しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
2 / 130

おっさん撃沈す

しおりを挟む
 草の匂いが、やけに濃かった。

 目を開けると、どこまでも広がる草原。空は青く澄み、風は肌をなでるようにやさしい。

 「……あれ、俺……?」

 頭がズキズキと痛む。酒のせいか、感電のせいか、記憶がふわふわと曖昧だ。

 ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。木々の葉は妙に大きく、緑というより青みがかっている。足元に咲く花も、どこか異様で、虫のようなものが飛んでいるが……形が明らかにおかしい。

 「空気も……なんか、軽いっていうか、澄みすぎてる……?」

 違和感がじわじわと積もっていく。
 ここは、俺の知っている日本じゃない。いや──地球ですらない。

 「……まさか、異世界……死んだのか、俺……」

 ぽつりとつぶやいたそのとき、視界の端に見慣れた物体が映った。

 「……レンジ?」

 草の上に鎮座していたのは、あの電子レンジだった。修理中だったやつに貼られた、花屋のおねーちゃんのメモ書きがそのままついている。

 「こいつも一緒に……転生?」

 まさかとは思いつつ、天板にそっと手を触れる──

 バチバチッ!!

 「うおっ!?」

 手に走る刺激。そして、パネルがピカッと光った。

 「通電してる……? いや、俺が触ったから……?」

 思わず自分の手を見つめる。もう一度、レンジに触れてみる──

 チンッ。

 「……直ってる……って、いやいやいや、そうじゃねえ!」

 俺が触ると動く。コンセントも電池もない。ってことは──

 「俺、電気出してんのか? 感電したから? いやいやそんな馬鹿な」

 そのときだった。

 「キャアアアアア!!」

 悲鳴が草原の向こうから飛んできた。

 目をやれば、小さな丘を少女が転がるように駆け下りてきている。その背後には、歯をむき出しにしたゴブリンが三匹。小柄だが、明らかに敵意満々で追いかけてきている。

 「おいおい……初っ端からモンスターとか、聞いてねぇよ……!」

 けど──

 「助けねぇ理由があるかよっ!」

 俺は、ためらわずに電子レンジを抱え上げた。
 家電は電気屋の誇りであり、命を預ける相棒……
 だが今、この状況じゃ──

 「くらえぇぇっ!!」

 相棒にも砲弾になってもらうしかない!
 ごめんな、花屋のおねーちゃん……レンジ、ちょっとだけ借りるぜ!
 勢い任せで、俺は電子レンジを全力で投げつけた。

 「ギャァ」

 ゴブリンが叫ぶ。脳天直撃。無事なわけがない。

 「キィィィィ、ワリュワリョワリョォォォーーーー」

 額から緑色の液体を垂らしたゴブリンが、今度はこっちを睨んできた。残りの二匹とアイコンタクト。……はい、来た。

 「上等だ。こう見えて、柔道も剣道も初段持ってんだ。なめんじゃねぇぞ、ゴブリン共……っ!」

 ──三秒後。

 「いてぇぇ! やめろ、すみません、ほんとすみませんっ! 死ぬってマジで死ぬってぇぇぇ! ……三対一は卑怯だろぉ……」

 叫んだところで容赦はなく、こん棒でフルボッコ。
 柔道も剣道も、数と木の棒には勝てなかった。

 「骨……二、三本は……いったな……」

 うずくまりながら呻く俺を尻目に、ゴブリンたちは気が済んだのか少女の方へと向かいはじめた。

 「ヒッ……」

 少女は涙を浮かべ、腰を抜かして震えている。

 「くそっ……助けねぇと……!」

 草むらに転がる電子レンジの電源コードが、視界に入った。

 俺は藁にもすがる思いでコードのプラグを握り、叫んだ。

 「やめろぉぉぉ! 俺はまだ、俺はまだ負けちゃいねぇぞおおおおおっ!!」

 全身の力を込めてコードを引き寄せた。
 コードは綱のようにピンと張り、俺はそれを手繰り寄せながら、少女のもとへ突っ込むつもりだった。

 だが──その瞬間、手の中から何かが走った。

 「うおっ……な、なんだ今の……!?」

 手からレンジへ、まるで電流のような感覚が駆け抜けていく。肌が逆立ち、全身の毛穴がビリビリする。

 そしてレンジが震え、パネルがギラリと赤く光った。

 ビリビリビリッ……!

 「え……なにこれ……俺の中から電気が……!?」

 コードを通じて、まるで洪水のように俺から“何かががレンジへと送り込まれていく。  パネルがギラリと赤く光ったかと思えば、レンジ全体がジジジと震えだした。

 「やばっ、ちょっ、ちょっと待っ──」

 ジジジジジッ……!

 チンッ。

 電子レンジは、轟音とともに爆発した。

 「キィィィッ!!」

 破片が飛び散り、ゴブリンたちの背中に突き刺さる。

 少女はゴブリンたちの陰にうまく隠れていたようで、傷ひとつなかった。

 「よ、良かった……」

 驚いたゴブリンたちは振り返ることなく逃げ出し、草原の彼方へと消えていった。



  「うあっ、たしゅ……でゅん……」

 少女が泣きそうな顔で、わけのわからない言葉を必死に口にする。

 ……まったく何を言ってるのかは分からねぇ。

 だけど、その震える声と、俺の手を握る小さな手が、全部を物語ってた。

 「助かって……よかったな……」

 そう、ひとことだけ呟いたあと、まぶたがどんどん重くなるのを感じた。

 心配かけまいと、最後くらいは笑顔で。

 ──これで、俺も……もう、心残りねぇぜ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...