの顔でいっぱいになっていく。
今、俺にできることはこれくらいしかない……けど、必ずミカちゃんを……。
どうにもならない思いを、どこかへ追いやるように体を動かしていると──
「電のじぃ──」
短い呼び声が、ざわめきの隙間をすり抜けて届いた。耳慣れた呼び方に、俺は思わず顔を上げる。声の主はミカちゃんだ。いつもの淡い微笑の裏に、どこか決意を帯びている。
ミカちゃんに導かれて、俺たちは城下の広場へと向かった。そこには荷車が一台、その上で木枠にしがみつくようにして、幼い男の子が泣き出しそうな顔のまま石へと変わり果てていた。きっと荷馬車で逃げようとしたとき、異形に襲われたのだろう。
「ひでぇことをしやがる……」
俺の言葉に王様は黙って頷いた。姫様は目を伏せている──やはり辛そうだ。
「ゆっくりとじゃ……」
ミカちゃんは自分に言い聞かせるように小声で呟いた。
そして、ミカちゃんの掌の内側から湧くような淡い光が石像へと放たれる。
「これは……マナ?」
「そうじゃ、異形に気付かれぬよう微量のマナを注いでおる」
すると、マナは石の内部へと浸透し、内面から淡い光が漏れ出した。
そして、石の表面が溶け始め、亀裂が走り粉が舞うように光となって消えていく。
「息を──」ミカちゃんが囁くと、石化していた男の子がごぼっと咳き込み、落ち着いたと思った瞬間、大きな声で泣き出した。
見ていた姫様がすぐさま抱き上げ、荷馬車から降ろしてあげた。
「怖かったでしょうに……」
姫様の震える声に、男の子は鼻をすすりながら、必死に泣くのを堪えた。
「ミカちゃん、これは?」
「異形の隙を見て、石化した町民数人を城内に運び込んでもらい、石化の解除方法を模索しておったのじゃ」
「なるほど、マナを吸われて石になったのなら、マナを注げば元に戻るということか」
王様が顎鬚をなぞりながら目を潤ませた。
「異形どもに感知されぬよう、少量ずつしか注入できんが、これで三人目じゃ。解除法はこれで間違いないじゃろう」
ミカちゃんが額の汗を拭い、静かに微笑んだ。
「みんなを助けることができるっ。凄いよミカちゃん!」
「問題は山積みじゃがな……」
外があんな状態じゃ石化している人たちを連れて来るのは困難。雨風で石が壊れてしまう可能性もある……たしかに問題はあるけど、エルナや村のみんなを救えるって考えただけで十分だ。
姫様が、涙を浮かべて王様の前に立った。
……親の罪を子が被るなんて、確かに間違っている。
「ミカの心中は推し量れぬ……じゃが、それを生きがいとも言った。我らはその言葉に縋るしかないのだ」
「そんな……」
「ミカちゃんを解放してあげる方法はないんですか? 地面の魔法陣? それを消しちまえばいい」
単純で浅はかな提案かもしれない、でも何も言わずにはいられなかった。
「次代の王になってからは、そういった意見が多くあった。結界の解除に取り組む動きもあったとも伝えられておるが……結界がなくなったその時、ミカがどうなるか、誰も予想はできぬ」
王様の言葉に姫様が口に手をあて、涙を流した。
やってみないと分からねぇじゃねぇか……なんて言えるわけない。
ミカちゃんが死んでしまうかもしれないし、ここを守る結界もなくなってしまう。
大事な物が二つもいっぺんになくなってしまうくらいなら……だからミカちゃんは受け入れているのか……。
「今回の件……これは我らが国に課せられた贖いかもしれぬ……あるいは試練か……」
王は、姫の小さく震える肩にそっと手を添え、静かに続けた。
「ゆえにエネッタ。お前は知らねばならなかった」
「わたくしは……」
姫様は言葉を濁した。すごく動揺しているようだ。
そりゃそうだよな……誰かを犠牲にしたうえでの平和……その国の王族。俺だったら耐えられそうにない。
「そして轟電次郎……お主に話した理由は、ミカがお前に父親を重ねておるからじゃろう」
「お、おれに……」
なんで……いや、出会ったときから親身になって支えてくれていたのは分かっていた。それが、親の償いや、皆の幸せを願うためだなんて思ってもみなかった……。
狭い世界で、何十年も一人で背負って……そして今、結界がなくなって死ぬかもしれない状態にある。
ミカちゃんが、俺のために色々してくれたことへの恩返しをずっとしたいと思っていた……いや、もう俺だけじゃない、みんなのためにしてくれたことへの恩返し……今がそのときなんじゃないのか?
俺にできること……できるだけ多くの家電を出して、みんなを勇気付けること。
厄災の獣を探し出して討伐すること。
ミカちゃんを呪いから解放して、外の世界をみせてあげること。
全部だ。全部やる。
何を、どうやって──
考えるより先に、体が動いていた。
思いつく限りの、ありってけの家電を取り出し、みんなを呼んで披露した。
城内が家電の光と音で彩られ、笑顔と驚きの顔でいっぱいになっていく。
今、俺にできることはこれくらいしかない……けど、必ずミカちゃんを……。
どうにもならない思いを、どこかへ追いやるように体を動かしていると──
「電のじぃ──」
短い呼び声が、ざわめきの隙間をすり抜けて届いた。耳慣れた呼び方に、俺は思わず顔を上げる。声の主はミカちゃんだ。いつもの淡い微笑の裏に、どこか決意を帯びている。
ミカちゃんに導かれて、俺たちは城下の広場へと向かった。そこには荷車が一台、その上で木枠にしがみつくようにして、幼い男の子が泣き出しそうな顔のまま石へと変わり果てていた。きっと荷馬車で逃げようとしたとき、異形に襲われたのだろう。
「ひでぇことをしやがる……」
俺の言葉に王様は黙って頷いた。姫様は目を伏せている──やはり辛そうだ。
「ゆっくりとじゃ……」
ミカちゃんは自分に言い聞かせるように小声で呟いた。
そして、ミカちゃんの掌の内側から湧くような淡い光が石像へと放たれる。
「これは……マナ?」
「そうじゃ、異形に気付かれぬよう微量のマナを注いでおる」
すると、マナは石の内部へと浸透し、内面から淡い光が漏れ出した。
そして、石の表面が溶け始め、亀裂が走り粉が舞うように光となって消えていく。
「息を──」ミカちゃんが囁くと、石化していた男の子がごぼっと咳き込み、落ち着いたと思った瞬間、大きな声で泣き出した。
見ていた姫様がすぐさま抱き上げ、荷馬車から降ろしてあげた。
「怖かったでしょうに……」
姫様の震える声に、男の子は鼻をすすりながら、必死に泣くのを堪えた。
「ミカちゃん、これは?」
「異形の隙を見て、石化した町民数人を城内に運び込んでもらい、石化の解除方法を模索しておったのじゃ」
「なるほど、マナを吸われて石になったのなら、マナを注げば元に戻るということか」
王様が顎鬚をなぞりながら目を潤ませた。
「異形どもに感知されぬよう、少量ずつしか注入できんが、これで三人目じゃ。解除法はこれで間違いないじゃろう」
ミカちゃんが額の汗を拭い、静かに微笑んだ。
「みんなを助けることができるっ。凄いよミカちゃん!」
「問題は山積みじゃがな……」
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